イベントレポート詳細Details of an event

第63回 AGC studioデザインフォーラム
AGC studio開設5周年記念企画 女流建築家4人によるトークイベント
「わたしたちのケンチクとガラス」

2015年10月30日(金)
講演会/セミナー

 

成瀬 今回、司会を務める成瀬です。よろしくお願いします。本日は月末の金曜日の夕方であるにもかかわらず、ようこそご来場くださいました。「私たちのケンチクとガラス」というテーマで、女性建築家4人のトークセッションを行うわけですが、「女性ならではの視点で話してほしい」と言われております。私は司会の経験があまりないので、不安もありますけれど、心強い先輩方のお力で盛り上げながら進めたいと思っております。ここから会場を見ますと、男性のほうが圧倒的に多く見えます。女性の視点に興味があるのは、やはり男性なのだろうとも思います。(三澤、加茂、乾の3氏を順に紹介)
 本日は、まず各先生方に「自分の作品や仕事ではないガラス建築の中で、発見や感動があった事例をお話しください」と事前にお伝えしてあります。次いで「ご自身の仕事や作品の中でガラスに関する工夫や発見等についてご紹介してほしい」とお願いしてあります。その後、会場からの質問も受けつつ、トークセッションを展開する予定です。では、三澤先生からお願いします。

 

 

三澤 いま(スクリーンで)ご覧いただいている写真は「聴竹居」(京都府山崎)です。私が聴竹居と出会ったのは37年前のことです。聴竹居は昭和3年に建てられていますので年齢でいうと87歳になります。37年前ですから、聴竹居が50歳の時に出会ったわけです。その時は現在のように整備されておらず、もうリタイアして取り壊されるのではないか、という状態でした。そんな状況ですから、訪問して見学させてもらえるような状態ではなかったはずなのですが、当時、奈良女子大の高口恭行先生が手配してくださり、学生たちに見学させる機会をつくってくださいました。その頃、私は奈良女子大の理学部で物理の勉強をしていたのですが、昔は家政学部の中に住居学科があり、そこで住宅の設計も教えていたのです。私は入学してからそれを知り「そっちの勉強をしたかった」と気がついたのですけれど、それについて話すと長くなるので今日はやめますが、私はその住居学のゼミに無理矢理入らせてもらい、高口先生を通じてたくさんのことを学びました。この聴竹居を訪ねた際に高口先生から聞いた説明は「この建築デザインは住居環境を考えて科学的にやっている」というようなことで、その「科学的」「サイエンス」という言葉を聞いて、「私も建築に関わることができるのではないか」と、かすかな希望を抱いた記憶があります。また、この聴竹居は、光が柔らかく入り、またガラスに包まれた空間で、景色もスッと見えて開放的ですよね。何か懐かしさを感じる、そういう空間に惹かれたのです。それが最初の出会いでした。87歳になった聴竹居はいま手厚くケアされており、50歳の頃よりも大活躍しているように感じます。パワーアップしています。

 

一方、こちらの写真は、まったく違う建物の写真ですが聴竹居を彷彿とさせるところがあります。熊本県の海辺にあります。住まい手の方は大阪にお住まいの人ですが、実家が熊本で、夏の家として使う別荘になっていました。しかし、少し前まで誰も使う人がいなくて朽ち果てたような状態でした。でも、このプロポーションがとても素敵で、「改修しましょう」とお施主さんに説明しました。私は10年ほど前「建築病理学」というものに出会いまして、今も学んでいます。その建築病理学を日本で普及させたいと考えており、こういう建物の改修は、すごくそそられます。これができ上がった状態で、今年4月に工事を終えました。こう見えて(=かなりモダンになった印象を受ける)、実は、ほぼ何も変わっていないのです。修理しただけです。画面に「なつかしい未来」というタイトルを出していますが、私が25年前に某芸術大学で非常勤の講師をしていた時、そこには若手の建築家が非常勤で集まっていて、よく夜を明かして議論をしていました。ほとんど男性ばかりですが……。その議論の場で私が「懐かしい建築をつくりたい」と言いますと「フン」という感じでバカにされ、「こんな遅れた奴と仕事したくねぇ」という反応だったのです(笑)。でも、やはり未だに懐かしいかたちや姿が好きなのです。もっと言うと、新しい建物をそんなにつくらなくても、古くていい物を残す仕事に専念してもいいなぁ、と思うくらい、そういうものを残したいと感じております。この画像では、高齢のお母さんがいらっしゃるので、床は畳フロアと合わせたいので全て新規のものに替えていますけれど、このガラス窓については替えるのをやめました。見た通り、温熱環境としては厳しいのですが、この揺らぎのあるガラスは「部屋の中の風景を残したい」「この広縁の空間を残したい」という住まい手さんの希望もあって、そのままにしたのです。これは外から見たものです。先ほど映り込まない最新のガラスを(スタジオで)見せてもらいましたが(笑)、この映り込むガラスも懐かしい感じがして、いいよなぁ、とそそられるわけです。こちらは夕方の風景です。すごくいいですよね。これは海水浴場がすぐ前にあって、持ち主の方が「浜辺から戻ってきた時に広縁から入っていた」と懐かしまれる、この広縁が夏の思い出である、と言われました。夕方のこの色味は、確かに(来たことのない人でも)懐かしい感じがしますよね。それは東京オリンピック後の頃(1970年代)の記憶だそうです。私も同じ世代なので共感します。

 

 一方、これは最近手掛けた新築の物件です。7月に山梨県の北西部に位置する北杜市に竣工した住宅です。かなり寒いところですが、富士山も南アルプスも見える眺望に優れたところです。残念ながら、この写真は曇天で景色があまり見えません。構造は木造ラーメンで、壁がない状態です。景観を楽しみたいという住まい手さんの要望に応えたものです。冬はマイナス10℃くらいにはなりますが、風景は楽しみたいとのことで、ガラスの多い開放的な空間を、先ほどお見せした私が懐かしいと感じるような空間を、希望されました。自然と一体化していたいという欲望と、それとは逆に自分(家族)を守るためには自然に対峙しないといけない、だから家をつくる、ということです。で、このガラスはペアのかなりいいものを使っていますけれど、30年前などはペアガラスなんか高くて使えませんでした。そして10年前はLow-Eガラスなんて高くて使えない、と言っていましたけれど、今は、当たり前のように使うこともできる。ですから、もっともっといいガラスができてくると、もっともっと「懐かしい風景」をつくれるのではないか、と思うのです。ある住まい手さん、その方は環境教育の実践者なのですが、環境教育の仲間たちの間では「懐かしい未来」が話題になっているという話を聞かされています。ワークショップで子どもたちに「未来の絵を描いてみて」と言うと、「僕たちが(60歳くらいの方で、私もそれくらいの歳ですが)小さい頃は、空に車が走っていたり、ビルが林立していたりするような、そんな絵を描いたよね」と言われます。「ところが、いまの子どもたちは原っぱを描くんだよ。」と。「原っぱでみんな遊んでいるような、そんな絵を描くんだよ。」、と。「だからなつかしい未来なんだ。」と。それはいいな、と私も思いました。今、私は住宅の「懐かしい未来」について、ある原稿を書いている途中なんです。そんな時に成瀬さんからメールをいただき、それに重ね合わせて本日は喋らせてもらいました。

1 2 3 4 5 6 7