イベントレポート詳細Details of an event

第101回 AGC Studio Design Forum
「スポーツする建築」 ~展覧会「鏡と天秤」より、浜田晶則 x上林功

2019年3月14日(木)
講演会/セミナー

上林 私は追手門大学のスポーツ文化専攻で教鞭をとっている上林と申します。よろしくお願いします。自分自身の専門は建築で、意匠設計もやるんですけれども、主な生業としては、スポーツビジネス、特にスタジアムやアリーナビジネスを専門としております。本日は「スポーツする建築」というテーマですが、私は浜田さんとは別の切り口で、「スポーツをするための建築」もしくは「スポーツ環境」の可能性を探る上でのインプットをさせていただこうと思います。

 

 私の主な研究は「スポーツ消費者研究」と呼ばれ、簡単に言うと「スポーツ観戦者はどういう行動をするのか?」という研究です。例えばスタジアムのお客さんは観戦体験にもとづいて、なんらかの形で「今日は満足!」と喜びます。この満足を経て「また来よう」とするリピート行動(再観戦行動)をおこなう方がいます。こうしたスポーツ観戦に係わる連鎖的な消費行動をスポーツ消費者モデルといいます。シンプルなモデルである一方で、例えば「満足」には「お得感」という金銭的価値が関係することや、「満足」に係わらず、リピート行動をおこなう人もいます。多くのスポーツ消費者行動研究が行われていますが、研究として、大づかみなものがほとんどで建築設計に活かせるまでには至っていません。私の研究では、このスポーツ消費者モデルをさらに細かく調べることで、実践的なスタジアムやアリーナの設計に活かすことができないか、と考えています。

 

一例を挙げますと行動モデルの起点となるスポーツ観戦体験です。スタジアムの観戦体験は多岐にわたりますので私はその中から代表的なものを抜き出してその影響を調べました。一つは「グループ観戦体験」、家族や友人など、みんなでワイワイと楽しむ観戦体験。もう一つは「臨場観戦体験」、目の前で試合が行われている迫力を楽しむ観戦体験。最後に「飲食体験」、スタジアムで楽しめる食事やドリンクなどを楽しみながらの体験です。ほかにもいろんな体験がありますのでこの3つはあくまで代表的なものです。これらのスタジアムでの観戦体験は先ほどの「満足」や、リピーター行動にどうつながるでしょうか。図に示すのはプロ野球の西武ドームで実際に調査した結果です。「満足」を示す75%の人が、「もう一度来よう」、とリピーター行動の意思表示をしました。一方で観戦体験がどのように関係しているか。まず「臨場観」があると感じた人たちについては42%の人が「満足」を示し、リピーター行動につながっています。

 

一方で「満足」に関係なくリピーター行動を示した人は13%となりました。この13%の人は試合観戦に満足・不満足に関係なくもう一度スタジアムに来ようとした人を示します。これに対して「グループ観戦体験」を評価した人たち、つまり家族や皆ときて一緒に楽しめた、と感じた人の28%がリピーター行動を示しました。ここで面白いのは、この28%は「満足」に関係なくリピーター行動につながっていた点です。「ワイワイできた」が、もう一度来たい、の直接的要因になっていたんです。

 

これに対して、「臨場感」は「満足」を介してました。このワンクッション挟むというのが、スタジアムビジネスとしては非常に難敵です。「満足」させなければ、もう一度来てくれないわけですから。それならばむしろ、みんなでワイワイ楽しめる場所を作る方が、実はスタジアムでリピーターを増やすことを考える上では、観客席の設計を考える際には重要になるのではないか、との考えに至ります。これらの結果を踏まえながら、西武ライオンズさんにグループ観戦体験を促す新座席の提案をし、一体感を最適化できる座席位置についてフィールドワークをし、実に40年ぶりに観客席改修が行われ、グループシートができました。

 

私はいままでスポーツ観戦者の研究にもとづいたスタジアム、アリーナのコンサルティングをおこなってきました。これが今回のETFEにどうつながるか、というところなのですが、スポーツ観戦体験を扱う中で、スポーツ環境をつくるソリューションを生み出す中で、ETFEはこれまでになかった劇的な変化を与えるのではないかと感じているのです。この話を進めるためには、スポーツ空間がどのように作られてきたかを話さなければなりません。

 

スポーツがおこなわれるような大空間は、そのルーツを考えて見ますと、建築関係の方々はご存知と思いますが、19世紀後半にあらわれる大型の温室に使用された鋼材による構法技術に見ることができます。そのなかでも「グレートストーブ」と呼ばれる大温室や、ロンドンで開催された第一回の万国博覧会のパビリオンである「水晶宮」を設計した技術者のジョセフ・パクストンはこれまで人々が見たことがないような大空間建築を作り上げました。大空間建築はその後、バックミンスター・フラーが環境調整という意味合いでの環境を丸々ドームで囲ってしまう「ジオデシック・ドーム」を提案したり、ニコラス・グリムショーの「エデン・プロジェクト」では、ETFEのドーム内に、生態系を丸々再現しました。大空間建築には、大きな環境を囲んでしまう温室の発想が歴史的な流れとして存在します。

 

一方、今回のテーマであるスポーツは、どのように関係するのか?ジオデシック・ドームやモントリオール万博のバイオスフィアを提案したバックミンスターとだいたい同時期、ミュンヘンオリンピックのメインスタジアムというのが、ピーター・ライスの設計によって提案されます。これがいわゆるテンション構造で吊られた透明な屋根材による大規模な施設となりました。スタジアムを含めた環境そのものをフワッと包み込むような、そんな形の屋根が作られました。オリンピックパークの施設やランドスケープに合わせて有機的な形状の屋根が架けられました。ある意味温室的な発想に近かったかもしれません。

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