イベントレポート詳細Details of an event

第71回 AGC studio デザインフォーラム
ガラスラボ企画vol.2「空間を魅せる光とガラス展」連動企画
「空間を魅せる光とガラス」

2016年3月10日(木)
講演会/セミナー

「建築のかたちと光」
久保秀朗氏(久保都島建築設計事務所)

 

久保 久保と申します。まず、簡単に自己紹介をいたします。私は2011年に事務所を設立し、今年で6年目になります。先ほど、AGCスタジオの木原様からご紹介いただいたように、U-30という30歳以下の建築家によるコンペに参加したこともあり、このスタジオと縁が生まれました。普段の設計では、もちろん光のことだけでなく、予算や計画面などさまざまな条件がありますけれど、やはり、光というのは快適な環境をつくる、あるいは様々な機能を持たせるために非常に重要と考え、私たちの事務所の中では、重きを置く設計の要素となっています。本日は光と空間について、私の設計事務所で携わったプロジェクトを紹介しながらお話ししたいと思います。

 

さて、このフェルメールの絵画(牛乳を注ぐ女)をご覧下さい。この絵は、空間の中の光について重要な示唆を含んでおります。フェルメールの絵にはこういう構図がたくさんあります。ここに窓があり、そこから入って来た光が背景の大きな壁に当たっています。光は、このように窓から入って来て、何かに当たってから人の目に入ってくる。この光の当たる面が非常に重要で、フェルメールは光を美しく描く画家として高く評価されていますけれど、ガラスや窓を描くのではなく、その光の当たる面を描いているところがフェルメールの魅力の一つだと思っています。それは空間を設計する上でも非常に重要な視点になると考えています。

 

次の画像は篠原一男さんという非常に有名な建築家の作品です。現在、最前線で活躍されている多くの建築家も「非常に影響を受けた」と公言されている方、いわば日本の現代建築の源流にいらっしゃる方なのですが、これは、篠原さんの代表作のひとつでもある「白の家」の写真です。非常に美しい光をつくっているのですが、先のフェルメールの絵の構図と非常に似ていまして、この写真では右手の窓全部を映さずに、その窓から入ってくる光を映している。光が反射するこの白い壁が主役になっていますね。この「白の家」の写真はとても有名で現代建築を解説した書籍には、ほとんどと言っていいくらい載っております。光というものが何かに当たって初めてつくられるものだ、と篠原一男さんは意識的に設計されていたのではないでしょうか。

 

次は紀元前に建てられた(一度焼失後、紀元後に再建された)ローマのパンテオンです。これも光を主題にした建築で、円形になっている理由は多神教であるローマの神々たちがぐるりと祀られており、その神々全部に光を当てようとしたからです。当時、建設が難しかった円形ドームを建て、真上から落ちた光が、地面に当たり、それがまた天井に反射し、360度に拡散されるという光の設計になっています。この光が反射する天井面がデザインされていることによって全ての神々に光が行き届くという設計になっています。次の画像は光の干渉実験のものです。光は粒子なのか、波なのか、を実験した有名なものですね。もちろん現在ではその両方の性質を持っていることを誰もが知っておりますが、要するに、光というものは壁や床に張り付いているものではなく、動きを持ったものである、と。その光の動きをどのようにデザインするかが、建築デザインの上で重要な視点であると考えております。

 

 さて、これらは私たちが独立してから設計した主要な建物です(複数の図面を提示)。光や空気、人の流れなどさまざまな建物の周りにある「流れ」というものを整理して建物に取り込んでいく、という視点で設計しています。そういう要素の1つとして光を重視しています。光は動きを持ったものであり、その流れをどのように建物に取り込んでいけば、どのような空間ができるのだろうかと、そういう視点で今日は話したいと思います。私たちの設計の仕方として模型だけでなく3DCADも多用します。それによりさまざまな流れが可視化できます。このようにパソコンの中でモデリングをすると、光がどのように流れるのか、明るさの変化等をシミュレーションすることができます。場合によっては、空気の流れも可視化することができ、このように流れの精度を上げて検討できるところが現代建築の特長の1つでもあります。

 

さてこれからはいくつかのプロジェクトを例に紹介させていただきます。まず、「まるほん旅館風呂小屋」というプロジェクトです(アーカイブ51に詳報)。群馬県の沢渡温泉にある温泉旅館を少しずつリノベーションするというプロジェクトです。質の高い温泉で有名なところなのですが、婦人用の風呂を改築しました。温泉の質がいいので、そのお湯の良さを視覚的にも美しく見せたい。どのような光環境にすれば、その温泉の良さを引き出せるか、と考えたわけです。そして、このような曲面状のスラブを持った建物にしました。外形は一般的な切妻の建物ですが、下が風呂場になっていて、上部を休憩処にしています。そこをこのような曲面のスラブで構成しています。トップライトから光を落としていき、この浴槽のお湯に光を当てます。これがCGです。温泉は換気が非常に重要なので、換気扇を付けてもいいのですが、そうすると音がうるさいこともあり、安らかにくつろげないので、このように自然換気できるシステムを考えました。トップライトの光で温泉の透明度を強調するという意図になっています。この時は、どのような窓を、どのように開けると、快適な風呂環境になるかについて、かなり検討をしました。この設計では1000枚くらいのCGを作成し、検討しました。これが最終案のCGで、このようなトップライトが落ちることで、温泉の透明感を強調した快適な光環境をつくれるのではないか、と考え、照明デザイナーの方とシミュレーションしたり、空調の専門家と換気のシミュレーションをしたり、さまざまな「流れのデザイン」を検討した上で、この設計にたどり着いています。これができ上がった建物です。

 

この温泉には金属イオンが含まれているので、太陽光を当てると薄い緑色に見えます。ここが空気を取り入れる(横長スリット状の)開口で、自然換気をし、ここから取り入れた外気がお湯で暖まり上昇して、このトップライト近くから排出される仕組みになっています。またここにも照明を付けているのですが、この照明により、太陽光だけでなく、この光も映り込むので、お湯が少しキラキラして見える効果もあります。この浴槽の底面の素材も考慮しました。白いモルタルに豆砂利を混ぜ込んだ素材を用い、洗い出しでつくってあります。一般的な温泉の浴槽では木を使ったり、タイルを使ったりしていますが、タイルを使うとどうしても目地が浮き出てしまい、そこに光が当たっている様子が目地によって邪魔されてしまう。また木を使うと温泉成分でヌルヌルしてしまい、滑りやすくなるという問題もありますので、この素材と仕上げになりました。これがトップライトの写真です。ここにはポリカーボネイトの屋根を使い、その下に旭硝子さんのツインカーボの乳白を使っています。ここへ直接光を入れてしまうと季節変化により光環境が大きく変化しますので、安定した光環境を実現するためにツインカーボで光を拡散させるようにし、この曲面スラブの全体に光をバウンドさせて浴槽の方へ落とすよう設計しました。*何枚もの写真で紹介。

 

こちらが外観の写真です。この風呂の上の部分は、光と空気の流れを整えるために大きな曲面スラブになっていますが、その構造が、この2階部分(風呂場の天井裏に相当)では大きなソファのような休憩スペースになっています。このスペースは沢渡温泉の町を一望できる気持ちのいいスペースだったので、このような床を使っています。ここも同じく、ツインカーボを使って、ここは西日がたくさん入ってくるところなので途中で開口を止めているのですが、そうするとどうしても薄暗くなってしまうので、天井の部分を明るくするために、ここにもトップライトを設けて、ツインカーボで拡散させた光を取り入れるデザインになっています。

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