イベントレポート詳細Details of an event

第80回 AGC Studio Design Forum
AGC リノベーション展+DESIGN 基調講演
 「リノベーションにより開かれる建築」

2017年10月17日(木) 開催
講演会/セミナー

「建築を取り巻く分野の『しごと』としての可能性は、今まさに大きく広がる時機を得ている」

 

松村 それから「行動する仲間をつくる」ということが大事です。これは、リノベーションをまちづくりとか、地域再生といったレベルまで使っていこうとする時、あるいはそういうことじゃないとリノベーションは動いていかないということがある。自分のまちで何かやろうとしていても孤立している人がいっぱいいる。それをつないだ例が、僕らが2008年くらいに始めた「リノベーションスクール」です。北九州から始めたのですが、3、4日間のブートキャンプ方式でやります。泊まり込みで北九州に来てやる。そして例えば100人の生徒が集まったとすると、オーナーを説得して、イノベーションをして、新しいコンテンツを入れて、事業費にいくらかかって、収益性がどうだ、など10人ごとのグループをつくって4日間、考えるのです。そして最後、その実物件のオーナーさんたちの前でプレゼンしてもらうのです。いろんな地域からリノベーションでまちを変えたいという人が集まってきていたんです。

 

彼らがお互いに知り合いになって帰っていく。その仲間がどんどん増えていって、僕はもうこのスクールに直接かかわっていませんが、去年は全国40か所でスクールが開かれている。この写真はその発表会のシーンですが、空間資源のオーナーさんたちを巻き込むというのが重要です。オーナーがいなければ箱がまったく出てきませんから。場をつくろうと思っても箱が出てこないとできない。で、箱を出すオーナーの人たちを集めて最後のプレゼンをします。オーナーさんが気に入ればそのまま事業化するというかたちをとっていて、北九州では30くらい事業化しています。

 

それから、建築の設計をしているということだけではどうにもならなくなってきている。そこで不動産とか、IT系の人とか、飲食とか、あるいはただのお祭り好きとか、そういう地域の中の違う人たちとつながっていくことで生まれる動きがどんどんでてきている。これは長野の善光寺の門前町の例ですが、ここは一本裏に入ると、本当に空き家だらけです。築90年とか100年とかの空き家。で、そういうところにここ5年間くらいの間に、80個のスモールビジネスが埋め込まれていっているのです。その80のスモールビジネスをやっている人たちは、もともとこのあたりに住んでいた人たちではない。どこかから移住してきて、起業して善光寺の門前町に埋め込まれている。飲食だったり、ショップだったり、ゲストハウスだったり、と。それを促進したのがまったく異分野のふたつの人たちの出会いでした。

 

一つはナノグラフィカという企画や編集をやっている事務所。そこのリーダーの女性が空いている町屋で暮らすのが素敵という冊子「門前暮らしのすすめ」をつくって、そういうライフスタイルが素敵ですよ、という写真集を出したのです。この冊子が、長野の駅から善行寺までに至る門前町のいろんな店においてあるんです。来た人がちょっと見て、「えっ、こんな暮らしできるの?」と。もう一つは、地場で設計・請負、不動産流通をやっている、倉石智典さんという方がいて、この倉石さんが空き町屋を仕入れてきて、1か月に1度見学会を開いていた。このライフスタイルに憧れたら、見学会を紹介される。見学会に出てくるたびに違う物件を見られるのですけれど、そうやって実物件を見ながら考えられる、と。

 

もう時間ですので、飛ばします。最後に「建築を卒業する」と記しましたが、歳をとると、もう卒業は無理なんです。僕じゃぁ、無理。でも建築で教育を受けた人で20代や30代の人の場合ということですけれど、建築のことばかり考えていたら、もうだめです。この世界で建築のことしかわからないというのでは生きていけなくなります。NHKの『プロフェッショナル』に出ていた大島芳彦さんがいい言い方をしていて、「松村先生、これからはマルチリンガルの時代ですよ」と。母国語は要るんです。建築だったり不動産だったり、それぞれ母国語はあるでしょう。これまではその母国語だけで食えた時代だった。今の時代は、食えないし、母国語だけではおもしろいことなんかできない、と。母国語ができて、さらに他の複数言語が、めちゃくちゃ詳しくなくても、聞いて分かるとか、日常会話レベルならできる、とか。不動産や金融、あるいは飲食や物販の世界を理解できると。そういうマルチな技能を身に着けておくために、いったんは建築から離れて母国語以外を話してみないと、そういう境地に達しないだろうと。

 

私たちのこの「箱の産業」だった仕事は、これからたぶん、抽象的に言うと、こういう風に変わります。「まちに暮らしとしごとの未来を埋め込んでいく」と。工事もあったり、不動産の仲介もあったり、いろいろするけれど、結果的にはこういうことをする仕事です。これは建築を取り巻く分野の「しごと」が広がっているという理解ですね。ビジネスチャンスという言い方がふさわしいかどうかはわからない。だけれども、社会で何か面白く活躍できる舞台というのは広がっている。そこのところをポジティブに見て、新しい活動の形態を生み出していく。新しい仲間と仕事したりしていくことが、リノベーションという概念が秘めている新たな可能性だと思います。もちろん、リフォーム的な工事のことも大事ですけれども、今日は、そういう大きな意味でのお話をさせていただきました。長時間、ご清聴、ありがとうございました。

 

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