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第96回AGC Studioデザインフォーラム 「空間のしきり」

2018年9月13日(木)
講演会/セミナー

 私が手がけた事例などを用いて、具体的なところを見ていきましょう。
 写真左側にある事例では、反射ガラスを用いて、別の建物がお互いを映しており、面白い空間が生まれています。右側は、熱線反射ガラスではなく、省エネのためのLow-Eガラスでして、熱を司る光の波長域を反射する性能があり、ガラスに金属をコーティングして反射させるため、色味がついてしまいます。そこで、逆に色味を利用する使い方ができ、「映す」が出てくるわけです。
 この右側の例では、結果的にですが、街路樹の緑や屋根が映るなど、周囲にあるものの映り込みが面白い表情を生んでいます。

 

 ガラスを使うことに慣れてくると、面だけではなくカタチ・形態をデザインするという、次のステップに入ってくると思います。
「あっ、こんなことできるんだ、次は何ができるかな」というように、建築デザインに携わる方々は考えるのだと感じますが、私のようなエンジニアは、そのデザインを技術的にどう実現できるかを考えます。これから紹介する事例は、そういう案件になります。
 左側はガラスのカタチが変わっている建物ですが、コンクリートにただガラスをはめ込むということではなく、なかなか難しい案件でした。設計者のコンセプトに、「シンプルでなければならない」ということを読み取り、そうなると一気に難解な話になってくる。はめ込むということはできるが、そこにシンプルさを求められると、途端に難しくなるのが、私たちエンジニアの仕事の世界かと思います。
 車やテレビも同様で、例えば、テレビですと、フレームがだんだんなくなり、画面だけになったのが今のカタチでしょうが、そこに至るまでは大変な苦労があったと想像できます。この事例についても同じことが言え、最初に触れるのは線と模型で表されるデザインなのですが、その裏に「すきっと見せたい」という一言があるだけで、エンジニアリングとしてはものすごく難しくなる。そう思って取り組んだのが、この事例です。

 

 一方、ガラスを使って立体的に造形したいという意向もあり、次の事例がそれにあたります。ご覧のようなカタチをしている訳ですが、これをどう造るのかが最大の課題となりました。構造的に可能なのはわかるのですが、実際の施工を考えた際、どう造っていくかには回答がなかった。ただ、幸いなことに、旭硝子には先程のDPG工法やケーブルなどの技術と経験があり、チームで取り組み始めたわけです。施工技術として非常に高度なものになりましたが、このような建築物として完成しました。
 また、ケーブルなどを使わずに、ガラスだけで立体構造を造れないか、という要望もあり、こちらがその例です。ここに白っぽく見えるのが天井でして、これもガラスですが、この裏に鉄の構造物があります。その影が映ってガラス空間を損なわないイメージで取り組んだのですが、できるだけ影ができないようにするのは、構造の担当者も大変だったかと感じます。
 結果的に、ガラスだけでできている空間が完成しました。このようなカタチは、一般的な建築物では難しく、まず、建物全体を免震構造にする必要があります。さらに強化ガラスでないともたないので、大きな強化ガラスができる製造力も条件となりました。さらに、万が一割れた際にもガラスの破片が飛び散らない合わせガラスを用いるため、大きな合わせガラスの製造力も必要でした。そういういろいろな条件を擦り合わせながら、完成した建物です。

 

 海外の事例を紹介しながら、ガラスの色を生かした建築物も見ていきましょう。日本でも最近、外装にガラスの色をうまく使った建物が増えていますが、ヨーロッパでは、以前からそういう色使いが上手に行われていると感じます。
 ご覧いただいている建物では、壁から色が少し違うガラスが突き出ています。薄い膜を何層にも重ね、光線の入射角によって色が変わるようになっており、遊びと言えば遊びですが、とてもきれいです。
 次は、ブラインドに色付けした事例です。熱処理をうまく行うため、外付けブラインドや、ガラスとガラスの間にブラインドを使うことが多いのですが、そのブラインドに色を付けているパターンです。もちろん、ガラスに色付けする方法もあるので、それも一つのやり方だと思います。一方、こちらの事例は、あえてガラスの透光性だけを残し、透視性をなくして造られている空間です。

 

 このように、ガラスでいろいろな形態が造れることがわかってくると、全部ガラスだけでやってみよう、という考えが出てきます。
 実は、ガラスを大きな面で使う、たくさん使うということは、かなり以前から行われていた試みでして、19世紀に実現されています。現代の日本でガラスを大きな面で、たくさん使う場合は、超高層ビルのようにカーテンウォールとして使い、アルミフレームにガラスをはめ込んで並べることで、全体がガラスで覆われたように見せることが多くあります。
 そのカーテンウォールの始まりと言われているのが、ロンドンで開催された第1回万博博覧会の会場となった水晶宮です。その背景になっているのがこういう建物でして、当時、貴族たちの間で庭園内に大きな温室を造ることが流行し、ガラス張りで建てられるものが多かった。このように大きな建物をガラスで大胆に覆ってしまう、というニーズがあったわけです。

 

 それに関連した海外の事例を幾つか紹介しましょう。
 こちらはフィラデルフィアにある建物です。コンサートホールを2つ備えており、その外側を大きなガラス性ドームで覆っています。とても大胆で、きれいな建造物だと思います。
 次の事例は、シャボン玉のようなガラスが特徴的な実験用構造物です。建築ではまだあまり使用例は多くないとは思いますが、スマートフォンなどに用いられる薄板ガラスを使ったものです。こちらも海外の事例でガラスと小さな部品で空間を覆ったもの、次は日本のもので、同じようにガラスで全体を覆う方法です。
 一方、こちらは大阪にあるもので、大きなガラスドームで展示物を覆っている事例です。こういう「しきり」を施すと日射で熱くなるなど、内部環境がどうなるかが気になるところですが、それに対するソリューションについて、ガラスを扱う側も考えています。例えば、こちらは2枚のガラスを接着した合わせガラスですが、その間に穴の開いた鉄板を挟み込んでいます。一見、透明ですが、よく見ると濃淡があり、開口率を変えることで光の入り方を変えています。面によるグラデーションの表情など、均一でないところの面白さがあると思います。
 海外の事例ですが、真紫のドームを造れないかということで、チタンの板を挟む試みがあったのですが、途中で建築計画が断念され、未完成に終わったものもありました。

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