イベントレポート詳細Details of an event

第66回 AGC studio デザインフォーラム
AGC studio Exhibition No.15「新しい建築の楽しさ2015」展連動企画
「署名された「アノニマス」」

2016年1月14日(木)
講演会/セミナー

吉村 一方、壁部分でも、受容的な態度で設計する姿勢は徹底しています。オープンな2階は断熱しても仕方がないので壁厚を厚くする必要はない、最終的には仕上げにせっこうボードをはったので、合板とボードの壁になっていますが、強度的には合板一枚の壁です。それで床から2~3m程建ち上がるわけです。平面的に折れ曲がることが強度は高まりますが、それでも強度が不足するところにはアドホックに火打みたいな斜めの部材を足しています。あえて場当たり的な対応をしていったのです。

 

構造として効いているのはここからここまでですから、飛び出ている部分はオマケです。バナーをぶら下げたり、ハンモックみたいなものを吊ったりと、そういうことに使えると考えています。ジョイント部はそれぞれの場所で角度が三次元的にばらばらになってしまうため、自由角度のピンジョイントを富山の金物メーカーであるストローグさんに開発してもらいました。この火打は、頭が当たりそうなくらい低いところに設置されたものもあるのですが、それも理事長さんが許容してくれました。彼は「大きな怪我はダメだけど小さな怪我は良い」というラディカルな思想の持ち主です。本当に素晴らしいと思います。ここは、幼稚園として本園ほどシビアな性能を要求される建物ではないので、積極的に機能不全を起こしてみている。大人には使い方が分からないような場所が残っているのです。でも、子供達はそんなことおかまいなしです。彼らが使い方・遊び方を発見してくれるような場所が点在しているような建築になっています。そういった余地を残した建築になっていると思います。

 

例えば、このあたりの床は階段状になっているのですが、上の方は階段状の本棚です。映画鑑賞をすることもできる、本の読み聞かせをしたりもできる。機能が重ね合わせられています。基本的に、ここを含む2階はがらんどうの空間になっています。壁があちこちに折れ曲がっているだけのフロアです。でも、小さく折れ曲がったり、大きく折れ曲がったり、床が階段になったりと、単なる均質空間とはあきらかに違います。またこの壁の裏側と表側は仕上げが変わっていて、裏に居るのか、表に居るのかを感じとる事ができますが、ムラのあるがらんどうなのです。 *画像と図面で内部や細部、共同開発した金物なども紹介

 

 下に回ると1階天井は先程の2階の1枚床を支えるために455ミリピッチで均等に入ったLVLの梁が露出していています。一階の照明もこのように均等な配置になっています。二階に関しては透過性のあるテント膜素材を選んでいるので、昼間は照明をつけなくてもいいくらいの明るさになっています。これは展示してある模型の写真です。ほぼすべてレーザーカッターでつくっています。見えやすいようにテントの部分を取っ払った模型になっているので、実際にはここにテントがかかっているんだと想像してみてください。

 

 そろそろいったんまとめたいと思います。今日の話題は、アノニマスに近づけるか?という点だけではなく、その近づき方に署名できるか?と言う点ですね。となるとまず、これまで建築家が何に対して署名してきたのか? という事を振り返ってみなければならないでしょう。例えば安藤忠雄さんはコンクリートという素材に署名をした。一方、隈さんは、素材自体はバラバラだけれど、その集合のさせ方に署名した。このように位相を変えるように署名することは可能なんです。それができた人だけが本当の意味で署名できると言っても良い。コードチェンジ=独自のアプローチこそが重要。つまり、そのアプローチの仕方によっては、アノニマスに署名することも可能だというのが僕の中の結論です。

 

余談ですが、一昨年頃に、淡路島夢舞台へ行きました。広大な敷地が安藤建築で埋め尽くされていて、どれだけ歩いても安藤さんの建築しか見えてこない(笑)……。安藤建築は空間的にも素材的にもディテール的にもすばらしいけれども、僕自身は非常に息苦しく感じたのです。1人の人間が設計したという、強い署名が刻み込まれている建築というのは、人によって、やや暴力的に感じるところもあるのではないか、と思うのです。逆に言うと、署名しない建築には何らかの風通しの良さというか、おおらかさがある。署名からどの程度距離を取れるかで、新しい建築の楽しさが生まれる。そう考えることに僕は大賛成なのです。そして、何によって匿名性がもたらされるかというと、僕は、自分が設計していないものを自分の設計に取り込むアプローチ、つまり「他者の受容」ということに可能性を見出しています。そこに署名も可能なのではないでしょうか。

 

※関連コンテンツ: ガラスプラザPRO コラム「新しい建築の楽しさ」
Case5:「福増幼稚園」 設計:吉村靖孝建築設計事務所

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