イベントレポート詳細Details of an event

第95回 AGC Studio Design Forum
Soundscape スペシャルトークイベント「ミラノデザインウィーク2018報告」

2018年6月21日(木)
講演会/セミナー

秋山 萬代さんのデザインの話から、少しテクノロジー寄りの話をさせていただきます。このガラスについては、説明が難しくて、いつもどう説明しようかと迷うのですが、シンプルに言うと「ガラスでできた、透明で、しかも高品質の音を出せるスピーカーです」と。また、それだけではなく、もう一つ大事なことがありまして、この音を生むガラスは「シンプルな板ガラスのような存在です」と。そういうように説明することができます。実は、ガラスから音が出るということは、すごく難しい技術なのです。ある意味、個性の強いガラス板なんですが、使用する条件をなるべく限定したくない。そのテクノロジーが世の中で使いにくいものであれば、どんなに性能が高くても受け入れられないと思っています。そういうこともあって、非常に強い個性がありながらも、シンプルな板ガラスとしてどんどん使ってほしい、そういった商品像を描きながら今も研究を進めています。そういう素材ということもあって、デザイン的な自由度が高いという点、また音質的には、かなりのハイクオリティで音を出せるということ、この両面で新しい素材ではないか、と考えています。それをもう少し詳しくご説明させていただきます。

 

 例えば、既存のスピーカーと、この音を生むガラスとどう違うのか、ということをご説明しますと、普通のスピーカーというのは、この会場にもいくつか設置してありますが、なんか黒い、丸い、板から音が出ている、と。その黒くて丸い板の周りに木や樹脂、金属などでつくられた箱がついている。それなりに奥行きもあって、スペースをとるような、そういったものが既存スピーカーのイメージだと思います。一方、この音を生むガラスというのは、ガラス板そのものが振動体として揺れるのです。ガラス板全体が面で揺れることによって、面全体からクリアな音が発生します。それが一番の特長ですね。普通のスピーカーは、先ほど申しあげた通り、黒い、小さなところから音が出る。これを「点音源」といいます。点から放射状に音が伝播していく。一方、音を生むガラスは「面音源」で、面から音が出る。光でいえば、電球から光が出るのと、LEDや液晶のパネルみたいなものから光が出るのか、それと似た違いです。面から光を出すと、けっこう拡散せずに面の状態のまま光が飛びます。音もそれに似ていて、例えば、音の場合で考えると、面音源では、既存スピーカーのような箱がいらなくなります。ガラス板1枚あるだけで、高品質な音を作り出せます。あの箱を専門的には「エンクロージャー」と呼ぶのですが、それがいらない。そして可聴域、人間の耳で感知できる周波数というのは、だいたい20ヘルツから20キロヘルツといわれており、その領域を、音を生むガラスは軽くカバーすることができます。そのうえ、大きさとか形状など、ほとんど制限がありません。ほとんどというのは、そのサイズや形状をつくれるかどうかという製造上の問題であり、その装置(振動子とそれを伝えるもの)さえあれば、いくらでも大きなものをつくれます。萬代さんによるこのインスタレーションも、いろいろなサイズの音を生むガラスを製造したのですが、そういった使い方、特長がある。

 

 先ほども申し上げましたが、それがいくら性能が高いとしても、使いにくくては意味がない。既存ガラス技術とこの音を生むガラスというのは、非常に接点が多い。例えば強化ガラスでつくることができます。この画像は実際にミラノで展示したものですが、このようにサッシの中に組み込んで揺らすこともできる。つまり、窓ガラスがスピーカーになる。この右側の写真は、ガラスの端面をツルツルに磨いて表面研磨しているものです。こういった端部を見せながら使うこともできます。ミラーにしたり、色を付けたり、世の中にはガラスのコーティングがいろいろあるのですが、ほぼすべての加工に、この音を生むガラスは対応しています。そういったデザイン上の特長があります。

 

 普通のスピーカーに付いている振動体に比べて、音を生むガラスはどれくらい筋がいいのかについてグラフで示すと、こういう図になります。振動体として非常に向いている性質を追求すると、2つの要素があります。1つは、音を伝播させる際の、音の伝わる速さですね。速い素材の方が振動体として向いています。もうひとつの要素として、その材料が共振をしないことです。共振の大きさは、この減衰係数で表すことができるのですが、減衰係数が大きいものほど共振しません。簡単に言うと、変な音が出ないのですね。お寺の鐘とか風鈴などと似たような特性を持っています。叩いて、変な音が鳴ってしまうものはスピーカーに向きません。例えば、セラミック。チタンは限定的に使われる場合がありますけれど、こういう板ガラスがスピーカーになった例は、ほとんどないと思います。一方、紙や木材などは従来のスピーカーに使われています。今回の音を生むガラスは、図のここにいます。つまり従来のスピーカー材料よりも音速が速くて性能が高い。しかも減衰については、普通のガラスの200倍ほど高いです。音を忠実に再現でき、その再現できる音の幅が従来の材料よりもすごく広い。ガラスの透明性などといった特性をまったく無視して、単純に「振動板としてどうですか?」とおすすめできる。非常に面白い素材だということができます。スピーカー特性だけならベリリウムなどガラスに近いものもありますが、毒性があります。一方、ガラスは化学的に人体に無害ですね。

 

 これをどうやってつくっているかがこの右側の図に示してあります。1枚の板ガラスではなく、2枚の板ガラスを使い、その間に特殊な中間層を入れ、その働きによってガラスの減衰係数をドーンと上げています。ただしこの特殊中間層の膜厚はすごく薄いので、デメリットが生じません。一般的な合わせガラスでは、例えばここにある樹脂を入れます。自動車に使う合わせガラスなどは樹脂を入れるんですが、その性能は樹脂とガラスのあいの子の性能になってしまいます。しかし、今回の音を生むガラスでは工夫していまして、音速をそのままに減衰係数をドーンと上げる、そういう材料設計をしています。ある意味複層構造をとっているので、材料構成をちょっとチューンすると音色を変えることができます。弦楽器チックというか、そういう微調整ができたりします。

 

 もう一つ、この図を見てください。横軸が音階だと思ってください。左に行くと低い音で、右に行くと高い音です。また縦軸が音の大きさです。音を低いところから高いところまでスイープ、連続的に変化させたときに、この音の変動がどうなるかを表したのがこの図です。理想的なスピーカーというのは、周波数が変化しても音の大きさがずっと一定なのです。これは楽器も同じで、例えばピアノがあったとして、ファの音を叩いてもほとんど音が出ないものがあると困りますよね。スピーカーも全く同じで、周波数のムラのないものほど原音を忠実に鳴らすことができる。普通のガラスの単板は、ひどいものなんです。ものすごく共振ピークやディップがあって、とても聞くに堪えない音がします。それに対してアクリルというのは、従来材料に似たケースで、まぁまぁいい。ただ、低音のところで帯域が狭い。それに対して、音を生むガラスは、耳に聞こえないくらいの低音の領域で、若干のディップがあるんですけれども、それ以外の領域ではほぼ一定の出力をできるわけです。

 

 先ほど萬代さんから、ミラノでの展示の話をいただきましたが、実は、あの会場の一画にリスニングルームを設けまして、実用をイメージできるような展示をいたしました。これがその写真です。4畳半くらいの小さな、こういう真っ白な部屋を萬代さんにデザインしていただき、その中にサウンドバー型のミラースピーカーを設置しました。真ん中にあるのがテレビのモニターですが、この鏡になっている3枚の板がスピーカーなのです。ここからいい音が出ています。このスタジオの1階にも同じものを展示して、実際に体験してもらえますが、そういったものも展示しました。これは600ミリ角のガラス板です。こういうものを使ったステレオスピーカーを用意して、ハイレゾ音源をここで流しました。簡単ですが、技術面からの話は以上です。

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