イベントレポート詳細Details of an event

第66回 AGC studio デザインフォーラム
AGC studio Exhibition No.15「新しい建築の楽しさ2015」展連動企画
「署名された「アノニマス」」

2016年1月14日(木)
講演会/セミナー

 

中山 よろしくおねがいします。(航空写真を示して)ここが敷地になります。ベルギーの北、ほとんどオランダに近いエリアなのですが、フランダース地方特有の、どこまでもフラットな、地平線のかなたまで農場が続くようなところです。と言っても、あまりにも低予算な、渡航費も出ないプロジェクトなので、敷地調査は共働しているパリ在住の建築家にお願いするしかなくて、実のところ僕はまだ、現地に行くことができていません。

 

建物のプログラムは、版画のためのアーティスト・イン・レジデンス施設の増築です。フランス・マセリールという、ベルギーでは有名な版画家さんがいらっしゃいまして(故人)、その名を冠した版画に特化した施設の、ギャラリーを併設したアトリエを増築するコンペでした。既存の施設は、泊まり込みできる三角屋根のバンガロー群と、ドーム型のアトリエからなります。敷地の前には、この画像のような田園風景が広がっています。一方、既存施設を挟んだ背後には、森を挟んで住宅街が広がっています。Googleマップで旅してみたところ、それほど古くも、とりたてて美しいわけでもない、おもちゃのようなレンガ作りの住宅が並んでいました。一方、田園地帯に点在する農場の納屋もやはりレンガ作りで、つまり周囲の建築と言えばだいたいが切妻のレンガ造です。小さなものが並んでいると住宅街、密度が落ちてサイズが大きくなると田園、というような。そんな中にあって、この版画施設はとても人気があるそうで、ドーム型のアトリエでは手狭になってしまっていました。また、エキシビジョンもできるスペースも欲しいので、今回の増築コンペが公示されたわけです。

 

 僕は今回、初めてヨーロッパのコンペにチャレンジしたのですが、ヨーロッパのコンペは日本と違って、公示されているコンペに、まずはポートフォリオをどんどん送りつけることがら始まります。主催者はその中から案を提案して欲しいチームを幾つか選び、制作費を渡してアイデアを募る、というスタイルです。まだ実作の多くない若手の事務所であれば、「年間に100通送ったら1回、チャンスが来た」というようなものらしいです。ある時、フランスにいる私の友人から「一緒にポートフォリオを出してみよう」と言われ、それで彼に僕らのファイルを託していたのです。彼が試しに2つ送ってみたところ、その2つともから誘いが来ました。同時期だったのでどちらかを選ぶしかなく、1つはセメタリー(墓地)で、僕にはヨーロッパの葬儀のしきたりが分からなかったし、アトリエだったら僕は美大出身なので、プログラムで悩むことはないだろう、という単純な理由でこちらを選びました。パートナーは、イドさんというパリ在住のイスラエル人です。僕たちは、確か5組だったと記憶していますが、招待された中の1チームとして参加しました。

 

要項では、計画はドームから増築するかたちで、ということでした。既存のドームの中は、こんな感じになっており、なかなか悪くない、気持ち良さそうなつくりですよね。版画は流れ作業で製作していくので、このように機械を渡り歩きながら仕事ができる、合理的なつくりになっているわけです。実によくできた建物なのですが、スペースがあまりにもプログラムにきっちりと当てはまり過ぎていて、たとえば展示をやりたい、というような時、ちょっと冗長性に欠けるわけです。そこで増築棟にはある程度のフレキシビリティーが求められていました。僕らが考えたのは「ケーキを切る」という戦略です。この施設もともとある建物は、先程も言ったようにどれも幾何形態をそのままボリュームにしたような形状でした。たとえば、積み木のような三角形とか、球体のドームとか。そこに全く新しい形を持ち込むのはルール違反かな、と思いました。一方で、敷地を一歩離れると、今度は先ほど紹介したような切妻レンガの風景が広がっているわけで、ギャラリーをつくろう、施設を開いていこう、という時に、それらとまったく切り離されたビレッジみたいなものが、ここに完結して存在するというのも違う気がしました。そういう状況の中でかたちをつくる時、自分たちなりにしっくり向き合えるような方法を考える必要がありました。

 

先ほどの吉村さんにお話しに通じるところがありますが、私たちは既存建物に共通する幾何形態を、まずは与えられたものとして扱ってみることにしました。積雪に対応した円錐型の屋根を、周囲の風景に開かれた円筒形のガラスのシリンダーの上に乗せる、という具合です。それを、既存のドームに、雪だるまみたいにぴたっとくっつける感じで置きました。この円形のワンルームが出発点です。

 

与件には、アトリエとギャラリーの他に、木工室やラウンジなどが、お互いに関係性を持ちながら存在することが求められていました。そこで、丸いホールケーキにナイフを入れるように、幾何形体から扇型のボリュームを、プログラムの数だけ切り出してみることにしました。そうすると、それぞれの切り口に、切妻型の家のような形状が現れます。この切り口をレンガでつくる、というのが構造のアイデアです。結果的に、周辺にある家や納屋のような、いろいろな形のレンガの家型が切り口に並ぶことになりました。でも、それぞれは作ろうとして作ったというよりも、むしろただ現れたもののようにして、そこに並んでいます。

 

これがそのダイアグラムです。建物の真ん中のあたりに立っていると、家々の角が集まった交差点のような、街角の中にいるような感じがします。そこから端部のほうへ歩いていくと、風景がパノラマのように切り取られている場所に出る、そういう内部体験になります。これが切り口に現れた、全6種類の家型を並べてみた絵です。たとえば一番小さい家型はエントランスです。施設のファサードというよりは、誰かの一軒家を尋ねるような体験になります。家型の前には、カットの数だけ庭ができます。

 

たとえばこの一番大きな庭は、片方がアトリエに、もう片方がギャラリーになっています。つまり、つくることと、展示することの間にある庭です。また、ひとつ隣の庭は、アトリエと木工室のあいだにあるので、たとえば作業中に一服しながら、考え事をするような場所になります。両側に置かれたプログラムの影響で、切り取られた家の前に現れてくる庭のあり方が、自然と個性を帯びて来るわけです。ここは物流の庭、ここはプライベートな庭、といった具合です。このような庭のキャラクターもまた、プランを練り上げながらつくり込む、というよりは、自然に現れたような場所として、そこにあります。だから、ここは砂利、ここは芝、というような仕上げを与えていく作業などは、現れた特徴に導かれるようにして、半ば自動的に決まっていきました。

 

この画像は内部の中心から360度の視野をパノラマ状に伸ばしたものです。そこから外周に向けて歩いて行くと、他のエリアはどんどん死角へと遠のいて行き、次第に集中度が上がっていきます。逆に真ん中の広場のほうへ戻ってくると、いろんなプログラムに向けて風景が開けてくるというような状況が起こります。この白い壁の裏側が、レンガ造りのファサードなっていて、庭に出ます。上から見ると、こんなつくりです。今回は別の建築家と協働するので、ひとつひとつのファサードについて、僕が「こんなサッシを使いたい」「家具の収まりはこんなふうにしたい」などと、日本の現場で細かく監理をしていくということができません。だからむしろ、「何でもいいです」「そのへんで中古のサッシを買ってきてもいいですよ」「既製品をどんどん使っていいですよ」「すべてのファサードの統一がなされていなくてもいいですよ」と伝えています。それでも現地の建築家は美意識のある人なので、そんなに自由にはしていないみたいですけれど、そのくらいの緩さを持って、建物をつくろうとしています。 *画像とプランを見せながら紹介。

 

さて、「署名されたアノニマス」という今回のテーマですが、このプロジェクトにはその側面が確かに強いな、と思いました。今回考えたのは、建築を「つくる」と「現れる」の間に置くことでした。それは、その場所にある要素を建築の計画に取り入れてデザインする、というようなこととは少し違っていると思っていて、その場にある要素が、ある与件から導かれたオペレーションの過程で、勝手に現れてくるような手順を考える、というような、そういうことを目指していました。それは、自分が細部まで思い通りにコントロールできない海外での、しかもローコストで現地へも行けない共同プロジェクトであることを、どうやり切るのか? 細部が自分の署名であるというようには必ずしもならないプロジェクトをどう乗り切るのか、ということに対する戦略でもあったように思います。

 

同時に、自分自身が必ずしもコンテクストを共有できていない場所でありながら、そこにいち建築家として何かをつくる、ということについて考えた時、その場にある状況をちゃんと引き受けながら、それでも自分のプロジェクトとしてやりぬく、その方法を考えようと思った結果として、「署名されたアノニマス」に近い何かが現れたのではないかと考えています。

 

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