イベントレポート詳細Details of an event

第80回 AGC Studio Design Forum
AGC リノベーション展+DESIGN 基調講演
 「リノベーションにより開かれる建築」

2017年10月17日(木) 開催
講演会/セミナー

「箱の産業」から「場にしていく産業」へ

 

松村 繰り返しになりますが、なぜ、いまリノベーションの時代になっているかという意味を1つ例にしてあげると、人口当たりの住宅の数を見ると、アメリカでは2010年の時点で1人当たり0.42戸の住宅を持っています。一方、日本は1人当たり0.48戸持っているという統計になります。もちろん、住宅1戸当たりの規模が違うとか、庭があるとか、細かい点は違うと思います。ただ、数からいえば、驚くべき数なのですね。何せ、アメリカという国はあの大きな世界大戦で国土がまったく焼けていません。第二次世界大戦以前の建築ストックをそのまま丸ごと引き継いでいるわけです。一方、日本はというと大きな爆撃を受けて主要な都市部はだいたい焼け野原になりました。つまり戦前の建物の多くが戦後に引き継がれていない。圧倒的に建物が足りない時代から今に至っているわけです。アメリカはそのようなたっぷりのストックを受け継いできた国であり、さらに世界的に見ても、たくさん新築をしてきた国ですよね。確かにリーマンショック以降は年間50万戸を切るなど減ってきていますが、いちばん勢いのある時などは年間200万戸とかつくってきた国です。こういう新築市場が活発で、なおかつ戦前のストックを引き継いでいるアメリカで「0.42戸」なのに、あの何もなくなってしまった状態からスタートした日本が「0.48戸」というのはすごい。本当にすごい投資をしてきたわけです。

 

今、マスコミをはじめ、いろんなところで使われる「空き家問題」という言い方は、過去の日本人に対して失礼である、と思うのです。僕も、今、こう言いながら、違う場所へ行くと「空き家問題」と言ってしまう恐れがあるんですが(笑)、ここに書いてあるように、これは「問題」ではなく「資源」なんです。国民が総出で35年ローン組んで住宅を建てて、ローンが終わる前に亡くなってしまった人もいる。個人も国も命がけで住宅に投資してきた結果が、これなんです。もちろん、幽霊屋敷のようになって火災の危険、倒壊の危険などがあるものは別でしょうが、これは問題ではなく、資源なんです。空き家すべてが問題であるかのように扱うのは姿勢として間違っている。日本は、今まで人類が見たこともないくらい豊かな空間資源を持っている、ということを前提にして、そこで何が起こるかを考えないといけない。

 

そこで起きる典型的な例として知られているのが、廃校のリノベです。私も当初から縁のあったプロジェクトなんですが、廃校がアートセンターになった「3331Arts Chiyoda」というのがありますね。これは千代田区立の旧練成中学の校舎を改修した例です。東京メトロ銀座線で、ここ京橋から乗って末広町で降りると、徒歩2分くらいです。神田近辺の主だった老舗のご主人の方々は旧練成中学を出ています。ところが、練成中学は10数年前に統廃合によって学校ではなくなっていました。それが、2013年に年間80万人が訪れるアートセンターに姿を変えたわけです。2010年にオープンして数年後にはそういう施設になった。この写真にあるように、近所の小学生が毎年、ヒマワリの種をまいて、夏になると、この壁一面にヒマワリが咲くという活動を、日比野克彦がプロデュースするとかいうことは一例にすぎませんが、いろんなコンテンツが入って、とても面白いことになっているわけです。これがなぜ、こんなことになったのかが、重要なのです。ここに行ってみるだけで学べることもあります。

 

例えば、リノベーションの設計としてどうなのか、ということを見る際、この大階段がいいとか、公園をエントランスにしたのが良かった、などという要素はもちろんあります。でも、プロジェクトの起き方が最も重要なポイントで、それは、ここを経営している主体なんです。千代田区さんがこの空いた建物の使い方がわからず、どうしたらいいかと悩んでいる時に、望む事業者に対してサブリース方式を前提に貸す、という決断をした。サブリースで貸し出すということは学校を丸ごと一つの契約で一つの事業者に貸してしまう、ということですね。その事業者が今度は経営者になって他の人たちに部分貸しをするなりして、とにかく収益性のある事業をして、経営が可能な状況にして千代田区が設定する家賃を毎月納めるというもの。そういう事業者を募集します、ということをやったのです。

 

実は、その募集よりも前から、中村政人さんというアーティスト、東京藝大教授が、次のようなことを考えておられた。彼は東京藝大ですから、居る場所が上野ですよね。上野という土地は、(藝大の美術学部の前身である)東京美術学校もそうですし、ル・コルビジェの国立西洋美術館もありますし、その向かい側には前川國男の音楽堂もある、また東京都の美術館、これも前川さんが設計したものですよね。さらに国立博物館などがある。あれは何か、というと日本の政府がオフィシャルに、ここがアートの中心地です、上野がアートの中心です、と言っているわけですよね。東京の中であそこに肩を並べられる場所はありません。上野はそういう土地です。

 

一方、その上野から山手線で2駅の場所に秋葉原があります。この秋葉原は政府とは関係のない場所、オフィシャルでない場所ですが、世界に対しては非常に発信力のある場所ですよね。上野よりも発信力がある。このオフィシャルでない秋葉原とオフィシャルである上野の真ん中くらいに、世界や日本中の若いアーティストが集まるセンターがあるといいのに、と中村政人さんは思っていた。そんな風に思っているところに、この話が出た。学校だったから面積が大きい。600人が入れる体育館もある。そこで思い切って事業会社をつくろう、となった。

 

今、リノベーションまちづくり系の、ある種、教祖的な見られ方をしている清水義次さんに、中村さんが相談に行ったんです。すると「すぐ会社をつくりなさい」とお告げみたいに(笑)、言ったと。清水さんも一枚加わったかたちでコマンドAという会社ができた。今もそこが3331をやっています。何を言いたいかというと、利用の構想力です。住宅などの建物に限らないのです。何かやりたい活動があって、もしも建物が空いていれば、こんな風に使う、という構想力が先に存在している。で、空いている建物が見つかったから、「はい!」とその構想力を実行する。建築の専門家でない人でも、利用の構想力がある。で、あとはリノベーションの設計建築に頼んだり、工事会社を選んだりしていく。プロジェクトがそのように起こっていく。

 

今まで我々の産業(建築)がいちばん重要視してきたことは、きちんとした箱を、きちっと約束通りデリバリーする、というものでした。これを「箱の産業」と呼びます。建築は箱の産業でした。しかし、仮に、これから新しい箱を届ける必要がない、とする。「箱はもうあります。たくさん空いてます」とする。そうなると、その箱を、どのようにしてそれぞれの時代にふさわしい場にしていくか、ということが重要になってくる。こういう「場にしていく産業」、いわば、ハードウェアの産業からコンテンツの産業に変わっていく。もちろん、コンテンツに変わったからといって工事を伴わないわけではない。例えば、ガラスがまったく売れないということではない。コンテンツが中心で、それに伴っていろんなことが起こっていく。

1 2 3 4 5 6 7 8