イベントレポート詳細Details of an event

第56回 AGC studio デザインフォーラム AGC studio Exhibition No.12 「新しい建築の楽しさ2014」展連動企画 「居場所をつくる」

2015年2月19日(木)
講演会/セミナー


中崎 みなさんこんばんは。第56回のデザインフォーラムを開催します。今日、発表していただく方々のプロジェクトは、それぞれ保育園、幼稚園、高齢者施設ということなので、「居場所をつくる」というテーマ設定にしました。まず、保育園を設計なさった松島さんからお願いします。

 

 

松島 松島潤平です。よろしくお願いします。今回の展覧会に出展させていただきました、僕の地元である長野県飯田市につくった「育良保育園」をご紹介したいと思います。
 長野は、長野市を中心にした北信地域、また上田や佐久、軽井沢などの東信地域、松本から木曽にかけての中信地域、そして諏訪から伊那、飯田へと下る南信地域に分かれていまして、飯田市はこの南信州に位置していて、文化的にはみなさんがイメージする「信州」というよりも、静岡や名古屋など東海地域の影響が強い地域になります。方言も三河弁に近いですね。地図で見ますと、長野県の中央に諏訪湖があり、そこから中央アルプスと南アルプスの間に天竜川が流れています。その流域、山脈に挟まれた南北に細長い盆地を伊那谷とよび、その南端部が飯田市になります。

 

 飯田中心部の航空写真を見ますと、北から南に流れている天竜川に対して、西から流れてきて天竜川に注ぐ支流があります。中央アルプスの水を集めた「松川」という田切川です。そして、松川が削った河岸段丘地形が基本的な飯田市の地形を形作っており、松川の北側にある台地が旧市街で、その突端に飯田城跡があります。城跡には飯田市出身の原広司先生がつくられた飯田市美術博物館が建っています。一方、この対岸である南側の河岸段丘頂部の際にあるのが「育良保育園」の敷地です。

 


 飯田市立美術博物館のあたりは周辺全体が城跡で、私が通った小学校もそこにありました。日本においては「城跡に何をつくるか」というところに自治体のスタンスが現れると思いますが、飯田市は学校や美術博物館など、教育に力を入れるスタンスをとってきたわけです。城近辺の環境は僕の原風景になっていて、段丘頂部から松川を挟んで対岸にある丘を見る、ダイナミックな殿様的眺望がいつも視界にありました。そして子どもの頃の僕らは、城跡の校庭だけでは飽き足らずに、裏手の崖に降りて遊び場を開拓して行くような放課後を過ごしていました。大きな段丘地形の空間構成に対して、その表層に草花や動物、史跡といった小さなテクスチャーがぎっしり張り付いている状態を肌で感じていました。そんなわけで飯田につくるならば、そういう世界を再現するような建築が想起されました。原先生の建築にもそうした要素があると思っています。

 

 さて、「育良保育園」の敷地は、松川南側の河岸段丘頂部、育良神社の鎮守の森に囲まれた素晴らしい環境です。旧園舎は築40年ほど経っており、園児の増加で増築を重ねて迷路的な空間になっているうえ、老朽化も進んでいたため新しくしたいということでした。とはいえ、旧舎の迷路的状況は僕も嫌いではなく、子どもにとっては楽しい空間だろうと思いました。赤い屋根がシンボルになっており、それを継承することで育良保育園の歴史を継承してほしいという与件がありましたが、採度の高い赤をこの緑の中に差し込むのは少し抵抗がありました。周囲の緑は一様ではなく、彩度、明度、色相が様々入り乱れていますので、そういう緑の色ムラに対して、ムラのある赤で馴染ませようと考えました。そばにある育良神社の塀を見ますと良い具合に錆びた鉄板でできていまして、それに似た赤錆色の屋根にしました。西洋瓦を模した特殊塗装のガリバリウム鋼板です。

 

 鎮守の森の中に保育園が間借りしている敷地なので、園庭の面積が限られています。条件のいい南側にすべての部屋を並べられず、積層せざるを得ません。しかし上下層で学年やクラスの関係が断たれないようにしたい。そこで、地面の下がる暗い北側を0.5階として「A.お昼寝に適した静かなスペース」、南側は1階として 「B.園庭と連続する活動的なスペース」、更に0.5階上部の北側2階は図画工作などを行う「C.座学スペース」として、室の環境と役割を積極的に分け、学年単位でトリプレット形式となる保育空間としました。

 

各学年2クラス編成ですが、3つのスペースがあるので必ず1つスペースが余ることになります。こういう空いたスペースを2歳以下の「未満児」たちが使用できるようになっています。0.5階と1階は建具で南北方向に、2階は可動棚で東西方向に一体化できるので、色々と利用の仕方を選択できるつくりになっています。また、敷地東側には半屋外の大階段を設けました。園庭の面積を補完しつつ、0.5階から2.5階までをつないで、建物内外に渡る立体的なサーキュレーションをつくっています。運動会等イベント時には父兄の観覧席になって盛り上がるスペースにもなります。というわけで、この建物は全4層のスキップフロア型保育園になっています。

1 2 3 4 5 6 7 8