イベントレポート詳細Details of an event

第67回 AGC studio デザインフォーラム
AGC studio Exhibition No.15「新しい建築の楽しさ2015」展連動企画
「文化を再編集する」

2016年2月18日(木)
講演会/セミナー

弥田 俊男氏
(弥田俊男設計建築事務所)

 

「春日大社宝物殿増改築」(奈良県奈良市)

 

弥田 弥田です。私がいま手掛けているのは奈良・春日大社の宝物殿の増改築です。ちょうど昨年と今年が第六十次の春日大社の式年造替にあたります。みなさんご存知の、伊勢神宮の式年遷宮は、本殿を隣の敷地に遷すので「遷宮」と言いますが、春日大社では同じ場所にあるものを修復していくので、「造替」と呼びます。春日大社の所蔵する宝物殿は、神社界の中でも最大の350点を超える国宝数を誇り、重要文化財も900点以上収蔵しているという、実はすごい点数のお宝を持っているところなのですが、世間にはあまり知られていないという状況にあります。春日大社宝物殿は「平安の正倉院」と呼ばれる程であり、藤原氏の氏神を祀るという来歴から、様々な貴重な文物が奉納されています。既存の宝物殿は谷口吉郎氏が設計されて1973年に建てられた築約40年の建築です。この谷口吉郎氏による宝物殿を次の時代に残しつつ、新しい姿を与えて継承していくというプロジェクトです。昨年7月に着工し、今年の6月に竣工、同10月にオープンするという、工期が1年しかない非常にタイトなスケジュールの中で進めています。

 

 敷地は(航空写真を示しながら)、こちらに近鉄の奈良駅があり、そこから左手に奈良県庁を見ながら東へ向かっていくと左手に次は東大寺が現れてきます。そのさらに東の先に御神体の春日山(御蓋山)があり、その山の麓に春日大社が位置しています。また、そこへ至る途中には吉村順三氏が設計された奈良国立博物館や、阿修羅像で有名な興福寺の国宝館があり、さらに東大寺にもミュージアムが整備されましたので、実は、ミュージアム巡りには絶好のシチュエーションなのですが、連携や宣伝が上手にできていない部分もあって、海外からなど観光客が殺到しているにもかかわらず、残念なことに、美術館を目指している人はあまりいないと感じます。こちらが地図です。ここ(三条通の突き当たり)に「一の鳥居」があり、森に囲まれた参道をさらに奥へ進んで行くと「二の鳥居」があります。その先に回廊があって、奥に本殿が南向きに建っています。その二の鳥居の少し手前からこのように斜めに配置されたかたちで宝物殿が建っています。春日大社のさまざまな建物はすべて南面方向に向いているのですが、宝物殿だけは角度を45度振っています。春日大社は、御神体である春日山(御蓋山)に向かって、一の鳥居から山の自然な地形を徐々に登って神域へ入って行くような、一の鳥居からゆるやかな傾斜の参道を登り、二の鳥居でより深い結界に入るかたちになります。本殿を囲む回廊の中にも山の自然な傾斜があり、奥に春日山の原始林が控え、そういうものを崇拝するという形式です。

 

この写真が谷口吉郎氏設計の宝物殿です。谷口氏の代表作の1つであるホテルオークラが取り壊されたりする中、この宝物殿を残しながら上手に継承して行くことは非常に光栄で、やりがいのある仕事だと感じています。この宝物殿の魅力を引き出しながら、さらに新しい姿を与えようと計画しています。吉郎氏がつくられた既存の宝物殿はRC造2階建てで、1階がピロティになっており、2階に展示室と収蔵庫がある構成になっております。この配置図にありますように、上から見ると、H型で2つのウィングが雁行するようなかたちになっています。このHの隙間の空間に増築部を入れようと計画しています。先ほど参道の経路を紹介しましたが、この参道を通る体験に似たような要素も宝物殿の空間の中に取り込みたいと考えています。(*写真で境内の周辺環境を紹介する。とくに山や建物の勾配や本殿周囲、雲に関する造形についても言及)

 

私は独立前、隈研吾氏のところで(隈研吾建築都市設計事務所に所属)、サントリー美術館や根津美術館などのプロジェクトにも関わってきたのですが、そこでは見たことのない、これまであまり脚光を浴びてこなかった時代の宝物が春日大社宝物殿のコレクションにあることを知りました。例えば、源義経や楠木正成が奉納した国宝の甲冑だったり、足利義満が奉納した太刀であったり、そういった国宝のコレクションがあります(写真で一部を紹介)。それから特徴的な展示品として鼉太鼓(だだいこ)があります。これには重文指定の非常に古いものと、今も冬の「おん祭」で実際に使われる新しいものの2種があります。

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