イベントレポート詳細Details of an event

第75回 AGC studio デザインフォーラム
AGC studio Exhibition No.19「新しい建築の楽しさ2016」展連動企画
「建築的視点を拡張する」

2016年12月15日(木)
講演会/セミナー

蘆田 暢人氏
(蘆田暢人建築設計事務所)

 

「松之山温泉景観整備計画」(新潟県十日町市)

 

蘆田 こんばんは。蘆田と申します。僕は今回、この展覧会に「松之山温泉景観整備計画」を展示させていただきました。最初に僕の経歴をご紹介しますと、今は独立して自分の設計事務所を営んでいますが、その前に内藤廣建築設計事務所に10年程在籍しました。そこで、建築だけではなく土木の設計にも携わっていました。独立してからも建築がメインではありますが、、土木も手掛けたりしています。それに加えて、仲間と一緒に「ENERGY MEET」という事務所をつくって、エネルギーのデザインをやっていこうとしています。つまり、建築と土木とエネルギーをやっていることになります。

 

なぜこの3つをやっているかと言いますと、それが今日のテーマと絡みそうな気がするのですが、この3つに共通することは、先進国に生きる人がそれぞれに接しない日はないということです。それに対して世の中の仕組みや制度がどうなっているかというと、建築は比較的わかりやすく、デザインであったり、建物がいいとか悪いとか、そういう議論をできるのですが、土木は、最近でこそ土木をデザインする人も増えてきていますが、大半は、大きな会社が行政主導で進めている現状があります。さらにエネルギーに至ってはデザインのデの字も出ない。デザインという言葉が通じないような、コストだとか発電効率だとか、そういう話にしかなっていない状況なのです。でも、人が使うものに対して、人とものを繋げるのがデザインだと思っているので、その辺をやっていかないといけない、という思いでやっています。今日のテーマは「建築的視点を拡張する」ですが、こう言うと中崎さんに怒られてしまうかもしれませんが、建築的視点からどのように逸脱するかを考えながらやっています。

 

 今日、お話しするプロジェクトの所在地である松之山温泉という場所は、ここに示すように新潟県の十日町市にあります。ここは日本有数の豪雪地帯であり、おそらく日本一雪深いところの一つだと思います。位置的には新潟の山の中で長野県に近い場所ですね。これは2、3年前に僕が撮った写真ですけれども、冬になるとすぐこのような風景になるところです。松之山温泉は、ちょうど山あいの谷に位置しており、その川沿いに温泉街があります。このような風景があり、ここに共同浴場があります。街の構成としては、ここに温泉街があり、温泉旅館や飲食店が並んでいます。

 

はじめに、このプロジェクトのきっかけを説明します。この松之山が含まれる十日町市、新潟県の魚沼市と南魚沼市湯沢町、津南町に加え、長野県の栄村と群馬県の水上町などで県を超えた広域の「雪国観光圏」というエリアを形成しています。この観光圏は、観光庁が認定しているもので、現在全国に10数エリアあります。趣旨としては、京都や広島や長崎などいわゆるメジャーな観光地というのは、特別な努力や企画をしなくてもそれなりに人がやってくる。それに対して、ポテンシャルはあるのだけれども、もう少し盛り上げたほうがいいのではないかという観光地に対して、それぞれ観光圏として認定し、いろいろな事業を行うわけです。これは雪国観光圏の組織図です。一般社団法人として民間が中心になり、行政も交えて戦略会議を進めています。特徴としては民と官が協働してこの観光圏に力を入れようとしていることがあげられます。今回の松之山温泉の一連のプロジェクトも、いろいろな事業でいろんなところからの補助金を使って実施しています。単一のクライアントの元で順番にやるのではなく、地域の人たちや行政の人たちと一緒に、民間事業もあれば、公共事業もあるという特殊な枠組みで行っています。

 

 最初にこのお話をいただいた時には、松之山温泉は雪国観光圏の仕組みの中で、食やイベントなどソフトの面で様々な仕掛けに取り組まれていました。そのような取り組みの中で、やはり街も魅力的でなければ人は来ない、という話になり、僕が関わることになりました。お話をいただいて、まず考えたのは、ここには温泉という資源があるということです。ここでは96℃という非常に高温の天然温泉がわき出しています。その温泉を使って行っているのが、環境省による「温泉バイナリー発電」という実証実験です。高温の源泉を使い、沸点が低いアンモニアを蒸発させてタービンを回し発電する、というものです。これまでは人がお湯につかるということでしか利用していなかった温泉資源を、技術によって街づくりに生かそうとするものです(画像で説明)。発電した後の温泉は40℃くらいに温度が落ちるので、それを配管で運び熱交換し、最終的に10℃くらいまで温度を下げて道路の融雪装置に使っています。また、地炉という古民家を改修した体験施設にそのお湯を引いて床暖房などにも使っています。

 

僕はビジョンづくりから関わりました。まちの人たち、温泉組合の人たちといろんなメニューを考え大きな将来像を考えました。そして、いつ、何をやろうか、という仮説のスケジュールを立て、取り組みを始めました。いろいろな枠組みの(補助)事業に当たる可能性があるので、資金の引っ張り方と事業内容を突き合わせて情報共有をしながら取り組んでいます。最初に僕がやったのは、どのような温泉街にしたいかということをみなさんと話し合って考えたことです。その時つくった街並みのイメージがこれです。一見、あまり変わっていないように見えるかもしれません。この道路の真ん中に温泉の融雪管が入ることで、冬に道路の雪を消すことができるようになります。ここの地域はとにかく雪がつもるので、毎日のように除雪車が入り、その除雪車にアスファルトが傷めつけられる。最初に行った時に、道路がすごくみすぼらしい印象を持ちました。でも融雪パイプが通ることで、まず、この道路をきれいにできる、と。また除雪車は道路の脇に雪を積んでいくので、これまでは路肩に街路樹なども植えられない状況にありました。しかし、融雪管で街路樹も植えられる。これらは実はこの地域では画期的なことでした。そのあたりの土木的な街路の整備をやりながら、道路に面した建物に対して簡単にできるしつらえで全体的な景観を整えようと考えました。いきなり全ての建物を建て替えるわけにはいかないからです。例えばここに、杉板の雪囲いがありますけれど、これを1階レベルだけに並べるということを考えました。さらには、夜景も大事なので街路灯もきちんとしよう、と。もともとエネルギーがきっかけだったのですが、そのエネルギーと道という土木の空間と、さらに建築というものをシームレスにつなぐことでできる街の姿があるのではないかと考えています。事業的にいうと、消雪パイプが最初のもので、次に消雪用の機械を入れる建屋の整備を行いました。ちなみに、この消雪パイプは国の事業と市の事業が半々で分担しています。

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