イベントレポート詳細Details of an event

第77回 AGC studio デザインフォーラム
AGC studio Exhibition No.19「新しい建築の楽しさ2016」展連動企画
「プライベートスペースをパブリックに開く」

2017年2月16日(木)
講演会/セミナー

中崎 隆司氏
(建築ジャーナリスト、生活環境プロデューサー)

 

中崎 みなさんこんばんは。第77回のデザインフォーラムを開催します。今日の講師の方々は、一番奥から伊藤さん、馬場さん、落合さんです。まず1階で展示しているプロジェクトについてプレゼンテーションをしていただき、後半は「プライベートスペースをパブリックに開く」というテーマでトークセッションを行います。では、伊藤さんからご講演をお願いします。

 

伊藤立平氏
(伊藤立平建築設計事務所)

 

「木(もく)の風景」(山口県長門市)

 

伊藤 1階に展示している「木の風景」について話します。このプロジェクトの計画地は山口県長門市、山口県の山陰側にあるのですが、先代から製材業を営まれている社長さんから依頼があり、まちの中に家族で生活しながら、自分が営む製材業の存在を示せるような建物をつくれないか、というところからスタートしました。長門市には比較的大きな漁港である仙崎港があり、自然豊かなまちです。赤い瓦の家並み、穏やかな内海、田畑、特徴的な形の山々・・たぶん昔からこのような風景だったのだろうと想像できる場所です。計画地は、長門市駅に近い中心市街地にあります。お施主さんは今、40歳なのですが、彼が小中学生の頃には肩がぶつかるくらい賑わっていた通りだった場所も、現在はほとんど人がいない状態になっています。

 

計画地はもともと田んぼだったところが新しく宅地へと開発され、区画割が整理されている場所にあるため、やや人の密度があるという印象です。(航空写真を見せながら)この赤い点のところが計画地で、もともとは先ほどの駅前のほうにお父さんの代の製材所があったのですけれども、現在は業態の変化に伴って、こちらの、計画地から10キロほど離れた郊外の山間部に移転しています。山に近い製材所では、建築・家具材料の他、丸太を砕いたチップを紙の原料にしたり、皮を剥いで肥料にしたり、木屑は家畜小屋に敷いたり、様々な加工過程の木が山積みになっている風景があります。製材所で働く方々は、木の加工工程の中で、さまざまな仕事をしており、とても活気にあふれています。

 

しかし、この地域の林業・製材業も、衰退傾向にあり、決して状況は良くありませんが、この製材所では山の状態をうまく維持するためにも林業・製材業を持続していく方法を考えています。地域の山はもともと赤松主体の植生だったのですが、赤松が枯れ、その後継種として椎に代表される広葉樹が豊かな生態を育んでいます。椎の木は、根元から伐採しても、そこからまた芽が出てきて大木に育つようです。作業道をつくらず山を傷めないように、森の生態を守りながら広葉樹材を切る林業にもチャレンジしています。
*写真で製材所の様子を紹介。

 

造作や家具のための小径材、集成材、フローリング材へと加工する過程で、反りが発生しやすい広葉樹材を自然乾燥させるための、「桟切り」という方法で色々なサイズの木が積みあがっています。話を聞いていると、広葉樹材は樹形が曲がりやすいため長い材がとりにくく、また、節・虫食い・変色などがあり、製品として使えない材料が結構出るようで、丸太からとれる材料の1割くらいは不適格材になるようでした。こういう不適格材や、長さの短い材を何とか活かしたいと思い、建築に取り込めないかと考えました。小さな材を縦横に組みながら壁にして、構造材としても使えるようにしました。

 

 こちらが建物の平面図です。お施主さん、つまりこの会社の社長さんが40代で、奥様と2人のお子さんの4人家族が住むことを前提にした建物です。北側が道路です。道側から、(先ほどの広葉樹端材でつくった)組壁によって囲われた開放感のある表庭(外ギャラリー)・居間(内ギャラリー)・奥庭(外ギャラリー)が連続し、まちに対してオープンなつくりにしています。室内の中央に、居間(内ギャラリー)として使う吹き抜けの空間があります。ここは住宅のスケールよりも一回り大きな空間になっています。その周りをいくつかの部屋が立体的に取り巻いています。椎材をメインで使っていて、組壁では実験を行って曲げ・圧縮・めり込みの強度を出し、ジョイントの強度を実測し、構造材として必要な強度計算をしています。組む際のガイドでもあり水平力を伝える鉄筋と板との固定は色々試して楔がいちばん効くことがわかりました。雨を外に流すための勾配を試したり、プレス機械で板を接合する際の効率化も検討しました。モックアップ実験では、最大の風荷重を受けた時のことを砂袋で想定して実験しています。

 

また、外に5年ほど放置した椎材の状態を見て、椎材が外部で使用できるかどうかを確かめました。特別な技術を用いず誰でもつくりやすい工法を目指しているので、このように学生にも参加してもらい、壁を組んでいます。モジュールが1m強なので、学生でもできます。高いところは大工さんにお願いし、徐々に組みあがっている様子です。室内は在来軸組の柱・梁を支えるように、壁が組まれています。それともう一つ、製材の過程で出るカンナ屑を断熱材として使えないかと考えました。サイズを分類して実験を行い、グラスウールと同等以上の性能が出ることが分かりました。セルロースファイバーを施工している会社さんに、試しにカンナ屑を吹いてもらいました。セルロースファイバーよりも匂いが良く、職人さんからも好評で、かなりいいと思っています(セルロースファイバーとカンナ屑の断熱性能を比較した実験の途中経過をサーモグラフで報告し、施工過程を画像で紹介)。

 

 これが完成した建物です。こういう組壁が柱と梁を支え、たわみを止めています。これが長手方向から見た所です。組壁と在来工法の壁に囲まれた空間ができています。(*室内画像を紹介)。中央の居間(内ギャラリー)の内装は、5種類くらいの地元広葉樹材を用いて仕上げてあります。こうして内部・外部共に製材業を営む社長さんの家ということが分かるようになったのではないか、と思います(画像をたくさん紹介)。そもそも、社長さんとしては「広葉樹材を上手に扱う製材所の技術を広めたい」と。それを地域の人に知ってもらい、相談してもらい、使ってもらいたい、という目的がありました。私の方は、建築に広葉樹材とその技術をうまく取り入れていく方法を悩んで考え、結果的に生業が育んできた技術と建築が強く結びつくことになりました。このような取組みにより、生活と生業が共存する空間が持つ、まちにとってのパブリックな役割について考える契機にもなるのではないかと思っております。

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