イベントレポート詳細Details of an event

第102回 AGC Studio Design Forum
「2つの像を映す鏡」 ~展覧会「鏡と天秤」より

2019年4月26日(金)
講演会/セミナー

※「Mirror」のインスタレーションを行った砂山氏のプレゼンテーションを抜粋して掲載しています。ご了承ください。

 

講演者
砂山太一氏 建築家 美術研究者


文中敬称略



 

砂山 砂⼭太⼀です。よろしくお願いします。建築や美術の設計・制作に関係する仕事や展覧会の企画や美術作品の批評を⼿掛けており、京都市⽴芸術⼤学では「芸術学」という学問領域で、建築・現代美術・デザインについての理論的な研
究をおこなっています。今⽇はプレゼンらしいプレゼンを⽤意せず、できるだけオープンに話したいと考えてきました。

 

 まずは⾃⼰紹介からはじめたいと思います。僕はもともとフランスで活動していました。これはフラック・オルレアンというパリから⼀時間ほどの町にある⽂化施設です。世界でも有数の実験建築を中⼼とした建築のコレクションを集めた美術館です。僕が勤めていた(事務所の)ジェイコブ+マクファーレンがコンペの結果ここのリノベーションを請け負っていました。働き始めた時は実施設計や⼯事監理のフェーズでした。このプロジェクトで僕は、こういう有機的な形を3DCADで具体的な部材形状に落とし込む作業をお⼿伝いしていました。⼤学院の時の研究がプログラミングを使って建築形態を⽣成するというものだったので、その能⼒が買われ、ここでも幾何学的に⼨法を与えたり⾓度を与えたりするのにコンピュータ・プログラミングを使っていました。この建物の外装の⼀部分はLEDデジタル・ディスプレイになっています。今回の『鏡と天秤』でもミラーディスプレイを扱っています。この時、僕はLEDパネルの割付けなどを担当していました。エレクトリック・シャドウというアーティストがこのコンテンツデザインを担当していました。建築の形態と映像コンテンツが⼀体となって計画されていたプロジェクトでした。

 

このまま⾃⼰紹介を続けたいとおもいます。
3年ほどフランスで働いたあと、2011年に⽇本に帰ってきてからは、東京藝術⼤学の博⼠課程に進んで事務所で仕事としてやっていたことをより研究的に取り組むことをはじめました。オクテットトラスという空間を充填するための幾何学ルールをベースに、プログラミングを⽤いながら⽊材で複雑な構造体をつくる研究などをしていました。

 

 次に、建築家の中⼭英之さんとの共作「かみのいし」です。これは紙メーカーの⽵尾(TAKEO)が主宰し、今回の『鏡と天秤』も企画されている中崎隆司さんがキュレーションされていた展覧会『かみのかたち2』に出展したものです。⽵尾さんからの「紙のプロダクト」を作って欲しいというオーダーにたいして、中⼭さんが、置物の⽯や庭⽯などプロダクト的な機能はないけれども、そこにあることによって⼈間とのなにかしらの関わりが発⽣しているものを作りたい、紙で⽯をつくることはできないか︖ということで僕にお声がけがありました。ここでは、⽯を3Dスキャンして3Dモデルをつくり、ポリゴンの解像度を落として展開図を作成し、それに⽯のテクスチャーを印刷してつくっています。このようにデザインの最終的な形を⽬的とするのではなく、デザインプロセス⾃体を考えることや、そもそもデザインを考えるとはどういうことかを問題提起することに興味があります

 
 
『鏡と天秤』展では、AGCさんのAugmented mirrorと呼ばれる製品を使⽤したインスタレーションを設計しました。Augmented mirrorは65%の反射率というハーフミラーの裏にディスプレイを置いてディスプレイに表⽰される⿊い部分、モノが映っていない部分が「写る鏡」として機能し、ディスプレイの光が映っている部分、ディスプレイの映像が表⽰されている部分は「サイネージ」として機能する。そういう特徴を持った製品を使って空間構成しています。

 

AGCさんと打ち合わせしながら内容を詰めていったのですが、まず注⽬したのは、このAugemented mirrorのディスプレイのフレームを消すことができるという特徴でした。そこで、その特徴を拡⼤できるよう、空間に対してできるだけ⼤きな鏡の⾯を作ることにしました。つまり、ディスプレイと似た⼤きさで鏡を使⽤すると、どうしても鏡の⼤きさの奥にディスプレイの存在が前に出てきてしまう。それを避けるためにも、ディスプレイができる限り認識されることなく、映像だけが鏡⾯に浮かびあがっているように⾒せたかったわけです。できるだけ⼤きな平⾯をつくって、その中へディスプレイを部分的に⼊れ、映像がある部分とない部分の境⽬をできるだけ分からなくしようとしました。また同時に、Augemented mirrorの⼤きさの制限が、製品製作の特性上、1050×1800だったので、そのサイズを意識させないためにどうすればいいかを考えました。ハーフミラーとハーフミラーの間は、例えばコーキングなどで⽬地を留めていくというやり⽅があります。でも、⽬地が⾒えた時点で、そこにある鏡の切れ⽬が顕在化してしまう。そのことを乗り越えるために、逆に前⾯にフレームを当ててグリッドを強くする、切れ⽬をフレームで隠してしまう、という処置を取っています。なおかつ、切れ⽬の全⾯だけでなく、1050幅の半分のところ、切れ⽬ない鏡⾯の前にも同じフレームを⼊れています。こうするころによって、フレームをまたいだ映像の表⽰が可能になり、いよいよどこからどこまでにディスプレイが⼊っているのかわからなくなります。また、通常、おおきな鏡⾯を作る際、鏡どうしの⾓度が微妙に違うことにより映る像がバラケたり、鏡⾃体が歪むことによって像がゆがんでしまうことがあります。これを解消するには施⼯に相当の精度が要求される。このフレームは、そういうバラケや歪みを気にならなくするような効果をもっています。つまり、鑑賞者に、鏡に映る像と同程度の認識を物理的なフレームにむけさせることによって、バラケや歪みが⾒えなくなる。また、このようなフレームによるグリッドで、2つのL字型で組むことで、合わせ鏡の効果を作り出しています。グリッドが鏡の中で乱反射することで、映像との境界がさらに曖昧になり、Augementer mirrorの拡張性をさらに拡張させることを狙っています。

 

建築学的な話になるんですが、コーリン・ロウという建築学の学者が、モダニズムにおける鏡とグリッド空間について「透明性」と⾔う⾔葉遣いで説明しています。詳しく喋ると難しい話になるのでここでは⾔及しませんが、コーリン・ロウはこの「透明性」を「実の透明性」「虚の透明性」にわけて、モダニズム建築の鏡とグリッド空間に述べています。この京橋⼀帯などもそれらの透明性で埋め尽くされていて、グリッドがバシバシに⼊っているし、ガラスもバンバンある。あまりまじめにそのような命題にとりくんでいるわけではありませんが、このインスタレーションを考えている時、では21世紀に⼊ってから建築の表⾯を覆うようになってきたデジタルサイネージって、この透明性の議論に照らし合わせると⼀体ってなんだろう、と⾔うことを考えて設計していました。

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