イベントレポート詳細Details of an event

第97回AGC Studio Design Forum
「アートでつくる都市スケールの “ラウンジ”」

2018年10月18日
講演会/セミナー

矢野 さて、最初にお話ししたいのは今日のテーマ「アートでつくる都市スケールの”ラウンジ”」ですが、自分で書いていて「それってどういう意味?」と思うのです。例えば今、「アートって一言でいうと何ですか?」と聞かれて、答えられる人はなかなかいないと思います。連想しやすいのは、絵画を見るとか、彫刻を見るとか、などですね。でも現在、アートの定義自体がかなり幅広くなって、何がアートかなかなかわからなくなっている。そこにアートを置いたといえば、もうアートだと言えるような時代になっていますね。だから「アートって何?」という意味で、今日のこのテーマの意味がよくわからない、と。言わずもがな、都市というものも一言では形容できなくて、都市を語れ、と言われてすぐ語れる人はいないかもしれません。

 

一方、今日、話の中にブリヂストン美術館という、今年9月に名称変更を発表して来年から「アーティゾン美術館」になりますけれど、美術館というキーワードも出てきます。ただ「美術館って何ですかね?」というように、今は美術館の定義もすごく揺らいでいます。美術館というプログラムは、ヨーロッパのルネッサンス時代に世界中のいろんなものを収集してひとつの部屋に展示する、というある種貴族の道楽みたいな部屋からコレクションとして始まったと言われています。そういう文脈から昔は美術や芸術の定義が簡単であったのですが、それを収納する箱としての美術館も今はどんどん拡張されて、都市と一体になってくるような状況が出てきています。

 

先日、ニュースになっていましたが、ロンドンのバンクシーという芸術家がサザビーズのオークション会場で、自分の絵画、「花と少女」という絵だったと思いますが、落札された瞬間に額縁に仕込まれたシュレッダーで切り刻まれるという、パフォーマンスみたいなことを起こしました。彼自身は、その絵が1.5億円で売れるような有名なアーティストなんですが、結果としてその絵は、ゼロ円になるのではなく、1.5億円で売られ、おそらくそれを転売するともっと価値が出るというものだったと思います。その中でキーワードとしてあげられるのが、コンテクストで、やはり文脈の中でアートが存在するということを感じさせられました。アートにはストーリーが必要で、ストーリーさえあれば、アートになるかもしれない。そういった広義でのアートを主張しているんだと改めて思い知らされた次第です。今日は、アートを美術館の中にポンと置いただけで人が集まるか? と。ある種、根源的な疑問を我々が抱く中で、今回のプロジェクトではいろんなクライアントの方々とまちに発信をしよう、と。少し開かれたものをつくれないかというところでプロジェクトを進めています。そういうプロジェクトの紹介をさせていただきます。

 

 今、スライドで映した文字が、このプロジェクトで大きなテーマに掲げているものです。「まちに開かれた芸術・文化拠点をつくる」と、言葉にするとすごくシンプルなのですが、これをどうやって実現するのか。やはり広場をつくり、建物をつくれば、それでできるのか、と。それが最大の疑問であり、お客さんと一緒に常に考え続けているテーマでございます。

 

 いま計画が進んでいるプロジェクトは、このブリヂストン美術館があったこのエリアを指しています。この京橋がどういうエリアかということについては、みなさん体感的にお気づきかもしれませんが、こちらの賑わい観光拠点になっている銀座と、歴史文化のまちとして知られる日本橋をつなぐ、ちょうど中間のエリアにあります。一方、東京駅を起点に見ると「大丸有地区」と呼ばれる、大手町、丸の内、有楽町という国際金融ビジネス拠点のエリアがあります。それを貫く交点にあるのですが、大丸有地区と呼ばれるエリアに比べて八重洲側には大きなビルがどんどん建て替わるということが少なかったのですが、もしかすると、これからそういうことが進んでいくかもしれません。一方、美術館という視点に立ちますと、この東京駅の周辺には意外とたくさんの美術館があります。東京の中で美術館が有名な場所というと、上野や六本木などをイメージするかもしれませんが、この京橋界隈についても、この出光美術館、三菱一号館、ステーションギャラリー、ポーラミュージアム・アネックス、東洋美術館、フィルムセンターなど、多くの美術館があります。ブリヂストン美術館も5館連携と申しまして、周辺美術館の何館かと連携をとりながら運営をされていました。こうした銀座と日本橋に挟まれた少し特長が少ないエリアが京橋かなぁというのが、私がプロジェクトを始めた時のインプレッションであり、だからこそ可能性があるのではないかと考えていました。

 

 さて、これからプロジェクトの概要を話します。ここが東京駅、八重洲通りがありまして、中央通りがあります。こちらに戸田建設さんの本社があり、いま、ここで工事をしています。今回のプロジェクトは、図に示すA、B、C の3つの街区があって、簡単にいいますとブリヂストン美術館が入っているA街区と、戸田建設さんのB街区がありまして、その前面にアートスクエアという内外一体となった広場をつくっていくというものです。A街区は永坂産業さんという、もともと土地をもっておられた事業者さんになります。そこに石橋財団、ブリヂストン美術館が加わり、また関連会社として六本木にあるAXISという会社も関わっています。一方、B街区は戸田建設さんの本社であり、その前にアートスクエアという広場を設けることになっています。日建設計の関わり方としては、都市計画は日建設計が全街区をコンサルティングし、設計はA街区を日建設計、B街区を戸田建設さんが自ら行っています。

 

 で、こちらが計画のパースになります。左がA街区、右がB街区になります。(パース図をいくつか紹介)。

 

 最初に「都市再生特別地区」という京橋一丁目東地区の概要をお話しします。なぜ、そういう話をするかというと、昨今、建物をポンと建てただけでは賑わいが生まれてこない、また大きなプロジェクトになればなるほど、いろんな社会の仕組み、例えば行政の仕組みや法規などを最大限分析しながら進めることが非常に重要なので、簡単にその話に触れます。計画地はこういった赤線に囲まれたところにあります。概要としてはA街区が約4万㎡、B街区が10万㎡くらいの建物が建つ。断面図としては、こういう低層部が展示施設、情報発信施設になります。都市再生特別地区という都市計画の名前について少し説明しますと、小泉政権の時に都市再生緊急整備地域という、都市再生を促進させるべきエリアを設定しまして、都市計画を打ってある程度特徴のある街区をつくっていこうということを政治目標として掲げました。整備目標として、赤字で示したような(魅力ある多様な機能集積、街区の再編による土地の高度利用、回遊性の高いネットワーク、通りごとの特性を活かした景観づくり、省エネルギー、省資源、災害に強いなど)テーマがあります。一方で中央区もまちづくりのガイドラインというものを設けています。この計画地は、この資料が示している通り、日本橋と京橋、東京駅前というところに、この整備目標を掲げています。そういう中で特区としてテーマに掲げているのが、この「まちに開かれた芸術拠点の形成」というところです。

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