イベントレポート詳細Details of an event

第64回 AGC studio デザインフォーラム
AGC studio Exhibition No.15「新しい建築の楽しさ2015」展連動企画
「ストリート感が自走を促す」

2015年11月19日(木)
講演会/セミナー

中崎 隆司氏
(建築ジャーナリスト、生活環境プロデューサー)

 

中崎 みなさんこんばんは。モデレーターの中崎です。これから第64回のデザインフォーラムを開催します。今日は「ストリート感が自走を促す」というテーマで3人の建築家に話していただきます。下階ギャラリーで展示している各自のプロジェクトについてそれぞれ発表をしていただき、その後、トークセッションを展開する予定です。では、まず中川エリカさんからお願いします。

 

中川 エリカ氏
(中川エリカ建築設計事務所)

 

「あるチームの新オフィス移転計画」(東京都渋谷区)

 

中川 みなさんこんにちは。私が展示した模型は「あるチームの新オフィス移転計画」です。今回、中崎さんからお話しがあった「ストリート感が自走を促す」というテーマについては、一風変わっているなぁ、と感じていました。そこで今日、ここにお招きいただくにあたり「ストリート感って、何だろう?」と考えました。実は、この展覧会のオープニングレセプションの時に、建築家の小嶋一浩さんがいらっしゃっていて、小嶋さんから「中川、ストリート感って、何だ?」と質問されていたのです。冗談半分に「路面店のことか?」と言われて(笑)、「たぶん違うと思います」と話して、苦し紛れに私が答えたのは「スポンテニアス(SPONTANEOUS)みたいなことですかね?」ということでした。「自発性」「自然発生的な」「融通がきく」といった意味で使われる言葉ですね。

 

私はいつも設計のエンジンが必要なときに映画を観るようにしていて、ストリート感について真剣に考えようと、この映画を見直しました。『イグジッド・スルー・ザ・ギフト・ショップ』という映画です。これは、街を舞台に様々なアート表現を展開するアーティストのバンクシーさんが監督をした、ストリートアートにまつわる映画です。(画像を見せながら)外壁に貼ってある人の顔のポスターがあります。この作家の人がインタビューに答えた台詞が印象的で、ここに映っている多数のポスターのように「はじめはどんな意味があるかわからなくとも、数が増えれば皆がその意味について想像をめぐらすと、何か意味があるように見えてくると分かった」と言っていました。もともとはただのジョークだったことをみんなが議論し始めて、結果として本当に力を持つようになった、ということをインタビューで答えています。これがストリート感を考えるうえでヒントになると思いまして、まだ意味があるかどうか分からない、普段、図面から抜け落ちてしまうようなとりとめのない何かについて、ちょっと目を向けてみることが重要なのではないか、と私なりに整理をしました。

 

 さて、このプロジェクトですが、このオフィスのクライアントであるクリエイティブチームは、数学とか建築とか音楽とか、異なる専門とバックグラウンドを持つクリエイターの人が集まっています。もともと2層に分かれたオフィスを構えており、プロジェクトごとにチーム編成も変わるのですが、みんなで集まってディスカッションをするようなことはないのです。しかも、仕事柄みんなパソコンに向かっているので、なかなか話をしないということを問題視されていました。もともとのオフィスではみんなが壁を向き、背中を見せて仕事をしている状態です。この下の階へ行っても同じで、ただゴチャゴチャしています。打ち合わせスペースだけは共用部で、少しだけ片付いているのですが、席数が少なく、数十人のメンバーが予約制で使うにしても、スペースが小さくて少ないわけです。もう1カ所、打ち合わせスペースはありますけれど、定員が最大で4~5人と少なく、クライアントを招いて打ち合わせをするにはやはりせまいと仰っていた。チームで仕事をするには、色々な空間的問題を抱えていたわけです。一方で個人のデスクを見ると、やはり個性があって、置いてある物も少し違うのです。エンジニアのチームもいるのですが、彼らの職業道具がいっぱい置いてあるので机自体が町工場みたいになっており、小さな産業の集積のようになっていたのです。そして、それとは別にスタジオを別の場所に持っておられた。既存のオフィスを見に行った時に、そういう個性が集まっていることが面白いと感じました。

 

 移転先として彼らが選んだのは都内にある9階建ての集合住宅のビルで、この1階部分が広い倉庫になっている場所でした。SRCの純ラーメン構造で奥行きの長いワンルームスペースなのです。倉庫だったので天井もすごく高い。そういう純ラーメンなので、柱は等ピッチで入っております。ここに先ほどのゴチャゴチャして、場所が分かれていた人たちを一同に引っ越してきてもらうわけです。ワンルームという特長を生かして、みんなでディスカッションしたり、集まることに意識を向けたいと希望されていました。オフィスというのは、その会社の働き方や考え方を空間化したものであるべきだろうと私は思っています。彼らのもともとのオフィスは個人机が多いのですけれど、机の数を増やして居場所をふやしてみる。いろいろな集まり方をできるようにすれば、その机を打ち合わせだけでなく、共同作業にも使え、使うことに選択性が生まれると思い、1人で2机以上持てるような場をつくることを考えました。

 

この真ん中にあるように10数人で1プロジェクトを担当するケースもありまして、そういう時には「みんなで机を囲めるビッグテーブルというようなものがあると、とても嬉しい」と要望されていました。私はその「ビッグテーブル」という言葉がとても気に入りました。最初は打ち合わせの時にみんなで囲むと仰っていたのですが、この会社のメンバーにとってみると、みんなで道具や何かを持ち寄ることのできる大きなテーブルというものは、「ビッグテーブル」という概念自体が、空間を設計するときのヒントになるのではないか、と思ったわけです。そして倉庫スペースのことを改めて考えてみると、天井が高くて、上から見下ろすと、楽しそうだなぁ、と思いました。そこで、大人数が囲むビッグテーブルではなく、テーブルそのものをスケール的に大きくしたビッグテーブルを配置してオフィスを造ってみようと考えました。(超ビッグテーブルという)家具の配置だけで建築をつくれるのだろうか、という挑戦です。そういう(超ビッグテーブルという)什器と場所の組み合わせ方を考えていかないといけないなぁと思うと、什器というのは、そこで何をするのか、という行為と対応していて、つまりは行為と場所の組み合わせ方を考えるということである、と段々気付くようになりました。通常のオフィスは執務室や会議室など部屋の集合でできているのが一般的ですけれど、行為の集合だけでオフィスをつくることができそうだ、と少しずつ希望が見えてきました。

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