イベントレポート詳細Details of an event

第72回AGC Studioデザインフォーラム
「おおきなまちのちいさなリノベ」連動企画
「リノベーションの姿を考えよう -リノベーション市場の動向、事例紹介とその検討プロセスのありかた-」

2016年9月29日(木)
講演会/セミナー

恵良 そういうわけで、ビルを改修する際に考えるべきことはさまざまです。図の左上に「都市改革の必要性」とありますが、 都市政策が変わったり、都市の再開発が進んだりなど、まちの在り方が大きく変わってきます。それと同時に中小ビルは老朽化が進行している。そうすると建て替えたいとまず思いますね。でもこの背景の中で、自分の立地する場所は都市の中でどう変化していくのか、その地区が新しくなるのか、古くなるのか、あるいは再生されるのか、そういうことをもう一度見直さねばならなかったり、一方で老朽化に対して、改修したほうがいいのか、用途を変更してコンバージョンするのがいいのか、あるいは再開発の一員として参加したほうがいいのかなど、いろんな選択肢と悩みが増えてきます。そういう中で改修を行うなら、まずは資金面ですね。自前でやるのか、デベロッパーと組むのかなど、いろいろな方法がありますよね。それから、オフィスマーケットの中で、自分のビルのポジションがどこにあるかも気になってくる。それらを踏まえて改修するということになると、昔の姿に戻せばいいということではなく、ビル事業者さんそれぞれに理想があったり、社会的責務があったりしますよね。そうすると、防災やセキュリティ、環境共生などにもしっかりと対応していかなければならない。さらに、ワークスタイルの変化により、空間や設備の質が変わる。そういう中でビル事業者として事業を継続できるのかどうかが悩みになる。ですから、単純に直すといっても、どういう視点でどこまで視野に入れるかが非常に悩ましい状況に陥っていくということになります。

 

これらのことを前提に考えると、「スマート・ウェルネス・オフィス」という言葉を林先生が言われましたけれど、オフィスが目指すべき方向を4つの階層構造で考えてみました。
まず基本は「レジリエンス」であり、災害などに対する強靭さですね。それからBCP(ビジネスの継続性)ですね。テナントさんのビジネスを、災害に遭った時でも続けられるのかどうか。その上で「エネルギー・資源」に関するマネジメントをしてビルをつくらなければなりません。そして、そのビルに入る企業の方々が「健康・快適」に仕事をできるかどうかが大切になります。そして、最後はクリエイティビティです。創造性を生むような空間とサービスが必要になってくる。そういうことを確認したうえで、改修をとらえる必要があります。

 

では、どんな時に改修を考えるかといいますと、すでに計画修繕を考えたりはしておられるのですが、大きな修繕をする際にやるということがあります。もう一つは、法改正に対応しなければいけない時に、どうしようかな、と考える人もいます。耐震基準などです。設備性能も大事で、今のようにコンピュータをたくさん使う時代のIT対応や、空調システムなどもしっかりやらないとお客さんが逃げてしまう。それから、空間としても、リビングルームがあるオフィスとか、キッチンのあるオフィスなどもありますし、空間の豊かさも必要です。また複数のビルをお持ちの方は資産戦略としての改修もあるでしょう。そういう改修は、計画通りに修繕を進める人もいますし、だましだまし使いながら、修繕を先送りする方もいらっしゃる。それから用途を変更しようとか、建て替えようとか、売却しようなどといった選択に至ることもあります。

 

こう見てくると、実際の改修を行うのは例えば、耐震改修や都市計画との絡みがきっかけになるでしょう。また費用面では新築か改修か、改修でも「いながら改修」か、再開発か、などを比較検討することになります。そして改修すると、有効率が比較的下がる傾向があります。容積を増やせないまま建て替えたり大幅改修したりすると、貸室が減ってしまうという問題も生じます。市場性が問題になります。改修によって賃料や入居率が上がるのかどうか。テナントさんとの関係の中で、建て替えに踏み切れるかどうかも変わります。そして、さまざまな補助制度や保証制度の情報が得られるかどうか、まぁ、相談相手ですね。こうした問題もあります。そして、もう一つ大きな問題は、改修したとしても、マーケットの中で「あそこは建て替えていいビルになったよ!」という情報がなかなか出てこないのです。改修しても「築25年のビルです」ということだけが残って、オーナーさんが努力しても、それがマーケットに伝わっていなかったりします。こうした情報の流通に関しては、もしかすると業界全体の課題と言えるかもしれません。

 

次の図「改修の選択」について、例えば、きっかけには「個別の事情」で建て替える場合と「地域の変化」で建て替える場合の2通りありますが、その際、オーナーさんの考え方、経営の視点が出てきます。それは例えば、現有テナントさんとの関係、ビルの性能、市場性、予算や制度、地域の開発動向などが関係してきます。そういう条件の中で、そのまま様子を見ましょうという道を選ぶ方、またミニマムの改修、例えば耐震基準だけクリアしようと判断される場合もありますし、一般市場へ向けた改修だから、マーケットに評価される、競争力を増強する改修もあります。一方、ニッチな新しいマーケットで勝負するという改修もあります。例えば、小さなビルでも、そこにクリエイターや新しいビジネスを始めるインキュベーターなどに使いやすいオフィス空間へと改修する。ニッチでも競争に勝てるという改修ですね。またデベロッパーとの協働という形もあります。私がいた会社では、例えばいったん中小ビルをデベロッパーが借り上げて、賃料をお支払いし、デベロッパーが改装してテナントも募集し、数年で元をとったうえでオーナーさんに戻すというやり方もありました。協働ではいろいろなやり方があります。一方、用途を変更するコンバージョンというやり方もあります。ただ、この場合は法規との整合性が問われます。さらには、新築ビルへの建て替えや再開発への参画、そのまま売却するなど、事業スキームを抜本的に見直すやり方もあります。

 

このようなさまざまな改修に係る選択において、私たちがまとめた『改修ハンドブック』をどう使えるかを示した図があります。
建物が経年変化して古くなった時に、さまざまな改修の契機が訪れます。それには社会経済環境の変化という要因もあるでしょう。オーナーさんとしては、それをまず自己診断してみたらどうだろう、ということです。自分のビルがマーケットの中でどこに位置するのかを確認する必要があります。それを踏まえながら、ビル事業者の意思として、「どういう選択をするのか」ということがあります。例えば、その立地や建物への思い、地域コミュニティやテナントとの関係、収益や売却志向などに加え、相続の問題なども関係してきます。そうしたことを総合的に判断し、改修の方向性は「制度適合性の確保」というレベルの改修を選ばれる場合もありますし、一般市場へもう一度うって出るという選択もあります。また、新市場、ニッチな市場で競争するという選択もあります。で、その先はどうかというと、ハンドブックの3章の内容になります。メニューを30くらい出してあります。

 

最初は、建物の診断をする。自分の建物の現状を把握するためのチェックリストを3章の初めに持ってきてあります。グループ1は「レジリエンス」を切り口にまとめてあります。例えば耐震性能でも、簡単なものから本格的なものまで、いながら改修の方法なども入れてあります。グループ2はエネルギー関連のものです。エネルギーや環境性能を上げる簡便なものから本格的なものまで押さえてあります。次いでグループ3は、健康や快適性に関するものです。照明や空気環境など、そういう点の改修ですね。それからグループ4は知的生産性に関するものです。働きやすい、知恵が出るオフィスは、やはり、ワーカーが使いやすいオフィスになりますので、そういう面の手法を挙げています。これは大企業の例も含めて出してあります。グループ5は、ブランドに関するものです。その地域の中でも、「このビルはすぐわかる」ということがあります。それはデザインもありますし、歴史的な建造物を活用しているケースもあります。地域そのものがブランドであれば中小のビルでも街へ出やすいですよね。大きなビルが備えている、コンビニや飲食店など生活サポート機能が街の中にあれば、中小ビルは、それを有効に使えるわけですね。そういう点で地域のブランドと自分の入居するビルのブランドをもう一度考え直そうということです。グループ6はマネジメントです。テナント支援や地域との連携、セキュリティ強化などがあります。最後のグループ7は、小さいということのメリットを生かそうというメニューです。先ほどのニッチ市場などですね。このハンドブックを見て自己評価していただくと、何がポイントになるかわかります。空間だったり、外観だったり、内装だったり、諸設備だったり、と。こういうものを自分なりにリストアップできるようにしようということです。そのように、このハンドブックを使っていただきたい。

 

まとめますと、次の5つになります。 「快適性・使いやすさ」「コミュニティスペースの充実」「BCP対応性」「燃費性能」「付加価値性能」です。これは大きなビルでも中小ビルでも同じ方向にありますが、むしろ中小ビルだからやりやすいところもあると思います。これからのオフィスを考えていきますと、先ほど申し上げたピラミッド構造のスマート・ウェルネス・オフィスになるわけですが、いずれにしても働く方々の知的生産性を生み出す現場がオフィスになりますから、利用者の健康や安心の向上、建物の資産価値の向上、使い勝手の良さなど、そういう諸々のことをクリアして、こういう概念の中で改修にアプローチしたほうがいいだろう、ということになります。オーナーさんが、こういうかたちをつかんでいただいて、この先、どこに相談するか、ということになりますが、それは今日、ここにお集まりのみなさんであったり、私が属していたデベロッパーであったり、あるいは公的なサービスであったりするのですけれど、それをサポートするのが非常に重要になってくると思います。ですから、まずは改修、自分のビルを改修する時に何を考えなければいけないか、というのをざっと把握いただいて、その中で自分は何を選ばなければならないかを、選択していくということになります。東京の都心部も、あと10年経てば、価値がまた問われることになると思いますので、そういうことも考えながえらアプローチしていただきたいです。

1 2 3 4 5 6