イベントレポート詳細Details of an event

第67回 AGC studio デザインフォーラム
AGC studio Exhibition No.15「新しい建築の楽しさ2015」展連動企画
「文化を再編集する」

2016年2月18日(木)
講演会/セミナー

永山 祐子氏
(永山裕子建築設計)

 

「小淵沢のホール」(山梨県北杜市)

 

永山 小淵沢のホールは、公共のホールではなく、ある化粧品会社が主に自社の活動のために設けるホールです。目的がはっきりしているので、お施主様と十分話をしながら、どのような建物にするかを検討してきました。これ(航空写真)が小淵沢の敷地になります。小淵沢駅から山に向かってなだらかに上がっていくゆるやかな傾斜地の森の中にあります。すぐ近くのこちらにはマリオ・ベリーニさんによる、この会社の本社社屋があります。この企業は以前、東京・渋谷に本社を置いていたのですが、阪神淡路大震災を機に「都会にいてはいけない。自然のエネルギーの満ちた地で、自然素材を活かした女性向けの新しい化粧品を作る」という目的で小淵沢へ移転してきました。ちょうどこの付近のリゾナーレをベリーニさんが設計していたこともあり、この会社の社屋もベリーニさんに依頼するということになって、彫刻的なRCの本社屋が建てられました。この化粧品会社の販売手法として組織販売を中心にしていますので、販売員の方々が研修をするための施設というのが目的の一つで、例えば新商品を理解する際にこのホールを使って説明したりします。

 

そうした新しいホールをつくるに際し、本社の構築的で男性的な建物に対し、、もう少し女性的な建物にしたい、ということで女性建築家検討していたところで、私にお声をかけていただいたという次第です。このようにかなり広大な敷地の中に建つ予定です。これが実際に建てる場所の森を撮影した写真です。赤松、クヌギ、コナラなどからなる雑木林です。この植生のうち赤松は昔植林したものが残っているのだろうと考えられます。予定地の半分が雑木林という現状になっていますので、そういうものもうまく活かしながらバランスよく建てたいと思い、フィールドワークを行い調査しました。計画としては、このように4つのエリアからなる建物になっています(*俯瞰図を例示)。まず、ここに700人用のホールと、上に300人用の研修室、また多目的スペースと、ビジターでも使えるカフェがある、という構成です。

 

配置は、こちらが北で、こちらが南になります。このお施主さんは風水的なものにもこだわられる方で、北(磁北)の軸を通したい、入り口は絶対に東、という指示を受けました。それで、ほぼ山の傾斜に対して南北に建つことになりました。それは環境の軸線としても活かせるので、その方向に従って配置を考えました。この斜面に沿って視線が抜けるように大きなパスを設け、風の通り道になるように、風のシミュレーションもしながら決めていきました。その長い大きなパスに対して直角に小径を配置し、東西の森が見えるようにしています。この(画像)のように周囲の木よりも建物高さが低くなるよう抑えています。ただし、斜面がかなりきついので高さの変化は大きくなります。これが断面の計画図ですが、この両端には高さ5mの傾斜があります。このように傾斜に沿って大きなパスが通っているので、動線に合わせて視線の高さがシームレスに変化していくような空間になります。風は季節によって南から吹く時と北からの時に分かれるのですが、それをうまくコントロールしながら自然の風を取り入れます。
*CGを参考に解説。ホールやロビー、ホワイエ、研修室、カフェなど各空間の詳細を説明する。ホールの音響や各エリアの採光についても触れる。

 

こちらは素材の写真です。素材全体に対しては「肌理(キメ)」みたいなものを考えています。自然界は小さな単位の集合体であり、それぞれに肌理を持っていると思いますが、それに対して大きな建物というのは、大きな強い面を持っており、それが周辺環境の細やかな肌理と調和しないと思ったので、建物の素材を決める時に肌理を考えて選びました。まぁ、肌理と言えば、この企業は化粧品会社なので非常に重要でもあるわけです。そこで、肌理をコンセプトとして打ち出しました。ただ予算的に特殊な素材は使えませんので、身の回りにある素材で肌理を与えていくよう考えています。

 

例えば、この写真の左側はアスロックですね。普通のセメント板をそのまま貼ったのでは大きくソリッドな面となってしまうので、わざと裏使いにし、セメント板をつくった時の、型枠の粗い木の跡を活かそうと考えました。そこに木の模様のような特殊な塗装を施し、人間の手のストロークみたいなものをセメント板に現すようにしました。それとうまく合わせるような形で使うのが、写真の真ん中にあるアルミのキャストシェードです。また、その下の写真がジャガード織りのファブリックです。
*素材の写真とCG等で肌理を出すための工夫を紹介。また天井材に関して土地の赤松を使ったシェードを用いたり、2B材のルーバーを用いることなどにも言及。

 

ランドスケープの考え方については、なるべくこの地域に自然に生えている種類の樹木、草花を使い、かつ華やかにしたい、ということで園芸種を使わず、野の草花、雑木林の樹木を中心に再構成したいと考えました。図に示すように、それぞれの花や葉を色別に分類してカラーパレットをつくり、そのカラーパレットで大胆に敷地全体を色塗りをして、このエリアは春になるとピンク色の花が咲く、また、ここは青い花の集合、カフェ周りは赤に紅葉する木を集める、そしてホールは黄色に紅葉する木で覆われているというかたちです。

 

建物自体には色彩を与えていないのですが、周りの自然環境によって彩られるように考えています。今は全国から300本近い木を一本一本選び、集めようとしています。例えば、この赤いゾーンは東京の多摩地域にある林をまるごと持ってくる、などです。もちろん、紅葉の時季は土地によって違うので、植えてみないと分からないのですが、ある程度似たような気候のところから持ってこようと調整しています。

 

これが現在の敷地の様子で、このように現場が進んでいます。(重機を入れて工事する際に)この赤松の樹列を残すのは大変だったのですが、通りから見た時に建物を隠せるように、伐採前に残す木をマーキングして、なるべく自然の中に馴染ませるような計画になっています。
*最終案に至るまでの6案を特別に紹介。永山氏はデザインアーキテクトの立場で参加し、実施設計と施工は竹中工務店が請け負っている事情から、各案に対して迅速に積算が出てきたという。それも参考に計画を練り直していった経過を詳しく解説した。さらに東西南北を意識した回廊型の建築を考える際、日本の伝統的な寺社建築が参考になったこと、複雑な形からシンプルな形へ収斂していったことなどを述べた。

 

※関連コンテンツ: ガラスプラザPRO コラム「新しい建築の楽しさ」
Case10:「小淵沢のホール」 デザインアーキテクト:永山祐子建築設計

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