イベントレポート詳細Details of an event

第64回 AGC studio デザインフォーラム
AGC studio Exhibition No.15「新しい建築の楽しさ2015」展連動企画
「ストリート感が自走を促す」

2015年11月19日(木)
講演会/セミナー

中川 これが模型の写真です。ビッグテーブルと呼んでいるものは、大きな什器でありながら、一部床のような役割も果たしているので、そこから階段が降りていて、下でみんなが作業したり、上で打ち合わせをしたり、その逆もあったり、という使い方を考えたわけです。これは別のアングルから撮った写真です。このようにすごく太い柱が均等に配置されているラーメンに対して、ビッグテーブルは角度を振りながら、回遊性のある動線をつくるように入れています。

 

こうして模型を眺めているうちに、ビッグテーブルが様々な使い方を補完する、例えば街のガソリンスタンドのように、インフラを提供するステーションのような所になれば、よりいいのではないかと思いました。というのも、彼らの仕事は床のコンセントから電源を取って、そこに足を引っかけたりすると大きな損失が出ます。そこで、上にコンセントの電源を置きたい、という要望があったことを思い出し、このビッグテーブルの天板の下から電源や社内LAN、照明等を供給することを考え出して、まとまりの島のようにビッグテーブルを使うようにしています。これは全体を俯瞰する図なのですが、400㎡くらいのワンルームに個人の机やみんなが集まるスツールサイズの机を散らします。その上に、活動を補完するように、ビッグテーブルをかぶせるのが基本構成になっています。

 

このビッグテーブルは均等な既存のSRCラーメン構造に対して、一見、適当に置いているようにも見えるのですが、実は配置にルールを設けています。図で丸が付いているところがありますね。これは既存の躯体にビッグテーブルの水平力を流した場所です。ビッグテーブルは、テーブルと言いつつも、人がその上に乗るので、通常のテーブル構造で造ると揺れてしまいます。そこで、既存の躯体で水平力を負担するようにすると、揺れを抑えることができるわけです。ですから、柱と柱、また壁の部分へ水平力を流せるように、1ビッグテーブル当たり2カ所以上そういう支えをとるルールにし、ビッグテーブルの配置が決まっています。

 

各ビッグテーブルは大きさが異なりますが、やはりそれぞれをテーブルのように見せる意匠があり、大きさやピッチにより梁の入れ方を変え、テーブルとしてのプロポーションを担保できるようにしています。そのことが、倉庫という空間がもともと持っていた「抜け感」をキープすることに寄与していると思います。各ビッグテーブルは、その役割やそこからの視界の確保などの要件によって高さを変えています。一番低いもので床から2300㎜、高いものでは3600㎜くらいになっています。

 

これがつくり方の概念を示した図です。こちらがSRCの柱だとすると、ビッグテーブルから三角形のトラス状の金物をくっ付けて既存の柱に接合しています。ですから、水平力はこちらに流して、鉛直の細い木柱(テーブルの脚)で荷重を保たせます。そのビッグテーブルの軒(天板下面)のところから電源や照明、LANケーブルを降ろしています。また、(ビッグテーブルに上がる)階段も力を流すのに一役買っております。柱に水平力を流す金物(の寸法や施工設計)については、実測するしかなく、人海戦術で1カ所ずつこのように計測して寸法を採っていきました。それを元に発注し、製作してもらいました。上から眺めると、高さの違うビッグテーブルがこのように折り重なるように配置されています。一方、下に降りると、けっこう見通しも利きます。それから床をしつらえて完成しました。

 

 工事が終わり、彼らは計画通り移転をしました。引っ越して2日目くらいから、彼らのキャラクターがかなり出はじめました。1か月ほどたつと、ビッグテーブルの上の部分はチームごとに打ち合わせに使ったり、クライアントが来たりしています。また独りでやる作業だけれども、下にある自分の机だけでは狭いという時にビッグテーブルへ上がって、そこで作業するということもあります。ビッグテーブルの集中・近接している場所の下には、ちょっと奥まった印象の空間ができて、ワンルームではあるけれど、空間の質が異なる場所がたくさん生まれました。均質なワンルームではなく、多様な質を持つワンルームになっています。

 

 さて、改めて「ストリート感とは何だろう?」と思うわけですが、先ほどスポンテニアスと言いましたけれども、スポンテニアスの観点からこのオフィスを見ていくと、水平力を流すための金物を利用して勝手にモニターを吊ってあったりします。またこの金物を付けるナットのところに別の金物を付けて、リュックサックをぶら下げたりしています。壁のないオフィスなので、何かを掲示したい時は木柱に貼付けたりするわけです。さらに、このビッグテーブルが木でできていることを利用して、階段のささらに勝手に棚を打ち付けて増設している人もいます。階段に座って作業をする人も出てきます。

 

このように自分の思い思いに使い方を発明しながら、更新して使っていくのを見ていると、場所自体に参加の可能性があり、使う人に自発性があって、その2つが合わさったことによって自分以外の人が、その場所にいるという、場所がどうなるか(誰がどう使うか)分からないという不確定さが浮かびあがってくるように思いました。最近よく耳にする「街のような」という言葉と「ストリート感」に、もし共通項があるとすれば、使うという創造性に期待することかなぁ、と思ったりします。彼らの、勝手に自由に使う使い方は、使う人の知恵であり、知恵は目に見えないのですけれど、そういう目に見えないものに、建築がある構造を与えて、集まっている状態を生き生きと見せることができるのは素敵だなぁと思います。こう、見えないものに構造を与えるという時の「構造」は、単に建築の構造ではなく、使うアイデアとか知恵を引き出すインフラのようなものではないか、と思います。で、建築が「使う」という創造性を誘導するようなこだわりが、面白いなぁと思います。この「建築が使うという創造性を誘導する」という文字をキーボードで打ちながら、今回の「ストリート感が自走を促す」というテーマに少しは近づいたかな、と思うわけです。私の発表は以上です。

 

※関連コンテンツ: ガラスプラザPRO コラム「新しい建築の楽しさ」
Case2:「あるチームの新オフィス移転計画」 設計:中川エリカ建築設計事務所

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