イベントレポート詳細Details of an event

第95回 AGC Studio Design Forum
Soundscape スペシャルトークイベント「ミラノデザインウィーク2018報告」

2018年6月21日(木)
講演会/セミナー

吉泉 私のほうからは、担当させていただいたグランドセイコー(Grand Seiko)さんの展示をご説明させていただきます。「The FLOW OF TIME」という展示タイトルで、場所はトリエンナーレ美術館というところです。非常に歴史ある美術館で、そこにセイコーさんが展示をされたわけです。

 

展示の趣旨をご説明しますと、グランドセイコーさんとして出展なさっています。セイコーさんではなく「Grand Seiko」というブランドをピーアールするために出られたのですが、ミラノ・サローネに出られたのは今回が初めてです。この写真がムーブメント(時計の中の機構)の写真になります。今、グランドセイコーさんは3つのタイプを持っておられまして、左からメカニカル、いわゆる機械式の時計ですね。いわゆるゼンマイがあって、テンプがあって時を刻む。またQFという真ん中のものが、まさにセイコーさんが作り上げてきたといっていい、クオーツというシステムですね。水晶に電気を与えて振動させるというシステムです。3つめの第三のムーブメントとして、スプリングドライブと呼ばれるものがあります。QRという番号が付いているのですが、これはセイコーさんが20年かけてようやく商品化できたという、技術の粋を集めたものです。簡単に説明させていただくと、メカニカルの延長だと考えていただきたいのですが、通常メカニカルムーブメントは、ゼンマイが緩んだ力が歯車に伝わり、時計の針を動かし、テンプと呼ばれる心臓部で時間を調整して刻みます。一方で、機械式と同様、ゼンマイで針が動くのですが、そのテンプの部分にクオーツの力を借りるようになり、さらに精度の高いものになっているのがスプリングドライブです。自己発電してクオーツを動かしているという事もあり、非常にエコな機構でもあります。グランドセイコーさんが展示を行う際、何をキーにしようかという話が、たぶん社内であったと思うのですが、このスプリングドライブをテーマに展示をしたい、という話が私のところに入ってきました。最初に打ち合わせをした時には、そういう話になっていました。

 

このスプリングドライブは誰が見てもこれまでの時計と違う部分があります。それは、秒針が止まらずに動いていることです。普通は、時を刻むという表現があるように、メカニカルな仕組みだと、針が刻みながら動いていくのですね。このスプリングドライブの場合は、まったく刻まずにシューッと流れていくんです。これがすごく面白いと思いました。で、グランドセイコーさんとしては、たぶん、その刻まない針の動きをつくりたかったのではなく、中身のムーブメントの機能について真剣に考えて、時計をアップデートしていき、スプリングドライブというムーブメントにたどり着いた結果、針の動きがそうなった、のだと思います。先ほど、音の出るガラスの空間で、エンクロージャーを探してしまうという話がありましたけれど、我々に新しい気付きを与えてくれて、時計は刻むものだと思っていましたが、そもそも時間というのはずっと流れているものであって、刻むものではないんだよね、と。実は当たり前の事ですが、そんな気付きを与えてくれます。だから時を刻むというのは物の観点から言っているだけなんですね。時計をハイレベルな状態でつくりあげ、そこにたどりついた結果、自然の中に流れる時そのものを感じさせるような、流れる様に動く針が出てきている、というのが、究極を追い求める日本的なものづくりのスタンスだと感じたのです。こういった感覚で時を伝えるものをつくっているということをグランドセイコーとして世界に発信したい、と。そういうコンセプトでデザインが進んできました。どういった展示だったかは、ムービーで見ていただいた方が分かりやすいと思います。
*動画で展示内容を紹介。

 


 こういう展示で、補足として静止画もお見せしますが、構成として、すごく巨大なスクリーンがあります。幅が21メートル、高さが5メートルの大きなものなのですが、その前に12体のオブジェが並んでいます。アクリルのオブジェです。床が鏡面なので、後ろのムービーが映りこみます。この後ろに流している映像は時の流れを感じられるような映像です。太陽が上がっていき、星空が回り、雨が降り、また陽が沈んでいくみたいな内容です。時が刻まれるというより、流れていくという映像です。この12体のオブジェにはムーブメント(時計の機構)を分解したパーツが封入されていまして、それが12番目に向かうごとに完成に近づいていく構成になっています。このアクリルはレンズ状になっていて、後ろの映像をすっぽりと中に取り込むのですね。お客様がオブジェを見てくださった時に、中のムーブメントの部品と、後ろの流れる風景が融合して見えるということで、このムーブメントが組み立てられるときに何に近づいていくのかと考えた際に、刻むような時ではなく自然の中に流れる時に近づいていく、ということを伝えようとする展示になっています。こんな感じで中の部品が見えます。小さなLEDが入っていてアクリルが瞬いて光っています。レンズなので映像が逆転するんですね。最後の12番目のオブジェになると、時計が中で出来上がっていて、アクリルの中で実際の時計が動いているという展示になっています。

 

こういったオブジェだとかパーツというものは目に見えるものなのでクラフトマンシップを強く感じるのですが、実は、組み立て自体が非常に重要なファクターになっていて、12体あることで、非常に微細なパーツがつくられ、それが非常に微細な作業で組み立てられ、やっとムーブメントになることが段階的に分かる様になっています。グランドセイコーさんは、設計から製造から組み立てまで全部やる、マニファクチュールといわれる、世界でも希少なメーカーさんですけど、そういったことも一緒に体感していただけるような構成を考えています。なお、この映像の反対側に長いベンチを置いていまして、僕自身はこれを「縁側」と呼んでいたのですが、日本人なら誰しも縁側みたいなところに座って、流れる空、移ろう空をぼーっと見るという体験があると思うのです。まさにそういった形で映像とこのオブジェを見ながら、自分の中に流れる時と対話するような、そんな体験が行われていたのではないかと思います。

 

山田 ありがとうございます。ミラノには1週間滞在していても、とてもすべての展示を回り切れないので、短時間でバンバン見て回るのですが、グランドセイコーさんの会場は、多くの人が足を止めている、というか、映像に目を奪われて、心地が良いので、多くの人がここでのんびりしているという状況になっていました。映像とか音とか、紙の媒体で紹介するのが難しい展示が主流になってきていると感じます。今回、グランドセイコーさんがあえてミラノデザインウィークに出展された狙いですとか、その出展を担われた吉泉さんがどのようなことを考えられたか、もう少しお聞かせいただけないでしょうか。

 

吉泉 はい。スプリングドライブをテーマにしようということが初めに決まっていたのですが、技術的にすごいものなので、それを強く伝えたり紹介したりというところに行くことも考えられますが、バーゼルで開かれる時計の見本市にセイコーさんが出られているので、そういった技術面の訴求はしっかりされている。そういう状況を前提に、では何をものづくりとして訴求するかを、別のチャンネルでもやっていかねばならない、ということでミラノ・サローネが選ばれたわけですね。だから技術面ばかりに偏らない伝え方を考える必要がある、と。そういう理由でこういう体験型の展示になっていきました。

 

山田 会場では、あの縁側と呼んでおられたベンチに座るのに順番待ちのような状況が生まれていましたけれど、来場者の反応はどうだったのでしょうか。

 

吉泉 そうですね。時間を長く過ごしてくださる方が多かった印象がありますね。なんかロマンチックな雰囲気になっちゃうのですかね(笑)、良い雰囲気になっているカップルもいたりとか(笑)。僕が最終的に思ったのは、このブランディングをするという場で、時をつくる、あるいは、時に関するものをつくっている企業という大きな枠組みで、どんな展示であるべきか?を、まず最初に考えたほうがいいという事です。そういう意味ではゆったりとした上質な時間を過ごせる場であったのは、最も押さえなければいけないポイントだったわけで、その意味ではみなさんの反応が良かったなと思います。

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