イベントレポート詳細Details of an event

第75回 AGC studio デザインフォーラム
AGC studio Exhibition No.19「新しい建築の楽しさ2016」展連動企画
「建築的視点を拡張する」

2016年12月15日(木)
講演会/セミナー

岩瀬 実際に工事を請けて施工してくださった方々は何社もあるのですが、躯体に関しては土木系の方々が施工してくれ、その間に入ってくれた行政の方が、建築的なスケールでの提案と土木的な施工スキルを調整する役割を担ってくださり、大きな力を借りました。

 

コンペの時は、柔らかなイメージとして、表層の素材は土のようなものをイメージしていたのですが、実際にはポーラス状の、透水性のコンクリートに変更しました。土系の塗装も考えたのですが、実際に土系の見た目を実現しようとすると、どうしても左官などの仕事が生じて、土木の分野では平面と立面を同じ素材で仕上げようとすると、レンガなどの素材に限定されてしまい難しいことがわかりました。このポーラスコンクリートは長い時間をかけて、写真のように苔が生えたりだとか、いい朽ち方をするのではないかと思っています。

 

私がここでメーカーさんと一緒に開発したのは、舗装材を積層させることです。それによって、段階転圧をして、立面を平面とを同じように施工できました。これまで、こんなに段差を設計したことはないので、今回、どのように設計したかというと、模型に「この段差は何段目か」を書き込んでいって、そこに人のシーンを想像できるか、ということを中心に考えをめぐらせました。用いたスケールは180(ミリ)というモジュールで、もちろん、階段のスケールでもあるのですが、2段重なると360という、ちょっと低めの椅子になります。3段重ねると540というちょっと腰かけるスケールになります。420という椅子の寸法をちょっと外すことで、(使い方を)いろんな人の想像力に訴えかける寸法にしています。

 

実際にこれが360のところに座っている人の写真なのですが、面白いのは、人によって使われ方が違い、例えばこの男性などは胡坐をかいて座っています。また右の人は360の段差に座っているのですけれども、こんな風に180の段差に腰掛ける小学生も見られました。これは540の段差に座っている人、これは机代わりに段差を使っている人です。こんなふうにいろんな座り方、使われ方をする段差が混在しているのが、使われ方としてすごく魅力的だなぁと思いました。こんな風に寝転がる小学生が現れたことにもすごく興味をもっています。意外とこれは素材の力なんじゃないか、と思っていて、カラっとしているからこそ寝転がれるのだろうと思いました。例えばここがアスファルトだと想像してみると、ここには寝転がらないだろうと思いますね。

 

今回、土木の設計をするということで、いろんな素材の開発をメーカーさんと協力してやりました。その一つが、この手すりです。土木的にいうとP種の基準(主に垂直荷重条件)に準じた手すりです。転落防止の手すりを設計しなければいけませんが、P種の手すりにしてはかなり華奢にできています。これを実現している理由としては、普段吊り橋などに使われるワイヤーロープの技術を使いました。端部にたくさん張力をかけて、端部の支柱はアングル材でつくっていて、その間を100mくらい飛ばしているので、その間の支柱は力を担保させず、こんな風に華奢にできました。この浸水エリアは、高潮の時に水に浸かるといいう設計をしています。ここはコンペの要綱に違反しているのですが、すごく良かったと思っています。高潮の時に、本当に水が上がったりすると、こういう風に視覚化されるのですが、日常の遊びを通じて「今日はちょっと水が高いんだね」というような防災意識への気付きを訴えられるのではないかと思っています。

 

 施工の段階ですごく印象に残ったことも紹介します。これは街側のエントランスの施工前の風景です。工事が始まって掘り返してみると、このように古い防潮堤が出てきました。今、大阪としてはop+5mのレベルで堤防が設計されていますけれど、この掘り返しで出てきた堤防は、それよりも1.5m低い時のものでした。初めにこれを壊してくれと言ったのですが、施工者に「これは壊すのが大変なんだ」と言われました。「根入れがすごくたくさんあるから壊すのは無理なんだ」と。図面を見せてもらったところ、7mも地下に入っているとわかり、とても土木的だと思いました。これをきっかけに、目に見えないところで頑張ってくれている土木構造物に対して意識が向き、「このプロジェクトは新築ではなくリノベーションなんだ!」と、改めて身を正されたような気持になりました。

 

またもう一つ、これをきっかけに自信をもてたことがあって、これは2000年代に入って施工された耐震化の護岸ですが、ダサくていやけど仕上げで隠す予算もないなぁと思っていたのですが、このプロジェクトはすべてリノベーションなんだと意識すると、この耐震護岸もうまく活かして見せる方が適正だと思えました。この写真はメーカーさんと共同開発したホースの巻き取り機です。これを置くことで、この花壇を誰かが世話していることが分かるといいなぁ、と思って開発しました(*写真で利用状況を説明)。

 

最後に紹介したいのが、このソファです。これは私が置いたわけではなく、誰かが持ってきたものです。賛否両論あるのですが、私は、微妙な気持ちになりました。行政の人からも、すぐ処分だ、と言われ、結局、処分されちゃったのですが、結構、面白いと感じました。この寸法にがっちり収まるように置かれており、ここの場所をなんとか使いこなしてやろうという意思が、このソファから感じられて、それがいいなぁと思いました。公共空間では、勝手にいろいろとできないということもありますが、こんな風にいろいろやってやろう、みたいな個人の気持ちの延長が表れてくると、公共空間はいろんな人の気持ちによって丁寧に維持されたり、うまく使いこなされたりするのだろうと思っております。

 

※関連コンテンツ: ガラスプラザPRO コラム「新しい建築の楽しさ」
Case15:「木津川遊歩空間整備事業」 設計:岩瀬諒子設計事務所

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