イベントレポート詳細Details of an event

第74回 AGC studio デザインフォーラム
AGC studio Exhibition No.19「新しい建築の楽しさ2016」展連動企画
「新築ではつくれない空間をつくる」

2016年11月24日(木)
講演会/セミナー

神本 みなさんご存知のとおり、待機児童問題は品川区も顕著に存在し、都内でも保育所の開設が多く進んでいるエリアなのですが、なかなか既存ストックを使った改修が進みにくいのです。もちろん、この敷地の中に空地がないというところもございますし、近接する公園を利用するしかなく、園庭を確保できないという問題があるのですけれども、この計画ではオフィスビルを保育所としたキッズステーションとして改修します。通常の新築でしたら商業合理性、1㎡でも延べ床面積を確保してほしいというような、そもそもこの建物を新築しようとすれば5億円かかるので、貸し面積はこれくらい確保してほしいという与件が決まっていることが一般的だと思うのですが、このプロジェクトは、予算をこの程度に収めてもらったら、また専有面積をある程度確保してくれるのなら、共用部として使っていいですよ、というゆとりある計画になっております。

 

 その既存不適格については、築45年を超える建物となっており、こちらが建築当時の法律、こちらが現在の法律です。建築当時は容積に制限がなかった。一方、現在の法律では容積が200%という規定になっており、従前の半分になってしまっております。要は、建物全体の容積が400%なんですけれど、新築可能な面積が200%だということで、残りの200%は過剰床となっておりますので、専有面積の収支が合うのであれば、残りの面積を豊かな共用空間にしませんか、という提案を受け入れていただきました。再生した場合の延床面積を100とした場合に、70%をレンタブル比率にし、30%は共用部分としてつくりましょうということにしています。新築した場合はレンタブル比が市場になってきますので、80%は必ず確保しようという話になったりして共用部が極小になるケースがほとんどなんですけれど、その対比で、もともといまあるスペースで新築で可能な延床面積を考えたら、1.4倍くらいを確保できるとご提案させていただきました。

 

さらに、保育所に園庭はつきもので、垂直動線の確保が既存建物を使った場合は非常に重要になります。1、2階に保育所があり、最上階に広い園庭があるので、避難階段を開放するというのが僕らのご提案でした。建築基準法で居室面積が200㎡以上の場合は、普通、階段が2か所以上必要になりますが、それ未満にすると普通階段が1か所でもいいということになっておりますので、それを逆手に取りまして、避難設備という用途から階段を開放するというかたちにしました。避難設備というものは建築に必ず必要なものになっております。本当に広い階段スペースであったり、有効幅員であったりが担保されているのですけれど、避難としてしか使わないですよね。エレベータがありますから、そのような使われ方しかしない空間を共用空間として、園庭をつなぐ垂直のジャングルジムに見立てて、遊具とすることができないか、という提案がこの空間になります。で、先ほど話しました200㎡に抑えることによって、居室に生まれた共用部と用途を開放させることによってジャングルジムとして見立てたふたつの共用部を建築の中に取り込んでいます。耐震補強もXY方向で増し打ち補強と鉄板で行わせていただきました。

 

 共用部を道路側に設けるもうひとつのメリットは、延焼ラインですね。共用部を拡張させることによって延焼ラインも発生せずに、足場の設置をせずに工事の施工を行える。つまり、サッシのコストも、足場費用も安くなります。このように既存建物のサッシを解体して内側に木製サッシを設けています。避難設備から解放された垂直階段みたいなものをつないで、目の前に小学校があるのですが、その小学校と周辺の緑と接続させるような縦動線を設けるという提案です。子供たちが遊べる遊具のような垂直のジャングルジムとして機能していくというものです。子供たちがぶら下がるものがあったり、遊ぶものが置いてあったり、絵が飾ってあったりというかたちで遊びながら最上階(屋上)の園庭までアプローチすることができるような提案になっています。平面計画では、この1、2階が保育所となっておりまして、目の前に大きな共用部を確保している。3階、4階も子育てカフェであったり、カルチャースクール、お母さんたちが保育所に預けた後に子育ての相談ができたり、習い事ができたりということを行えるのではないか、という提案ですね。そして最上階はキッチンスタジオとして確保し、一番上に屋上公園として園庭を設けています。

 

最初にお見せした絵ですが、ファサードやフレームなどもまったく変わっていないのですが、豊かな共用部、屋上とこの200㎡以下の専有面積に抑えることによって生まれた部分に緑を置いて、かつ2つある避難設備のうち1つだけでいいことになりましたので、避難はできるけれども避難設備ではない、ということで、ある程度自由に空間をつくれます。子供たちが自由に上り下りできるような豊かな空間になっていければいいという提案です。このように共用部に吹き抜けを設けたり、机を設けたり、ということもしています。こういう縦動線が、外部の緑であったり、都市に疲弊された普遍的なオフィスビルを緑のある開放的な空間にできないか、というプロジェクトになります。以上です。

 

※関連コンテンツ: ガラスプラザPRO コラム「新しい建築の楽しさ」
Case11:「品川ビル再生計画」 設計:神本豊秋建築設計事務所

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