イベントレポート詳細Details of an event

第101回 AGC Studio Design Forum
「スポーツする建築」 ~展覧会「鏡と天秤」より、浜田晶則 x上林功

2019年3月14日(木)
講演会/セミナー

中崎 ありがとうございました。では、お二人のトークセッションに入ります。
まずは上林さんから?

 

上林 はい。今のスポーツ環境では、最新の素材を入れることに特化しているかというと、そういうわけではありません。しかしながら、先ほど浜田さんがご指摘なさった環境一体性みたいなものが、他のビルディングタイプに比べて成功していると思っています。ソフトアーキテクチャーと絡めると、浜田さんは今後のスタジアムにどのようなイメージをお持ちでしょうか。

 

浜田 先ほど紹介されたフィレンツェの古式サッカーの風景が、とてもいいなと思いました。同じように、古代ギリシャの劇場なども、劇が上演されているそのすぐ先に街がありますよね。今回、AGCさんのテーマがハレとケだったのですが、スポーツや演劇はすごく非?常的な体験ですが、その背景に街中の日常的な風景が溶け合っている。その状況はすごく現代的だなと思いました。

 

上林 そうですね、僕自身もこの写真を見た時にパッと思い出したのは、アーキグラムのインスタント・シティなんですよ。

 

浜田 はい。

 

上林 アーキグラムというのはイギリスの建築家集団で、その人たちが昔提案した中に、飛行船が飛んできて、ある街のある一帯に、天蓋をバッーと屋根のようにかけて、その中で仮設的なイベントが構築され、そのイベントが終わると、全てを収納して飛行船がまた別の場所へ飛んでいく、という提案をおこないました。もしかしたら、それが(スポーツ施設の)一つの姿としてありえるんじゃないかと思うんです。その一方で、じゃあ、実際にやるとなると、音響が騒音になったり、またチケットを持たない人が、あそこの既存の建物から観戦していたり、と、そういったしょうもない話になり、それがスタジアムをガチガチに固める要因になっているのではないかと感じています。

 

浜田 軽い透明なものが、ふわっとかかっているだけで場ができるというのは魅力的で、そういう都市に対する軽やかな編集ができると面白いですね。空き地などの使い方への提案もできますよね。屋根があるだけで雨の日もバザールやイベントが運営できる。

 

上林 僕自身がすごく期待しているスタジアムのあり方が、チームラボさんでやられた、風船を膨らまして、という話が先ほどありましたよね。あれって、すごく魅力的に映るんですよ。スタジアムを追っかける中で面白い現象があって、最初に目にしたのが北京オリンピックでした。北京オリンピックのメーン会場は鳥の巣と呼ばれていたスタジアムでしたよね。あれは国際コンペを通して作られたものです。そのコンペの2等案をご存知ありませんかね? その2等案は中国国内の設計事務所が提案したものだったんですが、イメージしていただくと、西武ドームみたいに金属屋根が周りにあって、真ん中に丸いテフロン性の膜素材の屋根がかかっている。そして、その膜素材が二重になっていて、ヘリウムガスが注入されている。開閉式で、日射を入れる際はその屋根が丸ごと浮く。さらに、その屋根自体がVIP 席をぶら下げていて、上から見られる。それ以降、ロンドン五輪の時もそうですし、今回の東京の新国立競技場のコンペでも「屋根が飛ぶ」という案が必ず入っているんですよ。東京では2案ありました。無意識的に屋根からの開放という意識が働いているのかもしれません。だから、重力に縛られない方向ということで、こういうETFEのような新素材に注目されたり、次の可能性を探ろうとされているのではないかと思えます。今後、パリ五輪は無理でもロス五輪あたりで実現するかもしれない。

 

浜田 人が乗らないという意味では(安全基準的には)構造的にはかなり楽になりますよね。浮体構造物として風雨に耐えられるものをつくる。実は、今回の展示の中にももう一案あったんですよ(笑)。それが浮体構造物。ETFEを使って大地を浮かせる構造物を考えていました。時間がかかりそうなので途中で断念したのですが、そういう重力に逆らって「浮遊する」ことって面白いですよね。僕らは常に重力と闘っている。その上で、より自由さを求めていくと仮設的でもいいから、大空間をどれだけ軽くつくるかは、非常に価値があると思います。

 

上林 重力に縛られている、という条件は、スタジアムの実務をする上で非常に重要なことだと思っています。というのも、スタジアムを設計するときに、屋根の柱を(フィールドはもちろんのこと)観客席に落とせない。そうすると(張り出させる)屋根がゴツくなる。当然、それを支えるスタンドもゴツくなる。その基礎もゴツくなる。地下に埋める杭もゴツくなる。結局、上からダンダンダンダンダン、と連鎖的にゴツくなる。一方、ETFEの屋根が大空間で実現できると、屋根が軽くなることで、スタンドの形や下部構造まで、今までにないものができるんじゃないかと思います。重力からの解放が、スタジアムの形そのものに関わってくる

 

浜田 実は、この展示について、さらにもう一案、考えていたんです(笑)。それが、空気圧を使って自立させるドームだったのです。例えば、(アリアンツ・アレーナの画像を示しながら)こういうところに空気を詰めてパンパンに膨らませると、そういう圧に耐えられる膜素材であれば、パンパンに膨らませられる。そうすると、透明なETFEの屋根を空気圧だけで浮かす、ということが、もしかしたらできるかもしれない。

 

上林 今回展示された「Libra」もそうですが、あれって、(非常に重いガラスの錘の)重力、張力に引かれ続けるけれども、伸びない、伸び切らないんですよね?

 

浜田 最初にある程度は伸びるけれど、伸び切らない。

 

上林 多分、その物性を利用してアリアンツ・アレーナができている。これって、太鼓状というか、二重になっていて、コンプレッサで常にガスを送り込んでいて、パンパンに張った状態にしている。伸びないで均衡を保っている。現在の既存スタジアムのほとんどは、おそらく1900年代の最初くらいに作られたもの(技術や素材、構法)で構成されているんですけれども、新たに出てきたモノでつくることによって、これまでの既成概念にあるようなスタジアムの構造そのものを見直すきっかけになるんじゃないかと思います。浮く建築まで視野に入ってきますけれど、残念なことに2020年のオリンピックではそういうものは見られない。

 

浜田 今からでも、そういう提案をしましょう(笑)。

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