イベントレポート詳細Details of an event

第76回 AGC studio デザインフォーラム
AGC studio Exhibition No.19「新しい建築の楽しさ2016」展連動企画
「パブリックスペースの中にプライベートスペースをつくる」

2017年1月19日(木)
講演会/セミナー

中崎 隆司氏
(建築ジャーナリスト、生活環境プロデューサー)

 

中崎 みなさんこんばんは。第76回のデザインフォーラムを開催します。初めに今日の講師の方々をご紹介します。一番奥から百田さん、大西さん、山崎さん、森田さん、そして高野さんです。これからこの5人の建築家の方々に、1階で展示しているプロジェクトについてプレゼンテーションをしていただき、その後にトークセッションを行います。では早速、大西さん、百田さんからプレゼンテーションをお願いします。

 

大西麻貴氏 百田有希氏 
(大西麻貴+百田有希/o+h)

 

「福智町立図書館・歴史資料館 ふくちのち」(福岡県福智町)

 

大西 こんにちは、大西麻貴+百田有希/o+hという名前で設計事務所をしております。今日は「パブリックスペースの中にプライベートスペースをつくる」というテーマを与えられております。そこで、1階のギャラリーで展示してある「ふくちのち」という図書館リノベーションのプロジェクトと、「グッドジョブセンター」という、奈良にある障害者支援施設のプロジェクトを紹介します。

 

 最初に「ふくちのち」というプロジェクトです。敷地は九州の福岡県福智町というところにあります。福智町はかつて炭鉱で栄えたまちです。3つあった町が合併して福智町になったのですが、その時に使われなくなった旧・赤池町の役場を改修して図書館にする、画像のこの建物を改修するプロジェクトです。今回は図書館と歴史資料館の複合施設ということでしたので、建築家、デザイナー、編集書の3人でチームを組み、コンペに参加しました。この時にまず付けたのが、「ふくちのち」というタイトルです。図書館の知恵の「ち」と土地の「ち」のふたつの「ち」が集まった場所として「ふくちのち」という愛称を付けて、このプロジェクトに臨みました。建物の詳細としては、建物の向かい側にまちの人に親しまれている「ワイワイワ広場」という広場があったので、それに対応するようなかたちで建物の真ん中にある大きな吹き抜け空間を「ワクワクワ広場」と名付け、たくさんの活動が溢れてくるような、そういう「ち」の場所になるような図書館・歴史資料館を考えています。このように2階建ての建物なのですが、1階にはカフェがあったり、ショップがあったり、工房があったりと、図書館なんだけれども、とても賑やかな活動が起きており、ここに来たらたくさんの情報と出会える、というような場所になっております。一方、2階に上がると、少し落ち着いた図書スペースになり、窓辺にたくさんの居場所があって、外の緑が見えたり、山が見えたりするという構成になっています。こちらが真ん中のワクワクワ広場のイメージです。そして例えば、1階にはこういう地域の食材を楽しめるカフェがあったり、3Dプリンターなどを備えた工房があり、そこでのものづくりをきっかけに、さまざまな仕事や学びにつながっていくようなことが起こったり、あるいはキッチンスタジオがあって、地域のお母さんたちが集まって料理教室を開いたりとか、料理本に出ている料理を試したりなども行えます。2階に上がると、本棚同士の間に小さなスペースがあって、落ち着いて本を読むことができたり。ほとんどの空間が広場のように、普通の図書館よりも少しにぎやかな場所になっておりますので、もともと議場だったところは「サイレントルーム」という名前を付け、静かに本を楽しめる場所になっていたり。あるいは窓辺にさまざまな印象的な空間があって、例えばデイベッドのように広くなっていて、ゆったりくつろぎながら本を読めるとか。そのようにできています。

 

 今回は、もともとの建物の構成がはっきりしていたので、一番大事にしたいと思ったのが「自分たちのまちを自分たちでつくる」ということです。今、公共建築というものが本当にまちの人に愛されているのだろうか、という疑問から出発して、建物をつくるのは建築家でもないし、行政でもなく、町の人々が、それを欲しいと思って一緒につくるのが大事ではないかということを町のみなさんにも投げかけてつくっています。具体的には、コンペの後に住民説明会があり、自分たちのまちをじぶんたちでつくるということをどうやっていこうか? と呼びかけをしたところ、たまたま一番前の席に座っていたのが、3つある中学校の生徒会の子たちでした。福智町は炭鉱が主たる産業だったのですが、それが下火になってからは財政的にとても厳しい町になっており、図書館ができるということに対して、反対する住民も多かったのですが、その前の座席にいた中学生たちが最初の質問受付で、はい、と挙手をして「もし、こんな図書館・歴史資料館ができるのだったら、僕らも何か一緒にしたいのですが、僕らに何かできることがありますか?」と聞いてきたのです。中学生が最初にこういう質問をしたため、他の住民も、反対するような意見を出せなくなったのです。

 

その後に彼らが貼ってくれた付箋がこれです。「赤池中、北条中と交流を深め、福智町を中心に田川のイメージを変えていきましょう」。ああ、この子たちと一緒にやっていけば、本当に自分たちのまちを自分たちでつくるということができるのかなぁ、と思って、この住民説明会の2週間後から夏休みが始まったのですが、実際に改修する建物の、ワクワクワ広場になる場所に仮説のテントを建てさせてもらいました。そのテントで、設計チームの私たちo+hと、編集をやっている大阪のムエスムという事務所と、デザインの仕事をしているUMAという3つの事務所の総勢15名ほどがここに集まって、仮設の事務所を1週間設置し、まちの人々と一緒に図書館を考えるということをやりました。住民参加のワークショップはよくあると思うのですが、それがあまり面白くないと、中学生の子供たちも参加したくないだろうなぁ、と思って、何か楽しみながら建築について考えられる仕組みをつくろうと考えました。例えば、みんなで一緒に晩御飯を食べたりとか、今回はリノベーションのプロジェクトだったので、空間は既にある、と。だから、それをどうやって使うのかを実際にやってみることができるのです。それで、図書館・歴史資料館ができたら、やってみたいことをみんなでやってみよう、と。

 

これはまさに今回展示してある模型ですが、この模型を前に、ここをどうしようか、という話をしたりとか、このように「突撃取材」をして、テレビ番組っぽい看板をデザイナーがつくって、中学生から町のおじいちゃん、おばあちゃんに「図書館・歴史資料館をどうしていきたいか」というインタビューをしたり。今回は図書館の中に工房をつくろうというアイデアが出たのですが、その工房でなにをやるかという時に、こういうシルクスクリーンをやったらどうか、ということで、この生徒さんは、最初、ただ連れてこられたのですが、やっているうちにシルクスクリーンがとても楽しくなって、初日はシルク班長と呼ばれていたのが翌日はシルク部長になって、最終日にはマルシェでシルクショップ○○という自分のお店を出すというような話になりました。そのように図書館が、本に出合う、本の中の「知恵」に出会うということだけれども、それだけでなく、ものづくりとか、新しい先輩がやった仕事とか、学校でも出会わない、いろんな知恵との出会いになればいいなぁ、と感じました。また、子育て世帯を応援したいというのも町の方針にあったので、実際にそういう世帯のお母さんたちに話を聞いてみました。お母さんたちは、幼稚園くらいの子供たちに食育をすることに関して興味があると言っていて、その後に、合鴨農法をされている農家さんのところへ行くと、農家さんは自分たちの農業を子供たちに伝えたいと思っていることが分かりました。そうすると、同じ町にいるこの人々がどうして出会わないのだろう、ということが分かりました。こういう人と人が出会う町になっていったらいいなぁ、と思ったり。また、年配の方から「昔の映画が見たい」という要望があったので、ある空間をつかって夜に映画会をやったり、とか。そういうことをやっているうちに、最初は5、6人で始めたワークショップが、どんどん人が増え、こういう壁新聞を一緒につくって活動を町の人に知ってもらおうという活動に発展したりしています。その後にも歴史資料館をどう考えていくかについて編集者の方が、町の人にインタビューに行き、町の「知恵」を聞き出すようなことをやったり、カフェがあるので、そのメニューを考えるにあたり料理研究家の人と町の農家さんを回って、例えばレンコンのおいしい食べ方を聞くなど、そういう建築以外のいろいろなことを一緒に組み立てていくようにプロジェクトを進めています。これらの活動について、今、ウェブサイトで掲載して公開しております。

 

*ここから、演者が百田有希氏に交代

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