イベントレポート詳細Details of an event

第80回 AGC Studio Design Forum
AGC リノベーション展+DESIGN 基調講演
 「リノベーションにより開かれる建築」

2017年10月17日(木) 開催
講演会/セミナー

「地方での生活を選ぶ、という生き方」

 

松村 また時代状況として移住というものにも表れているように、若い人たちを中心に、生き方に対する明確な動きがあります。一番典型的なのは首都圏から西日本の地方へ、山村や過疎の村へ引っ越す、という動きです。有名なのは徳島県の神山町というところですね。こうした移住を仕掛けている「ふるさと回帰支援センター」というものが、有楽町の交通会館の中にあります。ここを最初につくった時、連合や経団連のサポートによってできたのですが、当時は戦後のベビーブーマーたちに定年後に住みたい場所のアンケートをとったら、条件さえ整えば自分の故郷に帰っていい、という人が多かった。40数パーセントもあった。そういうことから、定年後の人たちをサポートしようとつくったセンターだったのです。ところが、今利用する人たちの8割がたは40代までの人。要するに若い人たちのようです。定年後という方もいますが、それはむしろ少数で、若い人が来ている。

 

この画像は広島のサイトで「HIROBIRO」というものです。ここを見ると、各市町村での生き方が紹介されている。この人なんかは、キャリア官僚だったのが、どういう理由かわかりませんが、広島に移住して今、自分が輝いている、と語っている。他にも移住して夫婦でパン屋を始めるなど、それぞれストーリーが紹介されている。そうすると、広島へ行くと、こういう生き方をできるのか、と。その前に触れた徳島の神山町に至っては、もう「仕事ごと来てくれ」と言っている。神山町に来てもらっても仕事は用意できない、と。この神山町には空き家がたくさんあるのですけれど、ここの空き家にはパン屋に来てほしい、などといったコンテンツを移住者に要求できるブランド力を持った自治体になっている。実際「パン屋募集」ということで募ると、全国からパン屋の修業をしている人や、外国から日本に戻ってきて開業したいなどという人がいっぱいいて公募してくるんだそうです。過疎だった町に、今やイタリアンのレストランが2軒できたりして、人口も年齢構成も変化してきている。

 

こうした移住を支える生き方のコンセプトの代表的な表現として「高品質低空飛行」という言い方があります。移住して、自然に囲まれ、リラックスして生きられる。満員電車に乗る必要もない。非常にゆったりしたオフィス環境、スペースがある。これは、神山町に企業ごと引っ越してきて、この1軒屋を丸ごとオフィスにしているという例です。こういう人たちが集まるのだけれど、生活コストは非常に低くて済む。で、生活の質は非常に高い。もちろん、東京に居た時ほど稼げるかというとそんなには稼げない。よく言われるのは「多職化」というキーワードです。そういうところへ移住して例えば5つの仕事を持てば暮らしていける。1つずつが月5万円ずつで5つの仕事をすると年収は300万円だ、と。でもこういう過疎の山村だと年収300万円でも余っちゃうんですね。野菜なんか、近所のおばあちゃんが持ってきてくれる。「新鮮なとれたてが来て、みんなで鍋やってます」とSNSで発信される。その食べ物のおいしそうな様子を見て「俺も行きたい」ということになる。神山町は「神山塾」という起業の塾まで開いていたりする。この神山塾に来る人の9割が東京の女性らしいです。女性が来て、起業の仕方を、田舎で暮らすには何が必要かを教わって、そのまま居ついちゃう人が結構いるらしいですね。こういう移住がある。

 

それをアートにしている、「暮らしかた冒険家」の池田・伊藤夫妻という人たちまで出てきた。「君たちの生き方自体がアートだ」と坂本龍一に評された人たちです。首都圏からいったん熊本に移住していたんだけれど、それから北海道に移住した人たちです。その彼らが「高品質低空飛行」という表現を使っている。「私たちの暮らしは、品質があなたたちより高いです。だけども、自分たちの親の世代から見ると低空飛行に見える、と。例えば年収が300万円しかない」と。親からすれば「今はいいかもしれんが、将来、どうするんだ」と。僕の関わるシンポジウムで一度、この池田さんを呼んだのです。講演をしてもらったら、すごく感動的で、実はご両親もそのシンポジウムに来られていたんです。聴衆として。で、ご両親もその講演に心を打たれたという。伊藤さんたちは自分たちの親の世代に向かって言う。「あななたちはあまり考えずに生きてきただろう、と。私たちはあなたたちよりも生き方についてずっとよく考えている」と言うのです。

 

伊藤さんたちに限らず、そういう価値観で動いている人たちが、こういう空き家のちょっとしたリノベーションの需要を作り出している。彼らが自分でそれをやる時に、それを支えるホームセンターなどが今や充実していますよね。ネット上でセレクトショップ的に運営するtoolboxみたいなものまで現れてきているわけですよね。自分たちで考えてしつらえるためのいろんな物的資源は、新しい流通で支えられるようになってきています。

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