イベントレポート詳細Details of an event

第72回AGC Studioデザインフォーラム
「おおきなまちのちいさなリノベ」連動企画
「リノベーションの姿を考えよう -リノベーション市場の動向、事例紹介とその検討プロセスのありかた-」

2016年9月29日(木)
講演会/セミナー

林 立也 氏
(千葉大学 大学院工学研究科 建築・都市工学専攻 准教授)

 

 千葉大学の林と申します。本日は、まず、既存のリノベーションという概念を少し超えて、今後のリノベーションがどうあるべきかについて話をさせていただきます。

 

最初に、講師の恵良隆二氏から『中小ビルの改修ハンドブック』の内容を紹介します。恵良さんは、現在横浜市で芸術関連の仕事をなさっていますが、もともとは三菱地所で不動産畑を歩いてこられた方です。大規模なものを扱われてきたと思いますが、今後の日本のまちづくりという視点を含めてこのハンドブックをまとめる中心的な役割を果たされたので、そのエッセンスについてお話いただきます。その後、私のほうから、リノベーションを行っていくうえで「性能評価的な考え方を導入するといいのではないか」ということを、このハンドブックの中でも提案しましたので、それについて話をいたします。

 

さらに、今日は、そのような座学的なリノベーションだけでなく、実際にリノベーションに関わられているゲストをお招きしました。日建設計の設計部門代表である村尾忠彦氏です。村尾代表のほうからは、青森県庁舎や、先日、大きく報じられたFCバルセロナの本拠地であるカンプノウのスタジアム改修についてもお話しいただきたく存じます。「おおきなまちのちいさなリノベ」というテーマの中で、非常に大きなリノベーションのプロジェクトをお話しいただくのですが、たぶん考え方には共通することがあると読み取れるのではないでしょうか。それではまず、『中小ビルの改修ハンドブック』の狙い、というテーマで恵良様のご講演をお願いします。

 

講演1 「中小ビルの改修ハンドブック」の狙い

 

恵良 隆二 氏
(元 三菱地所株式会社 (公財)横浜市芸術文化振興財団 常務理事)

 

恵良 恵良でございます。今、ご紹介いただきましたが、簡単に経歴を申し上げます。もともとの専門は、ランドスケープエコロジー、生態学的なランドスケープなのですが、それを本業に10年ほど設計をした後、設計から事務職中心の経営企画部門へ移り、その後、開発企画部門で、横浜みなとみらい21のプロジェクトを1983年から1996年まで担当しておりました。マスタープランづくりや横浜のランドマークタワーの企画、開発、運営を行いました。96年に東京へ戻りまして、丸ビルの建て替えのプロジェクトリーダーを務めました。丸ビルのつくりかえに加え、丸の内を大きく変える必要があるので、まち全体を変える作業をずっとしておりました。また大手町の方でも連鎖型開発が進み、そのマスタープランをつくる担当をし、その後、まちのブランディングに関わる仕事をやりました。さらに退任数年前からは三菱一号館美術館という美術館づくりを担当していました。大きいプロジェクトの経験が多いのですが、林さんたちと「中小ビルの改修」に関する勉強会に加わりまして、その成果を今日、お話しします。

 

今年の3月に三菱地所を辞め、横浜の財団へ来ております。横浜市の財団では、中小ビルを改修したところにアーティストやクリエイターを紹介したりすることもしております。そういう方々向けの事務所開設助成制度を運営しています。クリエイターなどを中小ビルへ紹介し、育ってもらおうとしています。横浜市は以前、オーナーさん側にもアーティストやクリエイター向けへの改造に補助を出す制度を用意していました。横浜のまちづくりではアーティスト、クリエイターとの関係の中で、中小ビルをどうするかという視点での取り組みが続いているわけです。 さて、林先生からご紹介があったように『中小ビルの改修ハンドブック』の概要をお話したいと思います。ハンドブックは、第一章が背景に関するもの、二章が評価に関するもの、第三章が30ほどのメニューを用意し、四章は経済面、五章で事例をたくさん盛り込むという構成になっています。実物やWebでもご確認いただけると幸いです。

 

この最初のスライドは、東京23区におけるビルの延べ床面積や棟数、築年数をグラフ化したものです。
縦軸の左側に中小規模(延床300~5000坪)のビル、右側に大規模(延床5000坪以上)のものを経年的に集計してあります。経年的な数、面積を見ますと、左側の棒グラフの灰色の部分、これがバブル期に建てられたものなのですね。ですから、あの時代に一気に中小ビルが建てられている。それが、25年、30年と経ってきていますので、情報化の進展や耐震性の問題も出てきて、老朽化して建て替え時期を迎えているものが集中的にあるということです。それに対して右側の大規模ビルについては、同じころに経っているのもありますが、築20年未満のものが多いわけですね。ある時期に集中的に建てられた中小ビルとは異なり、大規模ビルは、相変わらず建て続けられていてピラミッド型になっている。一方の中小ビルは、築年数25年ほどのものをピークに、築年数の若いものは非常に少なくなっているわけです。

 

こうして老朽化していく状況の中小ビルは、テナントサービスの低下、旧式設備、デザインやイメージが古い、経年劣化などが起きて、テナントさんからクレームが出て、それが賃料の減額要請につながっていきます。ちなみに、私の今の説明は、ビルオーナーさん側への説明だと思ってください。そうすると、テナントが出て行ってしまったり、空室率が上がったり、敷金を返還しないといけないなど、さまざまな問題が出てきて、結果的に収入減だったり、サービスの低下を招き、ビル運営費を圧迫していく。そうして設備投資の資金も不足する。こういう形でテナントニーズに対応できず、段々と負のスパイラルに陥っていくわけですね。そういうことにならないようにしないといけません。それから、減価償却との兼ね合いの中で、建て替えの時期を一度逃していたり、さらに厳しい状況も見られます。

 

その一方で、これらオフィスで活動している企業の規模を見ると、約420万社のうち大企業は0.3%程度ですから、ほとんどは中小企業なわけです。また、従業員数では約4000万人のうち大企業は31%なので、約7割が中小企業に属している(個人ビジネス含む)。そうするとこういう方々が主に中小ビルで活動されているわけですね。つまり、こういう方々の力が日本の経済や都市の力において重要になりますので、ここをないがしろにできないということが、このハンドブックを制作した研究会の背景にあります。

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