イベントレポート詳細Details of an event

第67回 AGC studio デザインフォーラム
AGC studio Exhibition No.15「新しい建築の楽しさ2015」展連動企画
「文化を再編集する」

2016年2月18日(木)
講演会/セミナー

弥田 これは既存宝物殿の2階平面図です。こちらに低い棟があり、奥に高い棟があって、その2つをつなぐ棟があるという構成です。こちらの低い棟は2階部分が収蔵庫になっており、1階が吹きさらしのピロティで、そこからエントランスを通り階段を上がると高い棟の2階の展示室に至ります。展示室に入ると、先ほど紹介した重要文化財指定の古いほうの鼉太鼓が、また向かい合わせのこちら側に新しい鼉太鼓があります。祭りの際は、こちら側のドアから搬出して使うようになっています。これはその裏側の搬出口の写真です。

 

今回の増改築で考えたことはまず、新しい鼉太鼓を常に参道を歩く人々から見えるようにする、ということでした。そこで、正面側のH型雁行の凹み部分、庭のように自然を取り込んでいた外部空間を内部化して、そこに鼉太鼓を展示する「鼉太鼓ホール」をつくろうと考えました。このホールの様子が宝物殿へと人々を惹きつけるように、境内を行き交う人々からも見えている、という計画です。また、背面側のH型雁行の凹み部分には、春日大社境内という世界遺産の史跡なので、新しい建物を簡単につくることができない中、この宝物殿も床面積が不足しており、この機に必要な倉庫空間を付け足していこう、ということになりました。これは今回の建築展に出展した模型の画像です。正面側は2つの棟の間をつなぐ棟の切妻屋根をそのままホールに延長する形で付け足し、鼉太鼓が見えるようなガラス張りの「鼉太鼓ホール」としています。以前の外部空間であった雰囲気を残しつつ、中と外が適度に連続するようにしています。これがその内観の様子です。鼉太鼓を見ながら、2階展示室へと階段を上っていきます。この「鼉太鼓ホール」は400mm×100mm断面の無垢の鉄骨による4本の門型の構造体のみで、約17mのスパンを無柱空間として支えており、境内の眺望を取り入れる開口面には全く構造体がありません。しかし、春日大社の敷地内は、景観条例による外装材の色彩や素材の制約が非常に厳しく、ガラス面は自然素材ではない「壁」と扱われてしまうため、基本的にNGとなっています。ただし、このように(一面ガラスではなく)格子状のものを付けていればガラスの壁と見なさいということでしたので、春日大社の建物や木立に呼応するようなデザインとし、こうした縦のスクリーンを設けています。(*画像で解説。寸法体系や部材数等に関して春日大社のつくりに合わせている工夫例も示す)

 

 これまで私が手掛けてきた美術館は、どれも古美術系の美術館をリニューアルするプロジェクトなのですが、サントリー美術館は、東京ミッドタウン内に移転新築するプログラムであり、「インテリアとしての美術館リニューアル」でした。コレクションも「生活の中の美」が館のコンセプトでもあるように、日用品の古美術品やガラスやポスターなど、展示品の種類も多岐に渡るため(サントリー美術館の内観写真を例示し)、ダークグレーを基調とした展示室にしています。一方、根津美術館については、建て替えを基本とした「新築としての美術館リニューアル」であり、専ら東洋の古美術がコレクションであることから、ベージュ基調の展示室にしています。それに対し、今回の春日大社宝物殿は「リノベーションとしての美術館リニューアル」に対する取り組みだと考えています。さらに、宝物に触れることを通じて、神なるものにより深く近く感じられる場となるようにと考えました。先ほど春日大社中門の「雲居橋」や、本殿周囲の結界の雲の文様にも触れましたが、「雲」が人と神を隔てる結界とされています。春日大社宝物殿では、鼉太鼓の空間の先の展示室は、雲上の神の世界に自然と導かれたような、無彩色の世界の中に、宝物だけが色を帯びて存在するような、そんな感覚をもたれるような色味がふさわしいと考え、ミディアムのグレーを基調にした展示空間を考えています。

 

美術館の設計においては、美術品を最高の状態で感じるための展示ケースおよび展示空間がやはり最も重要なポイントなのであり、美術館の建築空間とはそのピークへとどのように導くかだと考えています。建築はそのためのシークエンスを演出する名脇役であるべきであり、展示ケースの光や納まりのディテールについては、展示ケースや照明のモックアップをつくって確認を繰り返しながら、最高のものを目指して取り組んでいます。

 

今回のプロジェクトをやりながら感じているのは、神、神道というものは、やはり日本人の文化の底に静かに流れているものではないか、ということです。日本では「やおよろずの神」であり、森羅万象として、例えばおコメも神であり、小さなものにも神が宿っている。そういう感覚をもう一度きちんと人に接続するという機能を、この宝物殿という建築を通してできるのではないか、と感じています。このことがこれからの時代に改めて非常に大切であり、それを春日大社宝物殿で新しい姿として見せられることが、「文化の再編集」につながるのではないか、と思っています。

 

※関連コンテンツ: ガラスプラザPRO コラム「新しい建築の楽しさ」
Case7:「春日大社宝物殿増改築プロジェクト」 設計:弥田俊男設計建築事務所

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