イベントレポート詳細Details of an event

第72回AGC Studioデザインフォーラム
「おおきなまちのちいさなリノベ」連動企画
「リノベーションの姿を考えよう -リノベーション市場の動向、事例紹介とその検討プロセスのありかた-」

2016年9月29日(木)
講演会/セミナー

 チェックリストの具体的な内容は、このサイト、「(社)JSBC 日本サスティナブル建築協会」のホームページで、ハンドブック全体が無料公開されています。先ほどのSWO(スマート・ウエルネス・オフィス)のピラミッド階層では、私自身が理解するのに時間がかかりまして、最終的には図のような理解の仕方をしました。ビル利用者の立場から「従来の視点」と「新しいの視点」があります。すでにみなさんが認知している視点(耐震性能、省エネルギー性能、建築物衛生基準など)の法令遵守、またテナントさんが入居する際にすでに選別基準として使っている「維持管理水準」や「利便性・機能性」などに加え、今後の付加価値として、意識はあるのだけれども数字としてはまだ認識されていない「新しい視点」(災害時対応・防犯性能、エネルギー管理、室内環境・テナント対応、リフレッシュ・リラックスなど)を切り分けることで、この三角形に奥行きを出していきました。既存のこのような評価体系に対して、こういう新しい価値も含めて評価しようという狙いで、SWOの三角形をこのようなマトリクスにしてあります。

 

実際の評価は、図のように執務室や建物全体の仕様を全部で45項目くらいに分けてあります。それを「低、標準、高」の3段階で評価していただくと、この知的生産性、健康・快適、エネルギー・資源、レジリエンスの各項目がどの程度の点数であるかがはじき出されます。この点数の出し方も、従来の視点での点数と、新しい視点を含めたスマート・ウェルネス・オフィスの点数の両方を出すようにしています。というのも、まずは従来の視点でこのビルがどのレベルにあるのか、そして今後の改修によって従来の視点ではどこまで伸びるのか、ということも判断をする重要な指標になるということです。ですから、まずは従来の視点で評価をして、その次に新しい視点も含めるとどこまで伸びるのかを示したわけです。ご興味のある方は、先ほどのウェブサイトで見ていただくことができます。今日は細かいところまで説明する時間がありませんけれど、簡単に言うとこの建築計画の中で、フレキシビリティ性について、天井高や奥行きだったり、柱の有無とか、荷重のゆとりの有無ですとか、そのようなことが評価項目に入っています。また、室内環境でも、通常ではビル管法の範囲でしか評価しませんが、実際にはクレームが出ているとか、音がうるさいなど、そういう要素があるかないかでも評価していたりします。それに加え、新しい視点では、デザインなんかも評価しています。デザインはキャスビーでも評価しないと言い切っているのですが、ビルのデザインがまちに受け入れられると、例えばタクシーの運転手さんに「あのビルです」と言えば、すぐ分かってくれたりしますよね。そうすると、そのビルに来る人のビルに対する印象が良くなったり、そのビルへ通っている人にとっても、それが嬉しかったりするので、そのような視点で何とか評価しています。あとはサービス性能として、今まではない、ビル管理や運営などの項目も最後に入れていて、テナントさんの意見をどれくらい聞いているか、またそれをどのようにフィードバックしているかについても評価の体系に組み込んでいます。

 

この45項目で、例えば70点です、という評価になっても、それがいいのかどうかちょっと分からないかもしれません。そこで、委員会の中では2年間ほどかけて800棟くらいの建物に事前にアンケートを行い、評価結果を収集し、そのデータを利用したベンチマーク評価が行えるようにしました。ベンチマークデータの一部を紹介しますと、例えば床面積規模による比較では、当然、規模が大きくなれば大きいほど点数が高い。竣工年も新しくなればなるほど点数が高くなる、という傾向があります。そんなことは最初から分かり切ったことであるのですが、だからといって古い、小さいビルはダメかというと、必ずしもそうではありません。そのため、ベンチマークデータを用いて順位を表示することになったのですが、この順位は小規模群と大規模群の2つに分けて、それぞれの群の中での順位として表示することにしました。

 

このように、規模を入力すると「100件中の何位です」ということが分かります。これはSWO総合評価結果になります。実際にそのビルのこことあそこを改修すると現在の点数が何点になり、順位も確認できるようになっているわけです。当然、総合評価だけでなく、従来の視点の維持管理性能や省エネ性能など、こういうレーダーチャートで見ることができ、どこが他よりも秀でていて、どこが劣っているかを一目でわかるようになっています。

 

ただ、こういうものは数字が独り歩きしがちであり、一喜一憂してしまいますけれど、目的はあくまで気づきですので、今回は、このチェックリストの入力により、まずは従来の視点による点数を確認する。それにより各性能の評価を確認し、それによって、改修や改善項目を確認するというものです。先ほどガイドラインでも、いろんな改修事例がパターン分けして30項目くらい出ていますので、それが参考になります。この従来の総合評価による点数で、どこを伸ばせるかを考えながら改修・改善の項目を確認し、ここは改善できる、となりますから、それを実施した前提で評価を入れ直すと、総合評価がどこまで上がるかを確認できるわけです。さらに、新しい価値観を含めた総合評価も確認するというアプローチをとればいいということです。場合によっては、この改善可能な項目を入力しても、従来の評価ではどうしても点数が上がらないという場合も考えられます。そうすると、もう終わりか、ということではなく、新しい視点の、どの部分で頑張れば、例えばニッチ市場を狙い、インキュベーションを入れるような改修をするなどもできる。従来的なマーケットの中では勝ち目がなくても、新しい視点ではどうかという2段階での評価を得られるところがいいのではないかと思います。あるビルでは、改修前、従来の視点では100件中91位でした。その後、実際の改修をしてみると、従来の視点では100件中49位まで上がった、という事例になります。ここで評価されるのは、耐震改修や空調設備の改修による省エネルギー化、あとは外皮の断熱性能向上などが評価されているわけですけれど、実はこのビルは非常に古い建物で、フロアをぶち抜いて、真ん中に吹き抜けをつくって、社員のコミュニケーションの活性化を図ったビルなのです。これは従来の視点では評価できないのですが、総合評価で見ると100棟中95位だったのが、27位まで上がったという事例です。違う視点で評価できれば、このビルのポテンシャルについて、改修前から「どこまでできそうか」を確認しながら、建て替えたり、改修したり、あるいは売却するのか、などを考える判断材料に使えます。

 

最後に今後の動向について触れます。これは先ほどのお話にも出た、「プレミアム・ミッドサイズ・オフィス」という野村不動産のビルですね。不動産産業のサービス業化というのでしょうか、「空間を売る」という次元から、さらに進んで「事業のお手伝い」をしているという売り方を意識されている印象を持ちます。具体的には、入居されているテナントを対象に新人研修をやってくれるとか、水回りを専有部の中まで入れ込んでくれるとか、そういう従来にない個別のサービスが実施しされていたりします。また、これは東京・中野にある大きなビルの事例ですが、「中野探検隊」というものが組織されていて、まちとビルを人のコミュニティを介して結び付けたりしています。従来、同じビルの他のテナントの方々とは、あまりコミュニケーションさせない、というか「おたくの家賃は?」などという会話になって欲しくないという事情もあって(笑)、そうしていたのですが、今は逆にオープンにしてしまう。その中で人間関係が構築されると、そこでの情報に対する価値観が高くなり、そのビルにいる必然性が高まる、といったことが事業の狙いとして行われ始めています。

 

もうひとつお見せしたいのは、この国交省が出しているガイドラインです。「健康・医療・福祉のまちづくりガイドライン」とあります。日本では超高齢化が進行していますけれど、最近は住宅の仕様と健康に関係性がある、とわかってきておりますよね。そして住宅に次いで、今度はビルと健康の関係性にも注目され始めている、というわけです。日本ではまだビルで健康と言うと、建築物衛生法の、当たり前にある水準、いわゆる最低基準をクリアしていればいいという考え方なのですが、これからは「健康を増進するビル」という訴求が新しい視点として入ってくると思います。アメリカではパブリック・ヘルス・アソシエーションが2016年6月1日にウェブ上のセミナーでビルの健康性能に関するレッスンを行っていますし、「ウエル・ビルディング・スタンダード」といって、ウエルネスに貢献するビルの認証制度も始まっています。またアクティブデザイン、人が動き回れるデザインをまちの中に入れていこうという動きもあります。これはニューヨーク市での例ですね。行政がガイドラインを出し、土木構造物や建築物の中でも、積極的に歩いて成人病を回避できるようなまちや建築をつくっていこうという動きです。経済性で見ると、こういう図式になります。これは働いている人のサラリー、こちらが賃料、またこれが光熱費ですね。光熱費はサラリーの90分の1くらいということです。これまでは省エネばかりに気を取られてきたわけなのですが、それがなかなか普及しない。その背景には、この人件費と光熱費の比率があるわけです。どんなに省エネルギーを図っても、使いにくいビルだとそれを受け入れてもらえなかった。一方で、人の働きやすさや生産性向上に力を入れるほうが、投資の判断として重要なのではないか、という視点が出てきているわけです。ただし、ビルが生産性に貢献するという仮説が本当に正しいのかは説明できなかったわけで、それに対する評価指標をつくって、生産性向上に貢献するビルを比較できるようにしようという動きを始めた次第です。ガイドラインの評価指標に沿って話をさせていただきましたが、私の説明はこれで終わります。ありがとうございました。

 

ここまではガイドライン中心に話をしてきましたが、実際の改修プロジェクトについて、日建設計の村尾さんからお話しいただきたく存じます。

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