イベントレポート詳細Details of an event

第100回 AGC Studio Design Forum
「日常の体験を変えるガラスデザイン」

2019年1月17日(木)
講演会/セミナー

金森 こんばんは、「AWRD」(アワード)の金森と申します。株式会社ロフトワークという会社が運営している「AWRD」というプラットフォームの編集長という肩書きです。今日は、私が普段、オープンイノベーションと呼ばれる手法でものづくりやアイデア募集、それからコンペ形式のプロジェクトなどを企画サポートする際に、主催者さんとどのようにしてムードを盛り上げているか、参加するクリエイターさんのモチベーションを上げているのか、といった話をできたらと思います。(画像を見せながら)先ほど、Wemakeさんの紹介にありましたけれど、AWRDもそれに似たプラットフォームです。いろんなアイデアを募集して、その中から選ぶ、ということをウェブのオンライン上でできるプラットフォームで、エンタープライズ向けには企画運営のサポートもしています。今春には、アカウントさえ作れば誰でもプロジェクトの主催者になり、自分で自分のアワードを登録できるプラットフォームがリリースします。現在の構造としては、登録しているクリエイターさんが2万8000人くらい、イラストレーターさんとかグラフィックデザイナーさんなど平面を対象とするクリエイターさんが多い。また、ロフトワークが持っている様々な関連事業があり、例えばFabCafeという世界に点在するものづくりカフェのネットワークや、渋谷のBioclubというコミュニティ、MTRL(マテリアル)という素材を軸に多様な分野のメーカーとクリエイターを結びつけたりするチームがいますので、それらのネットワークを使って声がけをし、各課題に応じたクリエイターさんとのマッチングもしています。

 

こういう仕事をしていてよく聞かれるのは「どうすればいい作品が集まるのですか」「どうしたら私たちの課題にぴったり合ったクリエイターさん、解を導いてくれるクリエイターさんに出会えるのだろうか」ということです。これに対する定まった答えはありません。が、具体的な施策はあると思っております。まず一つ目に、重要なのは発注と協創の違いを認識しておくことです。やっているうちに主催者さんがよくわからなくなってくることがあります。逆に、クリエイターさんサイドが、自分の作品と思い込んでしまうこともあります。そのボタンのかけ違いがあると、急に進まなくなることがあります。途中から互いの思いを変えるのは難しく、最初のマインドセットと認識が非常に重要だと思います。

 

それを前提にしつつ、二つ目、さらに重要なことは「参加者のモチベーションを上げること」「インセンティブをきちんと設計すること」があります。「お金以外」とここに書きましたが、報酬や賞金は大事で、それで動く人もたくさんいますが、それだけでは大切な知見とか時間を提供してくれない。お金になるかどうかわからないものなので、お金以外のインセンティブを設計する必要があると思います。
三つ目、主催者さんのメッセージをきちんと伝えるけれど、押し付けないということも大事です。ただ、これが結構難しい感じがしております。きちんと伝えようとすればするほど、抽象的になったり、「こういうのをやってください」という注文みたいになったり……。その塩梅が難しいですね。

 

具体的な施策を「AWRD」の事例でご紹介します。この「白金五丁目アワード」の主催者さんは、著名なクリエイターディレクターさんのチームで、おしゃれなセレクトショツプを東京の白金に持っている方々で、彼らのお店で扱うジュエリーを募集するというものでした。ここでは、「商品化します」という分かりやすい目線合わせが単純ながら有効でした。何かを募集するときに、最後のアウトプットを、応募者も主催者も、立場をこえて共有できるのが大事です。AGCさんの今回のプロジェクトについても、これはこのスタジオに展示するのが目的だったのか、ひいては新しい商品の開発に繋がるということだったのか、そういうアウトプット像が大事なのではないでしょうか。それが売れるとか、売れないとか、儲かるかどうか、量産できるかどうかなどはまた別の話で、「商品」というキーワードでの目線の合わせ方がうまくいったと思っています。

 

また、次の例は全日空さんと私たちが一緒に取り組んだ「WonderFLY」という例です。ご存知の方いらっしゃいますか? あまりいらっしゃらないようですが、これは素晴らしいプロジェクトです。ANAさんが新規事業として立ち上げられたんですが、コンペティションとクラウドファンディングとオンラインでの販売支援が一気通貫でワンセットになっているんですよ。ANAさんはマイレージを使ってオンラインショップで買い物をできる会員さんを持っていらっしゃるから、事業支援から販売サポートまで、全部をカバーできるというわけです。コンペでいいアイデアを募集して、クラウドファンディングによって、そのプロトタイピングや商品化の支援金を募り、最終的にはプロモーションをしてオンラインショップでも一部買い取ったりする、という仕組みなんです。この事業をたちあげたKevin 梶谷さんは「AWRDはライバルという捉え方もできますが、そもそも(オープンイノベーションやクラウドの)シーンがまだまだ日本には定着していない。協力しあってムーブメントをつくっていくことの方が大事だ」と言われて、「そうだ!」と思った次第です。今年もまたご一緒に企画をすすめるべく取り組んでいます。

 

 また、いいアイデアを出す際に重要なのは、まさにWemakeさんの設計も確かにそうなっていますが、一度、ブラッシュアップのタイミングを設けること。今回のAGCさんの場合も、アイデアの一発出しになっていない。
例えば、左にある写真はWonderFLYの方々と取り組んだコンペのプロジェクトのものです。最後の応募の手前に、審査員の人たちと一緒に、途中段階の企画をブラッシュアップするようなイベントを行ったりしました。グループワークする中では、自分のアイデアをきちんと言語化しないといけないし、その際にもいろんな人の意見などをもらってドラスティックに変えた結果、もっといいアイデアになったりします。審査員の人たちによるトレンドや世界のムーブメントを知ってもらうレクチャーもあり、わたしもとても刺激を受けました。一方、この右側の画像は、ディスカバリーチャンネルという番組コンテンツを作る企業とのプロジェクトで、最初にアイデア募集をして第一次審査を行い、それを通過した参加者にはメンターをつけて映像作品をブラッシュアップして二次審査にすすみました。新しい作家に出会うということと、最終的に放送に耐えうるコンテンツにするという二つの目的を達成する設計になっています。

 

私たちはオンライン・プラットフォームですが、同じ悩みを持った仲間同士が実際に集まる場をつくるということも大切だと思い、リアル・イベントもAWRDのプロセスの中に組み込むよう提案しています。特に若い世代にとってはそれもひとつのインセンティブになります。
さて、ここまで紹介した施策事例は、応募する方々の側に立った視点で応募のインセンティブ設計のポイントをリストアップしたものです。ただ、よく考えると、これらは主催者さんにとっても価値あるプロセスを生み出すものです。商品化ということで考えると、応募者にしてみれば、商品化に向けた知見、例えばパッケージング、価格設定、ディスプレイした際の見栄えとか、そういうものが勉強になりますし、主催者さんにしてみれば、ワンアンドオンリーの商品開発をできるかもしれない、エンドユーザーとのタッチポイントをつくれるかもしれない、など、要するにお互いにとって得るものがあるはず。今日のお話からも感じましたが、ゴールも大事だけれど、プロセスも大事だ、と。そういうプロセスにこそ一番価値があるのではないか、と感じています。きっとみなさんとっても大変だったと思います。コミュニケーションにかかる手間がすごくかかる。しかし、そのコミュニケーションコストこそ双方にとっての価値に違いない。どうやったらいいアイデアが募集できるか?という問いに対しては、一般化できる、うまくいく方法があるなら、私も知りたいくらいですが、それぞれが目的に沿ったプロセス設計をして、そこでのコミュニケーションでお互いに何に気付けるかが、オープンイノベーションやユーザーイノベーションの鍵になるのではないでしょうか。

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