イベントレポート詳細Details of an event

「おおきなまちのちいさなリノベ」連動企画 トレンド・新技術セミナー
「最新の学校施設の長寿命化施策について」

2016年9月29日(木)
講演会/セミナー

繩手 雅史 氏
(一般社団法人 文教施設協会 事業・管理部長)

 

*このテキストは2016年9月29日と10月27日に開催されたセミナーをまとめたものです。

 

繩手 文教施設協会の繩手と申します。リノベーションというテーマに絡めて、学校に特化した話をいたします。現在の学校施設がどのようになっているか、そして今後、どのようになっていくかについて、皆様と一緒に考えたいと思っております。

 

学校を取り巻く国の財源の推移を確認します。平成8年は阪神淡路大震災がありました。それ以降、耐震性の確保が重要な課題となり、耐震化を進めるための多額の予算がかけられました。その耐震化関連の補助事業は、耐震化がほぼ完遂した平成27年度に終了しました。では次の課題は何なのか? どこに予算を必要としているのか。
学校施設で今、重要な課題は「長寿命化対策」です。平成25年に笹子トンネルの天井崩落事故が起きました。それを受け、「インフラ長寿命化基本計画」が策定され、「公共施設等総合管理計画」が策定されました。その計画に基づき「個別施設の長寿命化計画(個別施設計画)」を計画することになっています。
学校は公共施設全体の4割を占めており、重要な位置づけにあります。

 

  最近、学校を訪ねた方はいらっしゃいますか? 老朽化が進んでいると感じられたことはありませんか。このグラフをご覧ください。築25年以上を経た学校が74.6%となっています。つまり学校の7割以上が、老朽化の進んでいることを示しています。築25年経ったご自宅なら、みなさん、メンテナンスをしていますよね。しかし、学校はなかなかメンテナンスされる状況ではありません。では、古いということが悪いわけではありません。次のデータは老朽化対策の必要性について示します。データは平成23年のものですが、安全面で不具合のあるものが1万4000件ある。小中学校の2校に1校は安全面で何らかの問題がある。また機能面でも、雨漏り、設備機器や配管の破損などが起きています。機能面の不具合が3万件、小中学校1校当たり1件になります。あとは環境面です。25年前というと、そういうことに考慮していない施設もあります。つまり私たちが今、普通と思っている建物環境が、老朽化した学校には配慮されていないケースがある状況です。ですから、こういうものを何とかしたい。老朽化した7割の学校をなんとかしていきたい。

 

こういう状況に対して、国も施策を打ち出しています。平成25年には、老朽化に対して対策を考える検討会が開かれました。その結果として打ち出されたのが次の3つの方針です。まず「事後保全型」から「予防安全型」の計画的な管理にする、ということです。中長期的なメンテナンス計画、整備計画を立てて取り組むということです。それで「長寿命化」という言葉が出てきました。古いものに手を入れるのであれば、いつまでもたせるのか、という問題です。その結果「70年~80年はもたせよう」ということになりました。後ろの資料にもありますが、築40年経ったものを改築するのではなく、改修して、あと30年から40年は使っていこうという方針が打ち出されました。そうであるならば、どういうスペックにするかという問題が出てきます。ですから、技術や建築に詳しい関係者などの知恵や力を結集することが大切と考えております。そして、その知恵や力が、教育委員会の事務職の方々が、今後学校づくりを進める際に役立つと考えます。参考として次のような試算も出ています。これは平成25年度の当時の数値ですが、今後、学校で従来型の改築中心に整備していくと、30年で約38兆円、一方、長寿命化改修中心で整備すれば30兆円で済むと試算されています。耐震化から長寿命化へと軸が変わり少子化で児童生徒数が減る中で、余裕教室を有効活用し、地域の実情に合わせ、施設の複合化をすることも今後の施設整備の選択肢となることが考えられます。国の方針をまとめると3つあります。1つは「事後保全」から「予防保全」。2つ目は70年~80年の間を見据えた長寿命化対策。3つ目として、他の公共施設との複合化です。

 

 次のスライドは長寿命化改修のイメージを説明したものです。学校を直すという施策は新しいものではなく、前からあります。それが大規模修繕です。一方、長寿命化改修は平成25年から始まった新しい概念と事業です。直すということについて同じように見えて、実は違います。大規模修繕は原状回復。一方、長寿命化改修は、今後30年を見据えた機能向上と耐久性を求めています。そこが違いです。長寿命化改修を行うことのメリットは、次の3つです。まず、改築ではありませんから、コストを縮減できます。また、廃棄物が少なくなり、廃棄物処理のコストが抑えられます。あともう1つは教育環境を向上させることができます。近年は「ラーニングコモンズ」という考え方が小中学校でも検討されています。
 長寿命化改修の具体的手法についてご説明します。大きく2つに分けられます。まず、長寿命化をするのであれば、耐久性を上げないといけません。例えばRC躯体の耐久性を向上が求められます。耐躯体はもちろんのこと、外壁や屋上の耐久性を向上しないといけません。また、配管や設備機器の更新も必須になります。
 2つ目に満たすべき条件は、機能・性能の向上です。ここに水準の向上と記してありますが、何をすれば水準が上がるかについて、教育関係者と建築関係者の間にはギャップがあると思われます。

 

 さて、学校施設を直すという補助事業は2つあります。1つはここまでご紹介してきた「長寿命化改修事業」、もう1つは「大規模改造(老朽)事業」です。長寿命化のほうは表に示す通り、築40年以上の建物、今後30年以上に渡り使用するなどの条件になっております。補助金としては下限額7000万円、地方自治体の負担は、実質26.7%となっています。一方、大規模改修のほうは築年数20年以上、使用予定期間は30年未満でもよくなっています。次のスライドには、長寿命化改修事業と大規模改修事業の違いを表にまとめてありますので、後でご確認ください。  他にもテーマとして小中一貫教育があります。単に学校を減らすという乱暴なロジックではありません。9年制として、更に豊かな学習環境を目指すもので、いろいろなメリットがあります。お手元の資料に詳しく書いてあります。システムだけでなく建物のつくりかたも変わります。例えば一体型にするのか、今の分離されたままでいくのかによっても違います。設計上の工夫(平面計画やコンセプト)が必要とされます。多様な課題があり、様々な分野からの知恵が必要とされます。

 

それから、別冊でお配りした文教施設協会季刊誌「文教施設」18ページに「ラーニングコモンズ」に関する記事があります。「数人が議論しながら自主的に学習することを前提としたのがラーニングコモンズ」と書かれています。また、コモンズの意味というところを見ますと「コモンズというのは、学ぶという特定の目的で共有する空間である」と書いてあります。これについてみなさまと一緒に考えていかねばならないと思います。自主的に、主体的に学習できる空間づくりのあり方が問われてくるでしょう。自主的な学習がまだ身に付いていないかもしれない子供たちにどのような空間を用意すれば良いのか皆様と一緒に考えていきたいと思います。私ども文教施設協会は、学校施設づくりに係る方々と協力して、よりよい学習環境を構築していきたいと考えています。

 

 施設の複合化に関するテーマにも触れておきます。学校の複合化というのは、公共施設と一緒にしていくということで、どのような施設と一緒にするのか、そこにはどのような課題があるのか? 複合施設とは、同一建物の敷地に、学校と他の公共施設が相互に連携を保ちつつ、平面的、立体的に共有させることをいいます。同一の建物、もしくは同一の敷地内で連携しているものが複合施設です。こちらは、今、どのくらい複合化されているのかというイメージです。公立の小中学校の複合化は、防災倉庫と放課後児童クラブと複合化した事例が圧倒的に多い。ただ、昨今は、図書館、高齢者福祉施設、公民館、民間施設なども複合化された事例があります。設計事務所の方にとってみると、ゾーニングはどうなるのなかなどの難しさも出て来ます。
維持管理について、学校には建築基準法と消防法に基づく定期点検が義務づけられております。ところが、実際は、満足にできていません。次の表は、そうした細部のところ、建築基準法における法令点検の項目、そして消防法に基づく法令点検の項目を細かく整理したものです。
以上、駆け足でお話しして来ましたが、ご静聴いただきありがとうございました。