イベントレポート詳細Details of an event

第74回 AGC studio デザインフォーラム
AGC studio Exhibition No.19「新しい建築の楽しさ2016」展連動企画
「新築ではつくれない空間をつくる」

2016年11月24日(木)
講演会/セミナー

中崎 今のお話の中で出てきました法律と時間について少し議論したいのですが、今の法律は新築のための法律という性質が強く、今後、リノベーション、コンバージョンが増えていくにあたって「法律のここの部分は変えたほうがいい」と思っているところがあればご指摘いただきたい。また時間について。ある建物をリノベーションやコンバージョンしたほうがいいと判断する際、どの時点でするべきか、意見を聞きたい。まぁ、神本さんの場合は、新築にしたら仕事にならないので(笑)、いつの時点でもコンバージョンするのだと思いますが、その辺の判断基準があれば、お聞かせください。

 

能作 去年、新潟でレクチャーをする機会があり、その時に同席した方から面白い話を聞きました。お寺の修復や保存をされている人なんですが、その時僕は小さな木造住宅に関する改修の話をしたのですが、屋根の小屋組みをそのまま利用して平屋の新築の上に、その小屋組みを乗せるというものでした。普通はそんなことなかなかしませんよね。その方も不思議そうに質問をしてこられて、普通は小屋組みのほうが先にねじれてしまうから、柱やベース部分を大事にするのが一般的な改修なわけです。下を新築して、上を改修保存するパターンはたぶんない。そこで言われたのは「100年後の人がそれを見たら、きっと調査しまくるだろう」と。そんな事例はないので、「100年前の人は、なぜそんなことをやっていたんだ」と思い、調べるだろうと。そして、そんな珍しい建物は保存しないといけないと考えるだろう、と。そのお話を聞いて保存に対するイメージがちょっと変わったんですね。それまで僕は、いいお寺、価値のあるお寺があるから、修復しなければいけないし、保存もしていかなければならないと思っているたのですが、その逆なのでは?と。要は、価値があるから残すのではなく、残したから価値が出るということもあり得るのだ、と。100年後というのはちょっと想像しにくいですけれど、少し保存という行為が近い存在に感じられました。

 

ショウワノートさんの工場も、よくある工場です。ただ、それを大事にしたり、モチーフにし始めると、次の改修の時に「これは残さないとまずいよね」というようになる未来もあり得ると。だから、どういう条件で残すかどうかについてはその時点での価値基準では判断しないようにしている。残すということをやって、後は未来の人に託す、でいいのではないか。ただ、あまりにも合理的でない場合、例えば残すことだけが目的化してしまったり、既存不適格なのになんでも適法させるのには無理があって、そういうものは材料を生かして、いったん壊して再利用をするなり、柔軟に変えていったほうがいいと思う。

 

小川 僕が今、別の物件でリアルに直面している法律の話をします。それは改築というか、エレベータを増築するというものなのです。それを外に付けるか内につけるか、構造的に再検討しなければならず、かなり時間がかかってしまう。クライアントは急いでいるので、「じゃあ、外で、エキスパンションを切って、別棟でエレベータをつくろう」としたのです。ところがその敷地はすでに高低差が3mあるのです。傾斜地に渡って建物がある。そうなると平均地盤面が、エレベータを付けると低い側に引っ張られてしまう。平均地盤面が下がってしまい、最高高さの一杯いっぱいで建てられていると、違法になって(外付けで)建てられなくなってしまうのです。それに対して、いろいろと策を練っているところです。こういう平均地盤面問題は、今後、問題だなぁと思っています。昔の法規には合っているんですよ、だけどエレベータを付けると昔の建物が現状法規に合わなくなってしまうのです。

 

それと、壊すか壊さないか、時間の問題に関しては、僕の今までの仕事関係でいえば、非常にドライで、クライアントの経済的条件に依拠するところがあります。新築と改修のどちらがいいか。例えば新築した場合の何割くらいですか、というコスト感覚の問題があります。新築にしたほうが投資がプラスに働くなら、クライアントが判断されることだと思います。それと、新築でも改修でも、どちらもプラスマイナスが甲乙つけがたい場合、どちらでもいけるなぁという場合は、僕の助言としては、僕の美的センスになります。手を加えた時に将来、どういう可能性があるか、新築の場合のほうが可能性が高まるか、という判断です。僕が建築家だから全部まっさらにして全部新築にすればいいと思っているわけではないですね。本当に時代がそうなのかなぁ、というくらいに、今、自分の事務所で動いている物件は、昔の図面とにらめっこするものばかりです。築30年、40年の古い図面が来て、竣工時の図面のはずなのに既存建物と全然違っていたりします。そういう仕事が非常に増えてきています。

 

神本 まず、新築か再生かのジャッジについて、「再生しかしないのだろう」(笑)、と言われましたが、実は我々の事務所としては、建築である以上、お金、収支というところが大半のプロジェクトで第一条件として考えられます。スケジュールとコストは縛られることが非常に多い。ですから、そういう政治的正しさについてはできる限り迎合するように考えています。その時にするのは、先ほど「ローロード、ハイロード」の話が出ましたけれど、歴史的価値が高いのか低いのかというジャッジがあります。また歴史的価値が高くないローロードのような建築物なら、新築と再生の二つを提案するようにしています。新築した場合はこう、再生ならこう、と「この二つを比較すると再生のほうがメリットは大きいのではないでしょうか。いかがでしょう?」と提案しています。まぁ、そういう意味ではこちら側に引っ張っているのかもしれませんが、その時には必ず法律と融資面の話をします。日本の建築はどうしても耐用年数という言葉に縛られすぎてしまっており、木造だったら20.~30年になりますが、鉄骨だったら35年、RCだったら47年。これは高度成長期に、お金を借りてもらって、融資を受けるためにはそういう耐用年数を決めなければいけない、つまり減価償却に結び付けないといけなかったわけです。構造によって耐用年数が決まってしまっていて、これは非常に悪しき慣習、制度だと考えています。

 

ヨーロッパやアメリカなどでは建物の平均寿命が100年を超えていますから、30年程度の寿命というのは先進国の中で日本だけの悪しき習慣です。近代の木造レベルと感覚が一緒なんです、鉄骨でもRCでも30年くらいで減価償却が終わってしまい、融資を得るためには新築をしたほうがいい、といういびつな形で建てものを取り壊してしまう。これをいますぐにでも変えていただきたいと思っています。これさえ変えることができたら、既存ストックの可能性が無限に広がってくると思います。そうすると、建築基準法がそこに追いついてくる。建築基準法は新築ありきの法律です。新築をするための法律があり、その緩和として改修の法律があるのです。

 

小川さんが直面されている問題でもありましたが、建物の一体増築、内部の増築を行うのだったら、そもそもその建物が現行基準に適合しないといけない、というような法律があります。鉄筋の話とか基礎の話を考えると、無理なんですね。その中で外部に増築をした場合、何㎡までだったらこの計算でいいとか、先ほどの地盤面と高さの問題に関しても、増築をした場合は何㎡までだったら既存を維持していい、という話になるのですけれども、それはあくまでも既存建物が何㎡までという枠で区切られておりまして、その基準が非常にあいまいなのです。それがほとんど整理されていない現状なので、僕は大学でも再生建築の研究をしているのですが、そういう分野の「再生建築基準法」といいますか「既存建築基準法」みたいなものができれば大きく変わると思います。先ほど中崎さんから言われたように、再生建築は僕が生き抜く術と考え、選んでいるところはあるのですけれど、今日、ここに来ていただいたみなさんだったり、お2人のような建築家、デベロッパーの方々、施工会社の方々、研究者の方々が既存ストックに取り組むことによって、既存ありきの新しい法律ができれば世の中も変わると思います。

 

中崎 再生建築基準法ができるといいですね。時間軸に関しては「残したら価値を生む」という視点が面白いと感じます。それでは、時間が参りましたので、会場からご意見やご質問を受けようと思います。
*会場から質問や意見を受け付けて終了。

 

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