イベントレポート詳細Details of an event

第75回 AGC studio デザインフォーラム
AGC studio Exhibition No.19「新しい建築の楽しさ2016」展連動企画
「建築的視点を拡張する」

2016年12月15日(木)
講演会/セミナー

中崎 隆司氏
(建築ジャーナリスト、生活環境プロデューサー)

 

中崎 みなさんこんばんは。まず、今日の講師の方々をご紹介します。一番奥が岩瀬諒子さん、そのお隣が山岸綾さん、そして蘆田暢人さんです。最初はお三方にプレゼンテーションをしていただき、その後で「建築的視点を拡張する」というテーマでトークセッションを行います。では、岩瀬さんから発表をお願いします。

 

岩瀬 諒子氏
(岩瀬諒子設計事務所)

 

「木津川遊歩空間整備事業」(大阪府大阪市)

 

岩瀬 今日、ここAGCスタジオでプレゼンさせていただけるのをとても楽しみにしていました。私は2014年に、携帯の画面などに使われる極薄の板ガラスを使って、AGCさんが主催されたコンペに出展させていただいた経緯があります。それ以降、AGCスタジオのみなさまに、お世話になってきたので、非常にうれしく思っていました。現在、東京藝術大学の建築科で助手をしておりますが、2013年、あるコンペをきっかけに独立しました。画面に映した「Beyond the Boundary」は、学生時代のポートフォリオのタイトルなのですが、設計のテーマとして 領域と領域のあいだに、新たな可能性を見出すことをテーマに掲げていました。実際にこれが、独立してから取り組んだプロジェクトです。土木スケールから、先ほどお見せしたインスタレーションまで、いろんなスケールのプロジェクトがあります。今日は、スタジオ1階に模型を展示してあります、独立のきっかけになった木津川の遊歩空間整備事業という、大阪で今、建設中のプロジェクトについてお話しします。

 

 初めに、「遊歩空間って何だろう?」と思われる方がいらっしゃると思います。コンペの段階で設定されたのは、一級河川である木津川にかかる橋と橋の間、この240mに遊歩道をつくる。また、まち側に開けた広場のようなスペース、これが変な形をしているのですが、そこに広場を設計してください、ということでした。みなさんは道頓堀をご存知だと思うのですが、今、水都大阪というテーマで水辺を開発する事業が進んでいます。私のプロジェクトもその一連の水都プロジェクトの中に位置づけられます。大阪ではロの字型に水辺を回遊できる都市をつくろう、ということに取り組んでおり、南側に道頓堀、上側(北側)に中之島という官公庁が集まるビジネスエリア、東側に東横堀川があって、西側にこの木津川のエリアがあります。遊歩空間をデザインするのは初めてだったので、遊歩空間というものを考えることからスタートしました。当たり前のことなんですが、当時、街の当たり前の風景をつくることの重要性を感じた事件がありました。初めてこの敷地に行った時、地下鉄阿波座駅という最寄りの駅から地上に出て最初に目にした風景が、このようなSFさながらの風景(立体交差)でした。水辺のコンペということで現地調査に行ったにもかかわらず、そこにこうした風景が広がっていたことに驚いたわけです。いろいろ調べていくと、40年前の同じ場所の風景写真が出てきて、インフラ建設時のこの時のまちのスケールがアイレベルで今とはまったく違うものだったということが印象に残りました。この体験によって遊歩道というインフラをつくるということは、これからまちの未来をつくっていくことになる、とすごく意識させられました。

 

先ほど、「変な形」と敷地形状を話しましたが、その変な形は、もともとここに大阪城を築くための堀川が流れていて、そこを埋め立てた跡の堀、という意図的な経緯があったからこそ、変な形になっていると知りました。この画像で点線になっているところが、もともとの堀川の流れです。調査をさらに進めると、このエリアは大阪城をつくるために木材などを運んで、荷揚げしたところだとわかりました。すごく当たり前なのですが、街から見ると、水から守るために防潮堤が聳え立っている状況があります。こういう光景に対して、20XX年に、この「立売(いたち)堀」の歴史をどのように継承・更新していくかを考え提案したのが、この段々畑というものでした。環境だとか人だとか、地形だとか水と街などが分断している状況があったので、いろんなものがそこで交わったり、なだらかに物語をつないでいけるような、そういう対話する浜、先ほどお見せした江戸時代の絵図にあったような、そういう「浜」と呼ばれていたような風景を参照しました。既存の防潮堤に対して、それを段々畑という形状を通じてアップデートしていこうという計画です。肌理や地形など物理的な柔らかな要素、また人のつながりや環境と人がつながるような、そういったソフトな意味を考えています。

 

コンペの時は、アイデアを説明するためにキーワードを説明しましたので、そのいくつかを紹介します。1つ目が「緑の交歓」というテーマです。緑を通じて人と人とを繋げます。木津川のエリアはロの字型の商業地域内ではあるのですが、住宅が残っており、また木材を扱うエリアから金属系の卸業地域に変わっていて町工場のある職住連帯的な性格の場所なのですが、私が行った時には、街に人がいるという風景にあまり出会いませんでした。ただ、そこには緑があふれ出ているところもあり、こういう(人の手が入った)植込みの画像にあるように、人がいなくても人の気配を感じることができます。普段、街路樹や植栽を見て「誰かに手入れされているのだな」と想像することはなかなかないのですが、こういう植込みの緑は、そこに人の気配が感じられ、自分の延長にその緑をとらえられるような感覚があると、その時思いました。こういったものが遊歩道にあれば、公共空間へ配慮のある通行者のマナーにつながったり、花壇そのものに特別な想いを持つ人が現れるなぁと。

 

2つ目のキーワードは「多様な状況をつくることで人と人をつなぐ」です。この遊歩道には一つもベンチがないのですが、たくさん段差を設計したので、いくらでも座れるところを見つけることはできます。その配置計画を考える際、参考にしたのが、京都の鴨川です(写真で紹介)。同じ鴨川の写真ですが左と右で違うところがあります。座っている人と歩いている人が、川に対して、どのくらいの距離にいるか(=川面の近くか遠くか)ということです。人は水辺を歩く際、基本的に水側を見るので、こういう状態(鴨川の四条通り周辺でカップルが土手の川側に等間隔で並んでいる状態)は、プライベート性が高く、個人でいる感覚が強いのですが、その歩いている場所が反転する(加茂大橋周辺の鴨川べりで、座る人と歩く人の川からの距離が逆転する)と、(歩く人と座る人の)視線が少し交わったりすることがあります。そういうのをヒントにしながら、この赤いところが主に歩く場所、黄色いところが段になっているところで、座ったり、上ったりできる場所なんですけれど、そういうのを丁寧に交わらせることで、例えば独りでゆっくりすることができたり、人に向かって音楽を奏でたりなど、いろんな活動の仕方を想像できるような段差を設けます。この段差というのは、地形であり、街へのアクセスであり、花壇であり、ベンチであり、陳列台や音楽ステージ、舞台にもなる。そういうような段差があると、さまざまな活動ができるだけでなく、それが風景の連なりにもなる。その時に、水との距離感や水の印象を演出するために例えば揺れる枝葉を持つ樹木ですとか、適切な場所にあるスロープだとか、自分にすり寄っていったり、離れていったりする手すりというものを丁寧にデザインすることがすごく重要だなぁ、と感じました。

 

3つ目のキーワードは「光と風を読むために環境とひとをつなぎ」ます。変わった形状の敷地だったので、周囲の建物の陰のスタディをしてゾーニングを決めました。365日の間、陰になりやすい場所をまとめることで、日向になりやすい場所を広場として設定しました。この2つの広場なのですが、2つの広場と広場の間に少し盛り土をすることによって、冬場に使いやすい、風がなかなか通らない広場と、夏場に水回りで活動をできる広場の2つを作っています。この盛り土の部分でもともと防潮堤だった機能を、ミニ・スーパー堤防のように止水ラインをここでとっています。治水的な操作を行うとともにちょっとした劇場効果というものを空間的にもたらしていると思います。ここまでコンペの話ですけれど、実は去年の3月に一部竣工してオープンしています。2017年3月に広場を含めたグランドオープンとなります。
*写真で現状を紹介。

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