イベントレポート詳細Details of an event

第101回 AGC Studio Design Forum
「スポーツする建築」 ~展覧会「鏡と天秤」より、浜田晶則 x上林功

2019年3月14日(木)
講演会/セミナー

上林 その後、スポーツにおける大空間は独自の全く違う方向に舵を切っていきます。これは、世界で初めてつくられた本格的なドームスポーツ環境、アメリカのアストロドームです。世界初のドーム野球場になります。ここではスタジアムは完全に囲われ、外部環境と完全に切り離された空間が作られました。「アリアンツ・アレーナ」はドイツのミュンヘンでW杯の際につくられたヘルツォーク&ド・ムーロンの設計によるサッカー・スタジアムでバイエルン・ミュンヘンのホームスタジアムです。ヨーロッパは寒冷地ということもあって、スタジアムを4方向からぐるっと囲ってしまいます。スポーツチームが直面したスタジアムでの課題の一つは、中で何をやっているのか分からない、ということでした。アストロドームもそうですが、外部環境から大きな空間で仕切ってしまうと、内部の様子が分かりません。

 

そこでアリアンツ・アレーナはETFEによってファサード・エンジニアリングを展開しました。外部に対してファサードの色による演出で内部の様子を伝える仕組みをつくり出し、その後のスタジアムに多くの影響を与えました。例えば、スペインのプロサッカーリーグ、リーガ・エスパニョーラのビルバオFCのホームスタジアムとなる「サンマメス・バリア」にはファサードにルーバー状のETFEが採用されました。こちらもLEDによる演出を施しており、点が入った時にチームカラーで真っ赤に染まります。閉じたスタジアムに対して、街とスタジアムを何とかつなげようとする工夫が行われました。こちらもみなさんの記憶にあるかもしれません。北京オリンピックでメインスタジアムの横にあった水泳会場で「水立法」、ウォーターキューブと呼ばれる競技場です。泡を参考に作ったと言われるファサードと屋根はバブルの集合体のようになっており、この一つひとつがETFEによるバルーンになっています。内外をつなぐマトリクスとして、エンジニアリングとしてのETFEが使われてきました。

 

また、ごく最近ではより広範にわたる大胆な使われ方もされています。ニュージーランドで開催されたラグビーW杯の会場にもなったフォーサイズ・バー・スタジアム。これはETFEを使った透明な屋根をもったスタジアムになります。ETFEの何がいいか、というと、もちろん透明であることはさることながら、その軽さのインパクトが大きいのです。先ほど浜田さんの話にもありましたが、非常に薄い素材ということもあって軽い。屋根構造も軽く細くなり、ETFEの透明さを相まって世界一透明なスタジアムとも呼ばれます。透明であるがゆえに可能となったのはターフです。屋根付きスタジアムのターフは天然芝が育たないため人工芝になるのですが、ここは天然芝を混ぜたハイブリッド芝で天然芝を育てながらスタジアムとして成立している。ETFEは温室に使われていたくらいですから、植物を育てられるのは当然なのかもしれませんが、これまで無理と言われた屋根付きスタジアムでの天然芝化も夢ではなくなってきています。将来的な計画として、2028年に予定されているロサンゼルスオリンピックの主会場の一つでもあるL.A.スタジアム・アット・ハリウッドパークは、スタジアムと公園全体を透明な屋根で覆ってしまうという形で計画されています。

 

一方、日本ではどうなのか。スポーツ施設の事例としてはまだ一つしかありません。新豊洲のBrilliaランニングスタジアムです。このかまぼこ状になったトンネルの下、木アーチ構造に支えられたETFEによるトンネルができていて、直線を駆け抜けるようなランニングスタジアムができています。こうした実績を踏まえながら、今後、ぜひ広がっていってほしい、と思っています。

 

未来のスタジアム・アリーナの展望について少しだけお話しします。まず、スタジアムというのは段階的に発展を遂げていると言われています。単純にいうと、普通のコートだったものが、スタジアムへと形成されてきました。技術的に成熟してきたスタジアムは次の段階として社会的な役割をおびてきています。JリーグやBリーグといったスポーツチームが標榜している「地域を巻き込む」とか「地方創生」といったテーマに見られるように、現在はいわゆる地域のスポーツの価値そのものにコミットできるスタジアムに議論を移してきています。まだ途上例となりますが、メジャーリーグサッカーでの事例が顕著です。観客席スタンドについてスタジアムビジネスでの合理性を配慮しながら一部のビジターの観客席を削り広場とし、普段はそこを解放して公園として使って地域コミュニティの核として機能しています。こうした新しい動きが非常に面白いと思いつつ、先ほど浜田さんが指摘されたような、「人と建築がつながっていく柔らかさ」みたいなことがスタジアム・アリーナでも起きているのではないかと考えます。かつて、街と人を隔てていたスタジアムの外壁がファサード・エンジニアリングによって解体され、壁や屋根で囲まれてきたスタジアムが開かれる技術が確立されていくなか、人と街とスタジアムの関係が徐々に変化してきているのではないかと思います。

 

これは極端な話でいうと、スタジアムが先祖返りしてきているのかもしれません。こちらは16世紀頃から行われている、フィレンツェの古式フットボールの様子です。豚の膀胱を膨らましてボールとし、相手の陣地に放り込むというサッカーの原型と呼ばれるものです。この頃は、いわゆる街中の広場が競技場となり、祭りの日に仮設的なスタジアムが構成されていました。浜田さんのお話しにあったような「環境と人の融合」みたいなものが、スタジアムの正体なのではないか、と自分自身で思ったりしています。
街とスタジアムだけでなく、人もまたスタジアムと一体になるのではないでしょうか。スポーツを観戦していて「あと1点入るか!」という時に、観戦者のみんなが一体になるような、そんな瞬間が訪れる。それって、実は、周りの環境と人というものが、全部、一緒くたのないまぜになったような状態ではないかなぁ、と考えており、これらの体験の正体について研究を進めていこうと考えています。

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