イベントレポート詳細Details of an event

第95回 AGC Studio Design Forum
Soundscape スペシャルトークイベント「ミラノデザインウィーク2018報告」

2018年6月21日(木)
講演会/セミナー

萬代 今回、AGCさんから音を生むガラスというのを開発したので、それをミラノでプレゼンテーションしてほしいと聞いて、最初に考えたのは次のようなことでした。僕らの周りにいろいろなガラスがあると思うのですが、そういういろんなところにあるガラスから音が流れてくる未来みたいなものを想像して、例えば、窓から音が流れてくるとか、照明から音が流れてくる、ガラスのテーブルから声が聞こえてくる、など、いろんなところから音が聞こえてくる未来、だと考えました。これが現地での展示の風景です。この会場は、ミラノの中央駅、中心地よりちょっと北側にあるのですが、ディスコとして使われていた古い倉庫になっています。今回の展示ではいわゆるホワイトキューブみたいな白い空間ではなく、日本にはないようなミラノならではの空間、いくつかある中で僕が選んで提案させていただきました。音とガラスということで、あえて荒々しい空間にして、そういうところで見せるのが面白いかなと思いました。

 

考え方としては、この空間の中に、1枚の大きいガラスが割れて破片となって、空間の中にとどまっている、時間が止まったような空間を設計しています。その空間の中で音だけが動いていくデザインを考えました。このガラスの1枚1枚から音が鳴るようになっています。音が360度、いろんなところからやってくる空間をつくりました。展示空間は、このガラスの破片が空中に浮かんでいるような空間にしているのですが、ガラスの魅力っていうのは、いろいろあると思います。建築でガラスを扱っていると、ガラスは汚れない、ずっときれいである、という永続的な美しさみたいなものがガラスの魅力としてあるんです。一方、コンクリートや鉄は時間に対して弱かったりしますが、ガラスや石などのマテリアルは耐久性がすごく高い。その一方、ガラスは、点で力が掛かったりするとすぐ割れてしまう、という脆さみたいなものがあって、そういう脆さもガラスの魅力だと考えて、非常にシンプルなガラスなんですけれど、それが砕け散って、空間の中に静止している、という空間をつくっています。ガラスは全部で35枚ありますが、それぞれにいろんな音をあてがっています。例えば、高いところにあるガラスからは鳥の声が聞こえてきたり、低い場所のガラスでは水の流れる音が鳴っていたり、というような形で、実際の自然空間で鳴っているような環境音を、このトンネルの中に取り入れて再現しています。この空間の中では、ガラスの断片から聞こえてくる音を再構成されていくという考え方で、例えば、空間の中で川の音が右から左に流れて行ったり、波の音が流れて行ったり、鳥の声が空間の中を動いていく。通常のスピーカーだとLとRの2つのチャンネルですが、24ものマルチチャンネルを使って音をコントロールしています。

 

 今回のプロジェクトのポイントの一つとして、どのようにしてガラスから音を出すのかというのがあります。音を生むガラスと聞くと、ガラスからそのまま音が出るのかなぁ、と思うかもしれませんが、そうではなく、すごくきれいに音の鳴るガラス、なんですね。ガラスに振動子という、振動させる機械をピタッとくっつけて、ガラスを振動させるわけです。ただ、そういうようにしてしまうと、振動子が鳴っているように見えてしまう。この画像でワイヤーが見えますよね。このワイヤーの下に振動させる装置が埋まっていて、振動を糸電話みたいな原理でガラスに伝えているのです。そうすることで、ガラス全体が振動して音を出す、という仕組みなのです。これが相当、大変だったのです。(動画を見せながら)これが最初に作ったモックアップです。*振動の仕組みを解説。

 

また、ガラスの吊り方をどうしようかと議論しまして、今回のために、すごく小さなボルトをガラスに埋め込むような加工をしていただきました。建築の設計をやっていると、ガラスというのは非常に専門性が高く、ディテールまでは僕らで設計できない部分があります。今回はAGCさんとコラボレートすることによって、こういう特殊なディテールをできたと考えています。*ムービーで実際の展示場を紹介。
AGCさんの基本的な姿勢としては、ミラノで展示することによって、いろいろな企業さんや人とコラボレートする機会を探したい、ということだったのです。そういう狙いの中で、僕としてはある一つの予定されたイメージをつくるというよりは、素材としての可能性を提示してあげたいと考えました。そのために風景のようなものがキーだと思っていて、見た人、聴いた人が、それぞれの感受性でそれをとらえてもらう、可能性を感じてもらうのが大事かなぁ、と考えていました。こういう風に使えますよ、と限定をせずにプレゼンテーションするのが大切だと思っていて、例えばガラスはすべて透明のものを使ったのですが、そのガラスに色を付けていくのは皆さん方だという、ちょっと引いたような視点というか、おおらかな空間をつくるのが大事だったのかなぁと感じています。以上です。

 

山田 ありがとうございます。私も会場にお邪魔したので、捕捉的に少しお話しします。この空間は、ミラノ中央駅の高架下に当たる部分なので、東京でいうと有楽町の高架下にあるお店のような空間で展示が行われた次第です。実際に空間内を歩くと、各ガラスのパーツそれぞれに与えられている音が異なるので立体的に感じるのです。鳥の声が大きく聞こえるところもあれば、そこから離れていくと、木々のざわめきや葉のこすれるような音が聞こえてきたり、実際に森の中を歩いているような感覚に襲われます。それはこれだけの枚数の(ガラスのスピーカー)があるからこそ、体験できるわけです。このスタジオの1階で体験なさったのとは違い、より複雑な環境を楽しむことができたと感じています。で、萬代さんにお聞きしていきたいのですが、あの空間は、割れたガラスの一瞬を止めたような構成になっていましたが、どのようなコンセプトでああいう「時が止まった空間」を考えられたのでしょうか。もちろん、実際に歩くと音の流れがあるので、体感では時間が止まっているとは思えないのですが、こういう写真だけを見ると、どこかそういう雰囲気もありますね。

 

萬代 時間が止まっている、というのは非常に重要なコンセプトです。先ほど、最後に「風景」(=scape)という話をしたと思うのですが、時間が止まっていると、音だけが目立つような状況があると思うのです。音が動いていくことだけが目立つ。それと同時に、空間の中を人間が歩いていくということで分かりやすくなる。例えば、ガラスが動いたり、色が動いたりという状況を排除し、音だけが動いていくのを際立たせたかった。

 

山田 そうですね。だから非常に静的な空間でありながら、動的な空間になっているということを、あの会場に足を運んだ人は分かる。それでは、この音を生むガラスの詳細について、AGCの秋山さんからお話ししていただきたいと思います。秋山さん、音を生むガラスというのは、どういうものなのですか?

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