イベントレポート詳細Details of an event

第72回AGC Studioデザインフォーラム
「おおきなまちのちいさなリノベ」連動企画
「リノベーションの姿を考えよう -リノベーション市場の動向、事例紹介とその検討プロセスのありかた-」

2016年9月29日(木)
講演会/セミナー

講演2 「ビルの現状を把握し、改修を検討する」

 

 今の恵良さんの話を受けまして、ビルの現状を把握し、改修の検討のための判断材料を得ようということで、このハンドブックの内容も含めてお話しさせていただきます。

 

今までのビルの考え方は、建築、不動産等の供給側からの考え方が中心だったと思うのですが、今はユーザー視点で、使いやすさとか、使う企業の収益向上に貢献できるかどうか、などの利用者視点がニーズとして高まっていると思います。一方、どういうビルの性能が高いのかを測る定量的な指標がないと、判断ができないのです。感覚的に「このビルいいね」と思うことがあっても、それを誰かに説明する際に客観的な物差しがなかったわけです。そういうことから、性能の評価の仕方を、先ほどのハンドブックの中で開発し、それをチェックリストとしてまとめていますので、その説明をいたします。

 

私がいうまでもないことですけれど、日本では、建物の価値は時間とともに減っていく、というのを前提にしていました。だから、メンテナンスも十分にされず、劣化や陳腐化が進んで、さらに価値が下がる、というような構図がありました。他の国に比べて日本の建築にはそういうことが多い。つくった後、デベロッパーさんなどは価値を維持するために努力なさっていますが、中小のビルのオーナーさんで、建築に詳しくないような方ですと、価値は減っていくものだという前提で運営なさっている。一方、欧米では、価値が維持されるという前提に立っていますので、しっかりとメンテナンスをしますし、そうすると価値もあがる、といういい循環が生まれる、と言われています。一方、日本の場合にはこの財務省令にある「減価償却による耐用年数の考え方」によると、事務所ビルの耐用年数は、RCやSRC等では65年となっています。でも実際にはもっと短いわけです。この図の赤く囲ってあるところでいいますと、45年くらいだったのが、最近は50年くらいに伸びているという統計もあります。これを見て、なんで寿命が延びているのか、と考えても、なかなか説明ができなかったのですが、ひとつにはCRE的な戦略の普及もあるのだろうと思います。CREというのはその企業の不動産なのですが、その戦略をうまく立てられている企業と、うまくできずに手が出せないでいる企業の2つに分けられるのだろうと思います。

 

私はCRE自体に詳しいわけではありませんが、素人なりに理解しようとすると、いわゆるROAのような、企業の経営指標みたいなものに対して、不動産がどのようにかかわってくるかということなわけですが、この元々の総資産に占める土地の建物の部分ですね、最近はこれを手放して総資産を小さくすることにより、この指標を上げようという考え方が増えているのかな、と思います。元々本社ビルとして建てたのだけれど、建って使い始めた瞬間に売ってしまって、自分はテナントで入るというようなこともあります。一方で、先ほどの恵良さんの話にもありましたが、売るとか、建て替えではなく、使い続けるというスキームもある。その時には、当然、資産を下げながらも当期の純利益に対して貢献する、こちら側の作る力、稼ぐ力を増加させるということにシフトしていくことも選択肢としてある。最近は、入居されている企業さんの生産性を向上させることが注目を浴びていると思います。資産に関わるところでは、先ほどの話にもあったように、売却か、改修か、建て替えか、だましだまし修繕していくかなど選択肢がいろいろあるということでしたし、当期純利益側の観点からいうと、不動産の利活用という、収益を向上させることを考えていかないといけないわけです。今までは、できるだけ資産を小さくしながら、貸しビルとして成立させていくということだったわけですが、この利益を上げていくという視点でビルを評価することはあまりなかったように思います。でも今は、こちらの「利益」の価値、働き方の多様性や企業のワークスタイルに合った建物の使い方などが重要な観点になってきていますので、こちら側のポテンシャルをどれくらい伸ばせるかを評価する必要があると思い、その枠組みを作ろうとしたわけです。

 

さて、ビルの性能を横並びで書くと、たくさんありますね。ウェブサイトや広告で出ている情報というのは、主に必要条件と呼ばれている内容(賃料、エリア、空調設備・電源用量、耐震構造、OAフロア、光ファイバー、床荷重、セキュリティ)かなと思います。テナント募集の情報では、ほとんどこれくらいの情報しか載っていません。これを見て、判断されているわけなんですが、実は(この決定条件にも属する)、環境配慮がどうなのか、BCPや非常時の備蓄があるのかどうか、なども見られている。さらには、外観だったり、使いやすさだったり、働いている方が辞めない、というか、優秀な人材が入ってくるような外観なり、使いやすさなり、居心地、快適性なども決定要因になっているわけです。ただ、これらのことは、こうやって表で見せられると分かるのですが、他人に対して、一つずつ説明していこうとすると難しいのでそれを体系的に整理しよう、そういうことでスマート・ウェルネス・オフィスの4階層という考え方ができました。その着想は、「マズローの欲求階層説」から来ています。

 

先ほどの図には「知識創造」が一番上にありましたが、例えば耐震性がぜい弱で、地震が来て倒壊するかもしれないようなビルで、生産的な活動をしなさい、と言われても無理ですね。これをビルに置き換えたのが、スマート・ウェルネス・オフィスの概念になります。要するに、知識創造活動をするためには、最低限のビルの性能であったり、社会的なサスティナビリティに対する貢献なども踏まえ、その上でようやく知的生産性を高めるという視点が出てくるわけです。ですから、ビルの性能を体系的に整理して説明できるような物差しが必要なのです。具体的には、耐震性や、事業継続性、省エネ・省資源、維持管理容易性など、こういうような要素があります。これをつくっている段階では、レジリエンシ―がないビルでは知的生産性の向上を目指せないという説明をしなければいけないかと思っていたのですが、事業継続性を検討しているビルや企業さんでも、きちんと対応できている場合は少ないです。ですので、実際に評価する際は、もうワンステップ進めて全体像を整理する必要がありそうです。そこで、この与えられた図を元に昨年、悩みながらチェックリストをつくりました。

 

そもそも、建物の性能評価の必要性について申し上げると、例えば、「この建築とその建築のどちらがいいか?」となった時、そう簡単には評価できません。みなさんの中に「CASBEE」をご存知の方もいらっしゃると思います。このキャスビーというのは、建物の環境性能を総合的に評価する手法です。要するに、共通の物差しを人から与えられると、目標をつくれたりします。また、出資者に対して説明をしやすかったり、設計者や施工者が目標を立て、クライアントとのコミュニケーションツールになったり、発注に際した要件に使えたりします。ただし、環境性能が普及し始めている一方でそれによって不動産的な価値が上がったかという点については、まだまだという状況にあると思います。この委員会の中でも、今回開発した評価や環境性能評価と経済性の評価などについて相関分析を行い、建築学会の論文に投稿して、ようやく少しづつエビデンスが集まりつつある状況です。こういう積み重ねが社会的に認知され、文化として落ち着くと、日本の不動産でも環境配慮が促進されることになると思います。ただ、先ほど言ったスマート・ウエルネス・オフィスの評価方法自体がないので、経済性を測ろうとしても、説明するための定量的な根拠がまったくないわけです。それがないと不動産価値を横並びで比較することができませんし、投資する判断にも至れないので、結局は普及しないということになりかねない。ですから、まずはこのベースとなる評価方法をつくろうということになり、評価の体系をつくり公表したわけです。

 

これをつくる時に気にしたのは「ビルの多用な性能を把握する」ことです。先ほどお見せしたピラミッドにあったように、あなたのビルはいいです、とか悪いです、というだけではなく、どこが良くて、どこが悪いか、を示す。そしてどこを直せば、どのくらいまで評価が上がるか、そういうような使い方をしてもらいたく、気付きを与えることを至上命題として開発をしました。そういうものが継続的に利用されていけば、中小ストックビルの付加価値も向上しますし、日本経済全体が活性化するのにも貢献できるかもしれません。

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