イベントレポート詳細Details of an event

第97回AGC Studio Design Forum
「アートでつくる都市スケールの “ラウンジ”」

2018年10月18日
講演会/セミナー

矢野 京橋1丁目東地区のエリアマネジメント活動の取り組みの話をする前に、2013年頃設計初期段階で考えていた現代における美術館のキーワードを少しご紹介したいと思います。
これはご存知の通り、ニューヨークのMOMAの写真になります。この美術館には今の都市型美術館のテーマになっていることがほとんど全部盛り込まれているからです。都市の中心にあり、広場・庭園を持ち、人がたくさん訪れ、アートと賑わいが共存し、レストランも大きなミュージアムショップもあります。すなわち、一つ目のキーワードとしてアートを鑑賞する美術館そのものの機能に加えて、さまざまなエンターテインメント性がすごく求められていると感じます。画面左のルーブル美術館には同じくそのすべてがあると思います。森美術館も、ここは高層ビルの最上階にあって眺望がすばらしく、企画イベントや食事に関しても独自性を発揮されている日本の良い事例です。

 

二つ目のキーワードは「癒し」です。写真の左端にあるルイジアナ美術館は、世界で一番美しいといわれる美術館ですけれども、回廊から庭園を眺めるタイプの回遊型美術館です。その横の原美術館も庭園が非常に優美です。また右のポーラ美術館は、我々日建設計が手掛けた箱根の森で自然との調和を目指した美術館です。「癒し」は結構難しいテーマで、普通はやはり郊外まで行かないと自然と触れ合う豊かな環境に身を置くことはできません。都心に建てる際には、どうしてもその癒しを別のものに変換しないといけない、ないものねだりになりますがそこが建築的な工夫につながります。

 

三つ目は、「まちづくり」というキーワードです、実は今の美術館にとって、まちとの関わりを生み出すことが最も重要なテーマになると考えています。ここに美術館中心のまちづくり、観光拠点、まちの活性化、と記してありますが、例えば、この直島(ベネッセアートサイト直島)は、安藤忠雄さんが最初に手掛けられ、妹島和世さんなども関わり、島中が美術館みたいな場になっています。一方、倉敷へ行くと大原美術館が倉敷の美観・伝統保存地区の中のシンボルとして存在します。やはり、大原美術館があるのとないのとでは、倉敷のまちのポテンシャルが大きく違ってきますよね。グッゲンハイム美術館も、この美術館ができたことでビルバオのまちが変わり、世界中から注目を集めた世界で最も有名な事例です。

 

四つ目は、美術館の一側面である高尚な場所で近寄りがたいという印象とは逆のイメージで、気軽な待ち合わせ場所になりえる、開かれた中庭、広場、エントランスホールが必要だと考えています。三菱一号館美術館や、パリのポンピドゥーセンター、ルーブル美術館などは自然と待ち合わせ場所になっていて、たくさん人が来る要素が含まれています。今だとインスタ映えする場所という言葉に変換できるかもしれません。

 

最後五つ目のキーワードは「親しみやすさ」です。先ほど申し上げたとおり、美術館が持つ少し近寄りがたいという側面を持ついかに開かれたイメージにしていくかが大切です。そういう意味では、金沢21世紀美術館は特徴的で、パブリックスペースそのもの、今回のテーマでいうラウンジそのものという言い方もできます。シカゴ美術館も街とダイレクトにつながっているわけではありませんが、この大通りのようなホワイエが特長的で、都市景観を眺める立地も含めて開かれたイメージがあります。

 

これら美術館を取り巻くキーワードも踏まえて、京橋一丁目東地区のエリアマネジメントの進捗についてお話していこうと思います。エリアマネジメントは事業者側が実施すべきことなので設計事務所が口出しすることではない、と思われる方もいらっしゃるかもしれません。しかし、本プロジェクトでは設計事務所も都市計画・設計で終わりではなくその後の街づくりにも積極的に関わっていく新しいプロセスを今まさに進んでおります。その理由は、今回の特区が都市計画決定で都市貢献として挙げたのが、ハードを整備すると同時にソフトも整備することを大テーマに挙げているからでもあります。この図に書きましたが、2016年12月の「エリアマネジメント検討組織」とありますが、永坂産業さん、戸田建設さん、石橋財団さん、アクシスさんがコアメンバーになり、将来的に東京駅周辺の美術館、近隣町会や周辺の小学校等、大学や専門学校、デザイナーや建築家等と連携することを目標にして、約2年前に準備委員会ができました。ここでの日建設計の役割は、ファシリテーターとして生まれたばかりの組織の進む道を主導・助言をしながら一緒に考えていくという役割を担わせていただいております。ファシリテーターは、ニッケン・アクティビティ・デザイン・ラボ、通称NADという日建設計内のチームが担っており、「空間における人々のアクティビティをテーマに、社会や空間にイノベーションをもたらすさまざまなデザインを行う」をコンセプトにしている部門です。空間における人々のアクティビティを能動的にすることが企業や社会にとって特に重要と考え、そのためにハードとソフトを横断する新しいデザインが必要であると考えたことが誕生の経緯です。このチームは領域横断的にデザインをすることを信条としていますので、今回のようなテーマに向いている組織です。

 

次にエリアマネジメントの段階的な検討フローを図に示します。このプロジェクトは2016年の3月に都市計画の告示を受け、まず2020年1月の美術館の新オープンを1つの目標にし、2020年の東京オリンピックを迎えます。一方、B街区は2024‐5年頃に竣工する予定のため目標を複数設定して段階的にいろんなことに取り組んでいかなければなりません。

 

エリアマネジメントの検討をスタートさせた2016年は、開かれた美術館をつくろう、芸術文化のまちをつくろう、といった大テーマをもう一度見直すことから始めました。これはその検討プロセスを示したものです。この京橋の「らしさ」と「起こってほしいこと」は何だろうかを関わっていらっしゃる4社でワークショップを繰り返しながら発見するというプロセスを皮切りに、仮説を立てどういった新しいビジョンを描けるかを全員で構築しました。また、今回のワークショップを通じて出てきたキーワードを手掛かりに何かヒントになりそうな取り組みをしている方にインタビューも行いました。インタビューは日建設計が行って報告するのではなく、事業者さんが主体的にインタビューをしにいくやり方をとっています。一方、アナロガスとして他事例を見に行くということも行いました。京橋で実現したいこと、やりたいことは何だろう? というのを全員で考えるプロセスを通して、KEYUX(Key User Experience)としてユーザー経験の仮説を構築しました。その仮説をベースに実現したいアイデアを現実的に出し合い、次のステップにつなげて進めていっています。既成概念に囚われず新しい価値を探すため、クライアントとコミュニケーションしながら社会や地域に潜んでいる手掛かりを探すプロセスを経て、またそれと同時進行でエリアマネジメント組織を成長させる、プロジェクトを積極的にデザインすることに取り組んでいます。

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