イベントレポート詳細Details of an event

第80回 AGC Studio Design Forum
AGC リノベーション展+DESIGN 基調講演
 「リノベーションにより開かれる建築」

2017年10月17日(木) 開催
講演会/セミナー

「建築を出た人がどうすればいいのか、何をすれば仕事になるのか」

 

松村 それで出てきたのが、ここに示す「久米まり」さんみたいなカリスマDIY主婦です。久米まりさんは、この世界で超有名になっています。この左下の画像はURが久米まりさんと組んじゃっている。この人は、ただ自分の家をDIYで直し始めただけなんです。大阪の公営の築30年くらいの家が、ボロボロで、新婚時から暗澹たる気分になったと。1か月くらいそういう気分でいる時に、ご主人から気分転換にホームセンターに行ってみるか、と誘われて、何も期待せずにホームセンターへ行って、そこで開眼する。突然、自分でバンバンリフォームし始めた。この久米まりさんのノウハウがすごいのは、旧状復帰ができるのです。さきほどまでのは復帰しなくていいということでしたが、公営住宅ですから元に戻さなければいけない。

 

あるスーパーゼネコンの設計部の人が、久米まりさんがやっているDIYのセルフリノベーションスクールに生徒として参加しまして、その打ち上げの時に名刺交換して「なんでスーパーゼネコンの人が来てるの?」と聞いたら「だって先生、久米まりですよ! 本人に習えるんですよ!」と言うんです。僕はその頃、まだ久米まりさんのことをよく知らなかったから「それ誰?」と聞いたら「先生、久米まりを知らないんですか!」と言われたんです。久米まりの何がすごいかと聞くと「久米まりさんは、ディテールがすごい」と言うんです。とにかくそういう人が出てくる時代ですから、まったく新たな段階に入ってきた。自分でやる。久米まりさんがどうやってここまで来たかというと、化粧品を買うか、建材を買うかと迷ったら、化粧品を買わずに建材を買って、ここまで来ましたというんです。

 

残り10分になってきたのでまとめに入ります。私は建築学科というところにいますから、建築を出た人がどうすればいいのか、何をすれば仕事になるのかを考えるわけです。これだけ利用者、生活者が中心になってここまで民主化が進んだら、プロは何ができるのだろうか、と。できることとすればこれです。まず、「圧倒的な空間資源を可視化する」ということ。これはいわば、不動産の領域にちょっと踏み込んでいかないといけないことになるのです。

 

こちらは北九州の小倉の例ですが、例えばリノベーションまちづくりと呼ばれている人たちがやっているのは、まちの中にどれだけの空いているビルや空き家があるかをこうしてマップに落とし込んでいく。しかもオーナーに情報を出してもらう。どんな情報かというと、プロパティのマネジメントに関係するような例えば、新耐震かどうか、また電力供給や配管はどうなっている、階高、築年数、以前の用途が何で、どうしてテナントが出ていったのかなど、そういう建物に関する情報を、この写真の裏に持っていて、このビルのここが空いているのなら、ここにパン屋に来てもらおう、という募集をかけていったりします。重要なことは、このまちの中で結構信頼されているオーナーの1人が、自分のビルで1つやってみる。そういう成功例が出ると、あともついてくる。こういう1個目のハードルを乗り越えると、圧倒的な空間資源を可視化した中でまち全体として考えていくことができる。新しいコンテンツを埋める、そこには設計を伴ったり、工事を伴ったりする。

 

それから、この写真に写っているのは「たまむすびテラス」というURさんの築50年以上経つ多摩平団地です。5棟残っているからどうしようかと困っていたのです。そこで千代田区の例と同じでサブリースで事業者を募集したのです。3つの事業者が借りています。そこを大きなランドスケープデザインがまとめて、たまむすびテラスというブランドにしています。ここの場合も一つの典型ですが、例えばこの1棟はシェアハウスにしています。主に学生です。ある大学が借り上げて国際学生寮として使っているのもあります。そういうものにしているのですが、個々のシェアハウスではキッチンがいくつかあるのですが、このダイニングに集まっている人たちに利用の構想力があるにしても、いきなり団地全体を借り上げてしまうということはないのですね。利用の構想力は、小さい空間で足りるという思いをまとめて、刺激して、組織化していく。

 

やはりサブリースで組織化して「利用の構想力を引き出して組織化する」という仕事があります。それから、場のしつらえ、場をつくっていくわけで、明らかに気持ちいいとか、集まりやすいということがあるわけで、その「場の設えについて情報共有する」。そのことで利用の構想力がより高まっていく。今日は時間がないので、あまり話せませんけれど、昔これをいちばんやっていたのがクリストファー・アレグザンダーの「パタン・ランゲージ」です。1970年代に書かれた本ですが、普通の人たちが、言語化できるかたちで空間の事柄をパタンというものにした。例えば座れる階段というパタン。これは典型的なもんです。座れる階段と言っただけで、「ああ、いいね」と思う。座れる階段があればいいと、普通の人も使えるわけです。そういうパタンがこの本には250ほどあって、その中で好きなパタンを選んできて自分で設えを考えてくる、と。

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