イベントレポート詳細Details of an event

第99回 AGC Studio Design Forum
「Like living ~ガラスは生命体の夢を見るか?~」

2018年12月20日(木)
講演会/セミナー

大野:僕自身は作家活動というより、デザイナーとしてやっているので、クライアントワークやコミッションワークが前提となります。クライアントさんがいて、その方々と協創が始まるので、仕事を受けた際、どんな仕事であっても妥協することなく、どうすれば一番面白くなるのかを常に考えてやっています。
 どんな場、どんなクライアントさんでも、自分で何ができるのかな、と考えるので、どちらかというと合気道系というか(笑)、そんな感じです。つまり、場に放り込まれたら、そのときに考える、というかたちです。

 

小原:なるほど。では河合さんに聞きたいのですが、近年、いろいろな協創の場がうまれつつあるなかで、今回のプロジェクトではどういうコミュニケーションがとれたのか、今後目指す協創のあり方はどんなものか、について伺えますか。また、協創のなかで生まれるガラスの未来に関しては、どうお考えでしょうか。

 

河合:まず、自分自身すごく楽しめた、ということがあり、協創した方々ともお互いに楽しめたと思います。技術者とクリエイターとして上手く接点が持て、楽しい部分をお互いに見つけつつ、一つの作品ができたのがすごく良かったです。
 完成した作品を「面白い」と言ってくれる人も多く、これからさらにいろいろな意見をいただくなかで、今後どういう活動をしていくかという段階に入ると思います。そのファーストステップとして、とてもいい展示ができたと感じています。

 

小原:協創の楽しさとは、どういうものなのでしょうか。

 

河合:先程の話と同じにはなるのですが、ガラスの従来のイメージを変えたいという思いがありました。「冷たい・かたい」というイメージではなく、「人を癒す」ガラスを作りたかった。まさに今回、”癒す”ガラスができたと思っていて、その思いの裏には、ガラスと人がコミュニケーションする世の中を思い描いていて、人が一方的にガラスを使うのではなく、ガラスからもリアクションがあり、それに対して人が関わっていくガラスの使い方を考えています。
 それを次の世代でできたら、ガラスの可能性がさらに広がると思っていまして、今回はそれに近いものができたかな、という印象です。

 

小原:なるほど、今回がガラスとの新しい関係を築く契機にもなっていたというのは面白いですね。そこで大野さんに伺いたいのですが、協業や協創している相手にどのように情報を渡すかについて、先程、職人さんの持っている能力をリスペクトしたほうがいい、という話がありました。今回の構図で言うと、大野さんと河合さんの関係がそれに当たると感じており、デザイナーとして担う部分と、相手に託す部分の線引きなどで意識している部分はあるのでしょうか。

 

大野:僕はずっとプログラミングで設計を続けているのですが、いろいろ調べものをしている時に、“日本建築はプログラミングでできている”ことに気づきました。
 昔の大工さんは設計図を持っておらず、「木割書(きわりしょ)」という秘伝書があり、間口に応じての入口の造り方や屋根のかけ方が文書で明記され、それに添って、敷地に適した建物を造っていた。つまり、アルゴリズムのような感じです。文書には比例関係のプロポーションについて書かれていて、敷地が変わると建物のカタチが変わりますが、全体的には同じような伝統建築っぽいものができる。例えば、白川郷の屋根は急勾配ですが、日本建築としての統一感がある。個々のディテールは現場での大工仕事を通して、それぞれの造り手の意匠性が現れるわけです。

 

 建物のカタチを考える最初の段階では、最後の細かい部分までは考えず、手前の部分のシステムであるプロトコルを考えて行う方法は、今、僕がやっていることに近いと思います。これはデザインをするうえで、いいヒントだと感じていて、相手にどのように情報を伝えるかを考え、そこでクオリティについて配慮する。相手が違ったら、違うものができてもいいという思いがあります。しかし、自分のなかでは揺らいではいけないポイントをしっかり作り、ここまでは決める・ここからは決めないという線引きを行う。それを決めるのが、デザイナーの役目かなと考えています。

 

小原:なるほど、興味深いですね。青木さんも、いろいろなプロジェクトに関わっていらっしゃいますが、実践にあたって青木さんが特に意識している進め方について伺えますか。

 

青木:そうですね。外部が入ると、自分が思ってもみない角度から生まれるものがあり、そこから自分の思考がさらに進む、という感じがします。自分一人では生み出しにくいアイデアがあり、相手がいると、会話しているだけでも盛り上がる何かがある。会話のキャッチボールから生まれてくる「創発現象」のようなことが、他者とのやりとりで面白いな、と感じます。
 大野さんに伺いたいのですが、先程の話の案配はなかなか難しいと思うのですが、どういう感覚でやられているのでしょうか?

 

大野:アウトプットのイメージを僕が一度作っています。例えば、先程お話した「壁継」も、第一弾は全部僕が手がけています。全部任せると、相手も何をしていいか分からないので、自分なりのやり方で補助線を作ります。その後、こういうクオリティのものを作ってほしいと伝え、かつ、強制はしない。協創の過程で、どこまでは任せ、どこから先は任せないというポイントを見極め、クオリティが担保できるところを探す作業には、エネルギーをかけなければいけないと思います。
 あるところから先は責任をとらない、という意味ではなく、ここまでを決めたら、その先は任せたほうが上手くいく、というポイントを探すやり方です。

 

青木:出てくるときのインストラクションはあるのですか? 自分で相手に示し、相手がこういうふうにやればいいんだと発見する。その後、出てくるものに対しても、フィードバックしながら進めていくのですか?

 

大野:基本的には、再帰しながら進められるような方法でやっていきます。また、僕はサプライズが好きなので、あるところから先は相手の好きなようにやってもらい、完成したものを楽しむ、ということもあります。
 僕と同じような考え方の友人がいて、次のようなエピソードがあります。彼は家具デザイナーでして、あえて図面を低い解像度で描き、それを複数の家具職人さんに渡して作ってもらった。すると、できあがった家具はまったく違ったそうです。情報は1個だけれども、アウトプットは各々の人の得意分野に応じて違うかたちになる。プロジェクトの内容として許せば、フィードバックなしで、このように楽しむのも面白いと感じます。

 

青木:僕は、企業と協創活動を行うことがあります。スコープがある程度決められた状況では、出てきたものを許容できると思うのですが、プロセスにおいては、企業が新しいものを生み出すのが目的である場合、出てくるものへの期待があるかと思います。河合さんは、そのあたりの案配はどうなさっているのですか?
 AGCさんの協創プロジェクトは長期的な視点に立っているとは思いますが、企業のプロセスの期待値があるなかでの”協創”はどういう案配なのでしょうか。

 

河合:まさにご指摘の通りで、アートやデザインをどうビジネスにつなげていくかが大きな課題です。一方では数年後にはビジネスにつなげたいという考えがあり、また一方には、長期的に見ないと結果が出にくいという考えがあります。
 我々の視点としては、協創で生まれた面白い作品をいかにビジネスライクな製品にしていくか、というところがあります。まずは、その要素を抽出して製品化を行い、長期的な視点のもと、小さいビジネスから大きなビジネスにつなげていきたい、という思いを持っています。

 

青木:なるほど。大野さんに伺いたいのですが、建築はアウトプットに時間がかかると思うのですが、イメージを共有し、コストがかかるプロジェクトを進めるなかで、途中までは見えない建造物やプロダクトのカタチをどのように伝え、説得しながら、やっていくのですか?

 

大野:僕は自分が作りたいものを作るタイプではなく、クライアントさんのリクエストを整理して自分がいいと思うものを提示し、お互いに共感できたところで、初めてプロジェクトとして成立することになります。クライアントさんの頭の中にすでにある「もやもやしている」ものを発掘して提示するのが僕の仕事なので、そういった意味では、大ハズレすることはないのかな、と思います。
 気づいてはいないかもしれないけれど、クライアントさんがもともとやりたいことは存在します。「こういうことをやりたい」ということに関して、僕がそのイメージを発見することで、クライアントさんが”思い出す”感覚になるといいなあ、と感じます。「確かに、こういうことがやりたかったんだ」みたいな。なので、すごく新しいことをぶつけて、クライアントさんが拒否反応を示すようなことは、コミュニケーション上はないように努力しています。

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