イベントレポート詳細Details of an event

第96回AGC Studioデザインフォーラム 「空間のしきり」

2018年9月13日(木)
講演会/セミナー

 嗅覚についても見ておきましょう。視覚障害の方に、たどってきた道について聞くと、目印を教えてくれます。どんな目印かというと、”光・音・ニオイ”が関係したものが多いです。”光”には自動販売機、ネオンなどがあり、それらがサインの一つになります。”音”には、最近は減ってきていますが音響信号があり、また、パチンコ屋さんの入口近くの音、店頭で音楽を流しているショップなどを手がかりに道を覚えている人もいます。
 特徴的だと思うのはニオイでして、カレー屋さんやコーヒーショップはいいニオイがするので、目印として使いやすいです。ニオイを上手にサインとして使っている例として、或るホテルで見た方法があります。フロアごとに違う種類のお香を焚いていて、そのニオイの違いで、自分が今、何階にいるのかがわかる。そういう工夫をしているところもありました。
 ただ、駅のような公共空間では、いろいろなニオイがします。そういうニオイが混ざらない工夫が必要なので、本格的に使用するには今後、研究が必要な分野だと思います。

 

 これまで見てきた、いろいろな種類のナビゲーションサインを出すことで、視覚障害の人が一人で歩く際の助けにはなります。ただ、歩きスマホとの衝突は防げるかというと、こうした配慮では防げませんね。しかし、もしもお互いが相手を思いやる気持ちがあれば、歩きスマホをしないで済むかもしれない。最初に言った、心のバリアフリーが本当は必要なんじゃないかな、と思うこともあります。
 冒頭にもお話しましたが、心のバリアフリーという話は最後に出てくることが多い。シメの言葉として、それを言われると、小学校の道徳の授業を思い出します。障害がある人の話をしたときに、「人間は助け合いが大事ね」など、心の問題にまとめられてしまうことに、納得ができない。ユニバーサルデザインは道徳を教えるための教材でもないし、もしかしたら助け合いでなんとかなるなら、環境整備をしなくてもいいのではないかと誤解する人が現れるのではないかと、そういうことを感じてしまいます。デザイナーやエンジニアであれば、心のバリアフリーという言葉を聞いたときに、そこで思考を停めるのではなく、心に働きかけてその人の行動を変えられるようなデザインを考えていくことが必要だと考えます。

 

 そこで、最後に1つ問題提起をしたいのですが、「共助を促すデザイン」、つまり人の行動を変えるようなデザインが、公共空間を造るうえで必要な視点になってくると思います。
 例えば、お互いの存在と困りごとに気づくデザインです。今は、視覚障害者が歩いていますよ、と杖で音をたてて相手に知らせなければいけない仕組みになっていますが、デザインにうまく落とし込むことで、それを変えられないか。あるいは、困っている人がいたら、さりげなく手を差し伸べることはできないか。現在は、障害者の方が外出するとき、謝るシーンに出会うのが嫌で出かけたくない、何らかの引け目を感じてしまう、という人が多いのが現状です。
 外出に慣れてくると、「ごめんなさい」ではなくて、「ありがとう」と素直に言えるようになるのですが、そういう気持ちを行動につなげるようなところが、日本ではまだうまくいっていないかも知れません。お互いがちょっと幸せになるデザインが実現すると、障害者の方の外出はもっと楽しくなるでしょう。

 

 最後のまとめとしまして、「視覚障害者の誘導は点字ブロックでいいのか」について考えますと、今までの話を聞いてくれた皆様は「No」と言ってくださると思います。点字ブロックがあればOK、と感じることは、そこで思考停止になってしまいます。あくまでも、点字ブロックは最終手段だと思って、デザインなどに取り組んでいただければ有り難いです。
 人間にはいろいろな感覚があり、それに対する情報提示をすることで、視覚障害の人だけではなく、聴覚障害の人など、さまざまな人にとって使いやすいデザイン、ナビゲーションになると思います。視覚障害者だけでなく、さまざまな人の助けになるような公共空間を造るために、五感を活用したサインを工夫していただければと考えます。
 ご清聴ありがとうございました。

 

 

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