イベントレポート詳細Details of an event

第73回AGC Studioデザインフォーラム
「おおきなまちのちいさなリノベ」連動企画
「これからの都市と建築 -リノベーションとまちづくり-」

2016年10月27日(木)
講演会/セミナー

江口亨氏 
横浜国立大学大学院 准教授
大学院都市イノベーション研究院

 

江口 みなさんこんばんは。横浜国立大学の江口と申します。まず簡単に自己紹介をいたします。ここにいる二人は(野原氏、江口氏)建築の教員をしております。私の専門は建築構法や生産などの分野で、建物をどのようにつくるかを研究しております。現在、建物は余っています。どうつくるかだけではなく、余っている建物をどう使うかが大事になっており、リノベーションの研究を学生の頃から継続してきました。その中で、最近、面白い動きがあるということでお話をさせていただきます。では、都市計画がご専門の野原先生からも自己紹介をお願いします。

 

野原卓氏 
横浜国立大学大学院 准教授
大学院都市イノベーション研究院

 

野原 こんにちは。同じく横浜国大で江口先生と同僚の野原と申します。私は都市計画を専門に教えております。本日は、建築と都市全体を考えていきたいと思います。

 

江口 それではまず、私の方から発表をしますので、お手元の配布資料などもご覧になりながら、お聞きください。最初のスライドに今日のテーマを記しました。「世の中は課題に満ちている。しかし、成長時代の仕組みが通用しない時代になった。課題解決の試行錯誤を紹介し、これからの建築と都市について議論」、と書きました。正直なところ、先が見えていないのですが、今日はこうした内容でいきます。手探りでやっていくしかない時代だという認識です。背景としては次のグラフがあります。資源エネルギー庁の報告書から引用したものです。世界の人口と、世界のエネルギー消費量の推移を示したものです。この100年、特に産業革命以降に急激にどちらも増えているのがわかります。今の、我々の社会は、近代が生んだ技術や制度に基づいているのですが、これがこのまま続くとは思い難く、この先、どうするかを考えないといけません。こうしたことについては以前から議論されていました。有名なところでは、ローマクラブの『成長の限界』という1972年の報告書があります。当時の識者たちが集まって議論し、このまま近代的な生活を続けていると、近い将来、天然資源が枯渇してしまうというものでした。そんな中で、建築も対策をしようとしてきたわけです。建築は、建てる際にエネルギーや資源をたくさん使いますし、運用する際も、電気や照明、冷暖房などでエネルギーをたくさん使います。

 

次の写真もよく知られている例ですね。イギリスにある「Bed ZED」というプロジェクトで2002年、建築環境性能に強いコンサルタントが加わってこれを作りました。できるだけエネルギーを使わない建物にして、そこでのライフスタイルまで提案しています。南側から入る日射を使い、屋根にある突起から自然換気しています。この駐車場にある車もポイントで、電気自動車のカーシェアリングをしています。様々な省エネ技術を投入し、建材も地元の材料を使って、運搬時のエレルギーを減らすために35マイル以内のところから材料を集めています。次はそのコンサルタント、バイオリージョナルのサイトから引用した資料ですが、一般的なヨーロッパ型のライフスタイルを続けていると地球3つ分の資源が必要になるそうです。またアメリカのスタイルだと地球5個と試算しています。一方、Bed ZEDのスタイルだと1.6個分の地球ですむそうです。次のグラフは見田宗介さんという社会学者、東大の名誉教授が示されたものです。ロジスティックス曲線というもので、生物学で使われます。例えば、ビーカーの中に微生物を入れますと、最初は数が少ないですけれど、ある時から急激に増え、限られた空間なので、最後は増加が止まるという曲線です。私たちの社会全体もそれになぞらえることができると思います。我々は、この図で言うと、ちょうど近代から未来への変局点にいます。方向転換をしないといけない時期なのです。建築や都市という、我々が専門としている分野もそういう局面に接しています。ということで、人々が生活し働く場である建築と都市のつくりかたを根本的に問い直す時期に来ています。この先、私たちがどうしていけば、豊かな生活を送れるのか? という問題意識で日々、研究をしています。以上が、今日のテーマの背景です。

 

 さて、ここからは「民間主導型のリノベーションまちづくり」について話したいと思います。私の研究分野として建物をどうつくるかがあると先ほど申し上げましたが、次のグラフはどのくらいつくって来たかを示したものです。日本における毎年の新設住宅着工数です。1960年から右肩上がりで来て、バブル期を経て、最近、減ってきたというグラフです。日本は国際的にみて、異常なほど多い数の住宅をつくってきました。アメリカもたくさん住宅をつくる国ですが、それに比べても多く、人口比で言うと倍近い数の住宅をつくってきました。ずっと年間100万戸を超えるオーダーでつくってきましたが、ここ10年は100万を切り、今後、100万を超えることはないと考えられます。この赤い折れ線は空室率です。このようにどんどん上昇してきて、つくるよりも、あるものを使うという時代に変わって来ています。リノベーションというのは、あるものを使う技術になります。一方、次の図は、リフォーム産業の動向を表した図です。よく見る図ですね。思ったほど市場が広がってきてはいないですが、今後を期待されている分野です。新規の参入企業が結構多い。特にインターネット系の事業者は急速に伸びて来ています。ネット系は30代、40代の一次取得者にとって魅力的なようで、中古で買ってリノベーションするということが増えてきています。よく「リノベーション」と「リフォーム」の違いを聞かれることがありますけれど、はっきり言って定義はありません。ただ、自分が言うなら、リノベーションとは、「今ある建物に手を加えて新しい暮らしや仕事の場に変えること」と言えます。この「新しい」というところがポイントです。新しい価値観とか新しいスタイルとかが絡む。必ずしも大規模な改修をしなくてもいいのです。 *写真で事例を簡単に紹介。

 

 リノベーションというのは建物が空いていることが前提ですけれど、空き家を1つ見つけると、だいたい周辺にも同じような空き家、同じ時代に建てられた空き家が見つかるんです。同じ状況で古くなったり、人が住まなくなったりしている。つまり、これは単体の建物の問題ではなく、地域やまちなど、広いスケールを持った問題ではないかと思います。ということで、(衰退した地方都市で)空き家や空き店舗を活用して地域全体の活性化を図っていくというのが「リノベーションまちづくり」という動きになります。今日は、この動きをご紹介します。その際、核となるインパクトの強い物件をつくって、その波及効果を狙っていく、すなわち、都市の経営課題を解決するのが狙いです。特に地方都市での動きが多いですね。地方には都心だと見えづらい課題の最先端があります。衰退や高齢化が進んでおり、自治体にお金もない。日本全体が直面する20年先、30年先を地方都市が迎えていたりします。全国のリノベーションのまちづくりについては専門のサイト(http://re-re-re-renovation.jp/)があり、事例がたくさん出ていますので参考にしていただきたいと思います。

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