イベントレポート詳細Details of an event

第74回 AGC studio デザインフォーラム
AGC studio Exhibition No.19「新しい建築の楽しさ2016」展連動企画
「新築ではつくれない空間をつくる」

2016年11月24日(木)
講演会/セミナー

能作 さて、このショウワノートの工場は、創業して高岡の地に最初の工場を建てたのが昭和40年で、周りは田んぼだらけでした。創業者が最初に建てた工場は合理的でシンプルなつくりです。ノートの生産ラインはずっとライン上に並ぶのでそのラインに合わせて長いボリュームの工場にしています。端に原紙倉庫があり、全体を管理できるように真ん中のところに事務所があり、末端に製品倉庫があるという搬入、生産、出荷までをひとつの流れで配置している機能的な建物です。構造としても壁がRCでつくられていて、屋根の梁はスチールで長いスパンを飛ばして無柱空間にしている。見た感じは小学校の体育館みたいな、ちょっと懐かしいつくりです。堂々としている印象ですね。

 

その後45年間をかけて、事務所を大きくしたり、立体倉庫や製版室などをつくったり増改築を繰り返してきました。とりとめのない増築を繰り返していますが、それはその都度生産にとっては合理的でいい使いやすくて自然な状態をつくってきたと考えられます。そこから今回のプロジェクトに進むのですが、最初に社長さんからいただいた要望が非常におもしろくて、「いままではただつくってきただけだけれど、これからはここを情報発信の拠点にしたい」と、そういう施設に変えたい、という話でした。現在の状況は先ほどのスチュワート・ブランドの言葉で言うとThe Low Road的な状態、誰も気にしない、生産性さえ良ければ外観なんて誰も気にしないという建物だったわけです。それに対して、今、求められているものは、多くの人を招き、そして発信するThe High Road的なものですね。そして生産ラインを止めず、つまり現工場を残したままThe Low Road的なものからThe High Road的なものへどのようにして変えていくかということが、このプロジェクトの課題になったわけです。一見創業者がつくった、この片流れのボリュームは残さざるを得ない条件で、新築を建てるうえでの障害物になってしまうように思ってしまいますが、むしろ今回はこの創業者が最初につくった棟をモチーフにして全体をつくってはどうか?という提案をしました。

 

片流れ屋根の既存工場を残し、事務棟や倉庫部分を解体をします。その部分に新工場棟と倉庫棟を建てるのですが、それらの形も既存工場と同じ片流れの屋根にします。そうすることで、全体で見たときに工場らしいのこぎり屋根の建物になるようにしました。また以前倉庫として使用していた立体倉庫はほぼ同じ形で復元をし、ガラス張りにすることで開放的な展示スペースと立山連峰や新しく開通した北陸新幹線を望むことができるスペースにしました。
*図面と画像を使ってプロジェクトの詳細を説明。片流れののこぎり屋根が4つ繰り返す形状になったり、ガラス張りの多い部分があったりなどについて詳しく解説。工場らしい外観をつくっている。

 

仮説というか、想像しているのは、もしかしたらあったかもしれない未来です。新たな造形を持ち込んで過去とのコントラストによって新しくなったことを表現をするのではなく、この場所での長い時間のプロセスのなかで整備しているような意識を持ちました。例えばルーブルにあるミロのビーナス像ですね。その失われた手にリンゴを持っていたのではないか、という有名な説がありますが、その感覚に近いように思います。こういう「もしかしたら、こうだったのかもしれない」という仮説を立てるような想像力ですね。時間と無関係な建築(つまり見たことのないような奇抜なもの)をつくることは必ずしも新しいということにはならないように思います。未来を想像するときの材料はこれまで見たことのある過去です。過去に立ち返って、もう一度未来を想像するときに新しい創作が生まれるのでは?というのがこのプロジェクトで考えていることです。以上です。

 

※関連コンテンツ: ガラスプラザPRO コラム「新しい建築の楽しさ」
Case17:「ショウワノート株式会社高岡工場」 設計:能作淳平建築設計事務所

1 2 3 4 5 6 7 8