イベントレポート詳細Details of an event

第64回 AGC studio デザインフォーラム
AGC studio Exhibition No.15「新しい建築の楽しさ2015」展連動企画
「ストリート感が自走を促す」

2015年11月19日(木)
講演会/セミナー

萬代 地図で示すと、この青いラインまでが津波で浸水されたエリアです。この赤いラインは今後造られる防潮堤の予定地で、この町の場合は地面から4.5mの高さの防潮堤の建設が予定されています。ところがこのプロジェクトの建物は幸い漁業施設なので、防潮堤の外側に建てることができます。住宅などの一般の建物や不特定多数の人が集まる建物は防潮堤の陸側、内側に建てないといけないのですが、ここはその規制がかかりません。この画像はほぼ現状を写した航空写真で、見た通り、津波に洗われたところはほとんど手つかずの状態のままになっており、この黒い部分のところに仮設住宅が建てられ、ほとんどの人はまだそこに住んでいます。この町の基本的なまちづくりの方針として、図に示すような観光エリアと漁業エリアに二分してありますが、僕らのほうから「観光と漁業をつなぎたいなら、その中間に建てましょう」という提案をしました。敷地が決まっていないゼロからのスタートでしたので、その敷地を決めるところから関わることになりました。

 

(プラン図を示しながら)建物の構成として、インテリアの部分はここだけになります。それ以外のエリアは半屋外の大きな屋根のかかった場所になり、なるべく多くの人が自由に使えるような場所にしようと考えています。それから細いグリッド状の梁をXY方向に巡らし建物全体を覆っています。よくある大梁、小梁みたいなものではなく、だいたい25㎜角くらいの細いメッシュ状の梁を組んで大きな屋根を構成しています(細梁をメッシュにした大きな平屋根のようなもの)。そこ(メッシュ)に部分的に屋根(雨を防ぐ覆い)をかけていくという構成になっています。小規模な自営業者である漁師さんたちが集まって使う場所なので、その漁師さんたちそれぞれの場所が、この屋根の下にいろいろあり、季節(旬や水揚げ時期で収穫物も変わる)によって使い方が変わることを想定しています。

 

一番最初に設計をした時には、大きな一つ屋根の設計を提案しました。「大屋根の下でみんなで仲良く使いましょう」という話をしたのですが、そうすると「それは喧嘩になるからやめてくれ」と言われました。実のところ、彼らは同じ漁業者といえどもそれぞれ独立しているのでライバル心の塊みたいなところがあって、「あいつよりも俺のほうが先に魚を捕ってやる」「俺のほうがたくさん捕ってやる」という人たちなのです。だから、ひとつの屋根は困る、と。今はとりあえずバラバラに屋根をかけるように計画しています。僕のもくろみとしては、そのようにバラバラに屋根をかける設計にしておいて、将来的には、こことそこの屋根を繋いでしまうことも考えています。メッシュの梁は全部つながっているので、例えばみんなで朝市をやるとなったら、仮設的に屋根を増やして大屋根にしてしまうなど、そういう自発性を呼び起こせる構成にしたいと思っています。先ほど言った漁師さん同士の協働のかたちをこの建築で何とか引き継いでいきたいので、そのような構成にしています。

 

この梁組は25㎜角という細い組み方なのですが、井桁状に梁を重ねて組んでいるのです。どちらかというと編まれているというほうが近いかもしれません。ところで、漁師さんたちはクリエイティビティがあるというか、そういう風に編み込まれた梁を見て、自分で何でも作ってしまうのです。ロープさえあれば、網を編むように何でも結んでしまうというような人たちで、この梁をきっかけに、屋根の下にさまざまなものをぶら下げたり、多様な空間をつくっていくことをやりたいと思っているらしく、それが漁師さんたちの風景を、この建築にもたらすのではないか、と思います。

 

季節によって捕れる魚が違うので、働き方や空間の使われ方が変化していくと思うのですが、そういうものが建築と一体となって風景になっていくことを実現したいと考えています。海から見るとこんな感じで、この部分に厨房があり、彼らが捕ってきた魚をここで加工するのですけれど、工場でやるような大掛かりな加工ではなく、試作をしてみるのですね。だから六次産業化をするためのスタートアップの施設になります。ここでうまくいけば、自分が独自に加工場を新たにつくるかもしれないわけです。この建物の中を干場などに生かして、六次産業に結びつくような建物にしようと思います。現在の状況はこのようになっています。*動画も使って現地の状況や建築現場、漁業者たちの日常を紹介。

 

 さて、今日のテーマである「ストリート感が自走を促す」の「自走を促す」というところに関しては、かなり考えています。こういう被災した町ですから、「建築で何ができるか?」を考えざるを得ません。彼らが自走するということを真剣に考えてあげないといけない。一方、「ストリート感」に関しては中川さんが言われた「自発性」のようなもの、人間がより親密に建築にコミットするということなのか、と先ほどお二人の話を聞きながら考えていました。以上です。

 

※関連コンテンツ: ガラスプラザPRO コラム「新しい建築の楽しさ」
Case6:「鮎川浜の番屋」 設計:萬代基介建築設計事務所

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