イベントレポート詳細Details of an event

第80回 AGC Studio Design Forum
AGC リノベーション展+DESIGN 基調講演
 「リノベーションにより開かれる建築」

2017年10月17日(木) 開催
講演会/セミナー

「第二世代」の民主化の特徴、そして「リノベーションの時代」=「第三世代の民主化」

 

松村 一方、木造の小規模の工務店、地域の工務店がやっている中身もその世界に突然追いついてしまった。プレカットの登場ですね。全自動で、アリ(蟻継ぎ)とかカマ(鎌継ぎ)とか、そういうノミコミの寸法とかの加工を正確にしてくれる。木造住宅の柱や梁は、一軒一軒、どこにほぞ穴を空けるかなど全部違うのです。いの1番といの2番は違うのだけれども、それをコンピュータに入力すれば、全部機械がやってくれる。人は材料を投入するだけでいい。こういうプレカット機械が1990年頃に生まれたのです。そのことにより、今や木造の工務店、例えば年間に1、2棟しか新築を手掛けないところでもプレカットを使うようになった。

 

おそらく木造の軸組み工法、在来工法と呼ばれるものの少なくとも9割はプレカットによってできている。プレカットロボットを持っている工場は全国に600から700か所くらいあるんですね。これによって、大きな住宅メーカーがずっと積み上げてきた、工場の生産技術、均質化、平準化しながら個別化もしてきた製造および営業体制、これは外注の下請けメーカーまで含めて苦労して構築してきたものですが、工務店の仕事もそういうやり方に追いついてしまったわけですね。というか、工業化住宅の大きなメーカーを飛び越えてしまったのです。もともと木造住宅は佐藤さんと田中さんの家を違うようにつくるのは当たり前だったわけです。そこにプレカットが入ってきていっそうやりやすくなった。いずれにせよ、そうした背景により、生活者がある程度の範囲の中で自由にチョイスできる。産業レベルでもそうなってきたというのが、「第二世代の民主化」の特長です。

 

本当なら、ここまでの歴史を振り返るだけでも、もっといろんな話があるんです。例えば思想的な話などもあるのですが、それは端折りまして、今日の本題である「リノベーションの時代」に移りましょう。これは「第三世代の民主化」と位置づけています。先ほど、大阪の中谷ノボルさんが「民主化」と言ったのは、この第三世代のことです。2000年代以降の話です。直近の統計、あれからまた25年を経た2013年の統計を見ますと、さらに住宅が増えています。2000万戸くらい増えて、6600万戸になっています。世帯数もかなり増えて、1300万世帯ほど増えて5250万世帯になりました。引き算すると、1000万を遥かに超える空き家が出て、今、マスコミに注目されるような13.5%もの空き家率になったわけです。次回の統計調査は、2018年に調べて2019年くらいに公表されると思いますが、空室率はまた上昇しているでしょう。こんなに高い空き家率の国は、他にありません。13.5%という空室率が示すような、ものすごい数のストックをもっているわけです。こういう流れの中で、時代が変わったと思うのは次のようなことです。

 

建物に十分なストックがある、と。また知識や技術も十分ある。それを何かに利用する構想力の時代に入ってきているのです。では、何に利用するのか? それは人の生き方の実現です。そこがポイントだと思っています。私は、ずっと建築学科にどっぷり浸かってきた人間です。そういう建築学科が、人の生き方をテーマにしたことがあるか? というと、ありません。人は勝手に生きる、という前提で建築をやっていますよね。もちろん、例えばキッチンをどう使うか、とか、夫婦や親子の会話がどうなるのか、近所とのコミュニティー形成をどう図るか、などある種の設定で設計をしているけれども、それは生き方全体ではありませんよね。人の生き方というのは、もうちょっと、深くて解答が見いだせないようなものだけれど、今、なぜ、人の生き方が問題になってくるのかというと、これは必然的なのです。

 

一つは、長生きするようになってしまった。僕はちょうど明日、還暦の誕生日なのです。以前、1950年の時点で還暦を過ぎている人の割合は全人口の7%くらいでした。そう考えると、還暦はすごくありがたいことでした。ところが、この2017年、日本人の年上の人から順番を付けて数えてくると、私は4300何十万番目になるのです。1億2600万人の人口のなかで、めでたい還暦を迎えたにも関わらず、私の上にはまだ4300万人以上の年上の方がいるんです(笑)。分数でいうと年寄りの3分の1にまだ入れていないのです、還暦になるのに。こうした時代には、「60歳からの生き方」が圧倒的な重みを持って個人や社会のテーマになってくるのです。

 

1、2年前に、同じ建築学科の先輩を訪ねた時があります。その際「松村君、人生を100年と考えているか?」と聞かれたのです。当時58歳だった私にその方は「まだ半分あるから、よく考えておいたほうがいいよ」って(笑)。そういうアドバイスをいただいたのですが、どう考えればいいかわからないんです。でも、それを考えなきゃいけない。もう一つ言うと、学生たちくらいの年代は今、昔と違って終身雇用があるなんてことを考えている人は非常に少ない。かなりの確率で、これから入る職場からいずれいなくなるだろう、と考えている。「きっと転職するだろう」と思っている人は多いし、「サラリーマンをやっていて収入が年々増えていくことはない」と考えている。さらに今と将来、日本の財政状況や経済がどうなっていくのかわからない、と。そんな中で、生き方というのは僕らの世代とまったく違う。僕らの世代は、大学卒業時、ほとんど何も考えずに就職したものでした。「何とかなるだろう」と。

 

大学の同期の仲間たちと会った際、「お前、なんで今の会社に就職したのか?」と聞くと、「教授に言われたから」と言う。僕自身もそうでしたが、ほとんど何も考えずに何となく、行けばなんとかなるだろうと、ほとんど何も考えずに仕事を決めてましたよね。つまり、かつては大した決断や将来のイメージがなくても生きていけた時代だったのです。しかし、今の若者は全く違う。自分で相当考える。就職の際、そして就職した後からも常に考える時代になりました。そうなると、先のソ連に象徴されるような「人の生き方がモデル化できる」という考え方からほど遠いわけです。各自がそれぞれの生き方を考え、どのように実現するかという時代に入ってきている。そういう意味での民主化なんです。それぞれの人の生き方がテーマになってきて、それに対して、今ある膨大な建築ストックをどう使っていくか、という構想をする時代になっている。

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