イベントレポート詳細Details of an event

第77回 AGC studio デザインフォーラム
AGC studio Exhibition No.19「新しい建築の楽しさ2016」展連動企画
「プライベートスペースをパブリックに開く」

2017年2月16日(木)
講演会/セミナー

馬場兼伸氏
(B2Aarchitects)

 

「代田の長屋」(東京都世田谷区)

 

馬場 馬場と申します。展示させて頂いているのは長屋のプロジェクトで模型は入口の正面にあるものです。敷地は、小田急線の下北沢と、その一つ先の世田谷代田駅のほぼ中間にあります。ご存知の方も多いと思いますが、この界隈では住宅の一部が飲食店や雑貨屋になっていたり、アパートの一部屋がアトリエやちょっと怪しい(笑)事務所になっていたり、建物がユーザーによって能動的に使い倒されています。下北沢駅近辺では再開発が始まっていて、地価や賃料も上昇しているので、こういった個人的で非計画的な営為は徐々に、周辺へ拡散し始めているのかもしれません。この敷地のまわりはまだまだ閑静な住宅街なのですが、そういうことが少しづつ起こり始めている気配があります。

 

もう一つ特徴的なのが地形。地名の通り「沢」なので起伏が激しくて、境界際には土留めや擁壁が目立ちます。この敷地も北側の境界が古い擁壁になっていました。それから、既存建物が印象的でした。4mギリギリの前面道路から15メートルくらい奥に入る旗竿敷地で、もともと長屋が建っていました。竿に近い左側3分の1にオーナーさん一家が住んでいらっしゃって、奥の4部屋が賃貸されているというものでした。見に行った時にはオーナーさん家族は既に転居されていましたが、下の階にはお年寄り、上の階には若者が住んでいて、ミックスドコミュニティが自然に生まれている。こういう「質」をなるべく継承したいと思いました。まとめると、能動的に使われること、地形に対応すること、異なる価値観や立場の同居を許すこと、この3つがテーマでした。

 

ひとつめの能動性に関しては、建ち方や作りが共有できる言葉になっている事が契機になっているのではないか、と感じ、木造の長屋というビルディングタイプを積極的に使ってみようと考えました。一方で、敷地にはかなりシビアな状況もありました。先ほどのふたつめのテーマなのですが、北側の隣地との間に3メートル弱の高低差があって、境界の擁壁がどう見ても既存不適格でした。そこで、敷地北側の地面を1メートルほど掘り下げて擁壁の高さを2メートル未満にしつつ、その残土を使って建物の周りにゆるやかな地形をつくるという造成計画を考えました。こうしてできた敷地内の高低差に合わせて床をスキップさせ、擁壁から少し離して安全性を高めつつ、敷地内通路をグルっと回して南北どちらからでもアクセスできるようにしました。木造の長屋が地形に合わせてズレていたり、道が巡っていて裏表がない、見慣れたものに新しい視点を発見するような世界です。

 

3つめのテーマについては、このようにしてできた環境の使い方にバリエーションを提案することで応えようとしました。(平面図を元につくりを説明)長屋らしく先ほどの建物を短冊状に6つに割っていますが、境界が不完全でところどころでつながっています。このつながりを操作することで、南北、上下に様々な住戸をつくることができます。事業者の方も交えて、環境を活かして価値を最大化する住戸割りを考えた結果、このようになりました。例えば西側の端の住戸は、地上にDK、半階降りると寝室のワンルームタイプ、その隣は地上に水回り、半階降りると書斎、上がるとLDK、さらに上がると南側に2つ寝室があるファミリータイプ、もう一つ隣は地上に水回り、半階降りると2戸分の仕事部屋、上がると寝室があるSOHOタイプ、そのまた隣は下の階を持っていない独立性の高い2LDKといった具合です。断面図です。敷地内の高低差とスキップフロアの段差が同じ1.4m、階高はその倍の2.8mという設定です。北側の敷地内通路に面して1m幅のちょっとしたテラスを設けました。専有、共有どちらにも使用できるクッション的なスペースとして期待しています。

 

このように、長屋という既知の形式を保持していて、地形に柔軟に呼応し、社会との距離感に選択肢のある建物を目指しました。 また、これは事後的な発見なのですが、敷地内を造成することで境界と敷地の関係に、長屋の中に様々なタイプを見出したことで建物と内容の関係に、それぞれズレが生まれているのですが、同時に、そのズレによって共通言語が見出されているという印象があります。前者では地形と擁壁、後者ではビルディングタイプと形式がそれで、異なる価値観が無意識に同居できることや、使われ方の変化に寛容で事後的に手が加わることを加算的に力に変えることができるような建物を考える上で大切だと思います。

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