イベントレポート詳細Details of an event

第52回 AGC studio デザインフォーラム
AGC studio Exhibition No.12 「新しい建築の楽しさ2014」展連動企画
「新しい設計体制を構築する」

2014年12月10日(水)
講演会/セミナー

第二部 トークセッション

 

中崎 どうもありがとうございました。では「新しい設計体制を構築する」という今日のテーマについて少し議論したいと思います。まず、建築家のリーダーシップについて話したいのですが、先ほどの集団設計の中で、藤村さんはどのようなリーダーシップをとっておられるのか、ということを聞きたい。

 

なぜ、そう考えるのかというと、リーダーというのはフォロワーがいて初めてリーダーになる。リーダーシップというのはリーダーとフォロワーの間に起きる現象であり、その現象をどのようにするかを決めるのはリーダーです。成熟社会では目標を共有しにくくなっていると思うのです。まず参加する人の価値観が多様化している。そのような価値観が多様化したフォロワーの能力を活かしながら、1つの目標に向かう場をつくることが必要になってきている。そのようにフォロワーの能力を活かすこともこれからの建築のつくり方であると思うし、そうすることでできたものに対する評価も高くなると思う。

 

建築の設計というのは、プロセスが重要ですから、そのプロセスの中のリーダーシップのあり方、また評価という意味でのリーダーの役割、参加の仕組みをつくるのもリーダーの重要な役割だと思うのです。今回の藤村さんのプロジェクトは鶴ヶ島から始まり、プロジェクトが大きくなるにつれてリーダーシップもそれに合わせて変化していっているのか。その辺りのことからお聞きしたい。

 

藤村 ご質問、ありがとうございます。リーダーシップの取り方としてはずっと同じイメージです。少人数のチームのときの議論の引き出し方は、小さな住宅から都市までスケールを横断して同じイメージです。

 

今日的なリーダーシップのあり方、あるいはリーダー像に関して思い出すのは、丹下健三です。豊川斎赫さんが『群像としての丹下研究室 戦後日本建築・都市史のメインストリーム』という書籍を書かれました。丹下研究室というのは言わずと知れた巨匠である丹下の研究室でありります。

 

『1本の鉛筆から』という丹下さんの本があり、あたかもアーキテクトが1本の鉛筆でさらさらと描いたものが元になって設計がなされるというイメージもありますが、『群像としての丹下研究室』では、模型を囲んで、丹下さんがディレクションする下で磯崎さんや神谷さんがいろんな案を出していった、ということが明らかにされている。丹下健三さんのつくり方はチームワークなんですよ。同様の例として伊東豊雄さんも有名ですけれど、やり取りをしながら伊東さんが案をつくっていくという話があったり、妹島和世さんも、事務所内で1人3案の案出しを延々と続けたということが語られています。

 

他方でボスが絶対的なスケッチを描いてヒエラルキーを崩さない安藤忠雄さんのような人もいる。よく言われるのは、設計事務所でタレントがたくさん出てくるような、丹下さんとか、伊東さんとかの事務所では、よくディスカッションしている、と。逆にディスカッションしない事務所ではタレントは出てこないと言われる。建築家の事務所にもいろいろあると思うのですが、丹下、伊東、SANAAなど、日本でプリツカー賞を取っているような事務所は、みんなディスカッション型であるというのが面白いと思います。一般にディスカッションするとか、ファシリテーションして集団設計をするとなると、よく早稲田大学の卒業設計が挙げられ、作品の強度が失われるのではないかというイメージもありますけれど、私はそうではなく、むしろクリエイティブにするためにはそれが必要条件であるくらいに思っています。自分は、そうありたいわけです。日本的な考え方で、「消えるリーダーシップ」というものもあり、リーダーシップが消えれば消えるほどカリスマ性が上がると言われますが、そういうものを目指しています。

 

中崎 どうもありがとうございます。稲垣さんの設計事務所Eurekaは、意匠が2人、構造が1人、あとは環境の方だと。そこでのリーダーシップはどのようになっているのでしょうか。

 

稲垣 そうですね、役割分担は意匠、構造、環境とそれぞれあるので、私たちがクライアントに対して仕事の枠組みを決めていくということや、私が構造や環境に対してコンサルテーションしてもらうということについていうと、それを外注している事務所と、それほど大差はないのです。プロセスを共有する、1つのチームとしての体制を持っているからには、他と違うやり方をしなければならないという意識を共有しているだけですね。例えば私に特別なリーダーシップがあるわけではない。構造や環境の人たちは、それぞれに大事にしていることは当然違いますから、一緒に取り組む時に重きを置くことはみんなそれぞれ違っていると思います。
br /> 先ほど藤村さんが、設備設計の鈴木さんのお話をされていましたが、あのように設備設計の方の希望を掬いとれるような藤村さんの能力、実践は素晴らしいですね。自分のイメージを実現するためにその技術を使うということは当然と考えますが、パートナーたちと共有できるように理念を重ね合わせ、ストーリーを作り上げることを、自分たちは共同の方法としてやっているような気がします。

 

中崎 ここまでの話は設計チームの中のリーダーシップ論でした。一方、建築全体でいうと、クライアントがいて、建築家とクライアントの間のリーダーシップ、つまり対クライアントのリーダーシップとはどういうものか。さらに対社会でも建築家のリーダーシップをどのようにすべきかを話していただけますか?

 

藤村 最近、カタカナの「アーキテクト」という言葉がよく使われるようになっています。例えば情報工学分野では、ソフトウェアの互換性を保証するための基盤のことを「アーキテクチャ」と呼びますね。そのIT分野での「アーキテクチャ」を設計する人のことを「アーキテクト」と呼び、いま、カタカナでアーキテクトと書くと、プログラミングの基盤を設計する上位職として再定義されているところがあります。それが転じて、例えば法律などの分野でも例えばローレンス・レッシグという人が『CODE』という本を書き、現代の権力の類型として「法、市場、規範、アーキテクチャ」ということを言ったりして、法律分野の人も最近はアーキテクトという言葉を使うようになってきています。

 

そういうようにアーキテクトという言葉が拡大していく中で、最近、アーキテクトというと一般的には「課題を解決するためのビジョンを示す人」ということで政治家のことを指したりするのです。なので、今、建築家はあまりアーキテクトだと思われていません。本家本元がアーキテクトと思われていなくて、建築家はむしろ「デザイナー」とか、「アーティスト」として理解されているような気がします。

 

時代によって建築家の見方、呼び名は変わるのですが、確かにかつて建築家こそがアーキテクトだった時代もあります。建築家が社会の解決案を提示してビジョンを示していた時代ですね。その転換点が1960年代末だったことは明らかです。1960年代までは建築家がちゃんと社会の行く末を示していて、例えば丹下健三さんが東海道メガロポリスと言って軸線を引けば、確かにその方向に都市が発達するようなイメージをみんなで共有することができた。しかし、後に田中角栄の列島改造論が出て、工業都市を分散配置するということになって、丹下さんの集中型の都市像からリアリティが失われた。そして建築家は段々情緒的な、表層のほうに流れていきました。

 

そのように建築家がアーキテクトでなくなって久しいのですが、また時代が変わってきて、都市が縮小する、高齢化して人口縮小する、ということになり、ようやく建築家がアーキテクトに戻ってきた。つまり社会の問題解決をする、社会の課題を抽出して解決策を示す、そのためのビジョンを示すとか、そういうロールモデルが復活してきた。例えば新潟県の長岡市長はもともと建築を学んでおられました。森民夫という人ですが隈研吾さんと組んでコンパクトなまちづくりを実現するための施策に取り組んでおられます。そのような都市全体の構造を問題にして、それを解決するような広域的な視野を持って、示していく。世界で言うと、シンガポールのリー・クワンユー大統領だとか、ソウルのイ・ミョンバク市長とか、ニューヨークのマイケル・ブルームバーグ市長などがいたわけですけれど、そういう人たちは都市経営に際してみな空間的な戦略を持っていた。私は社会のリーダーシップというのは、文化的な側面というよりも、政治的、政策的な側面から社会をリードするイメージが復活して来ると思います

 

稲垣 藤村さんのように、リーダーシップを発揮する立場になく(笑)、想像するしかないのですが、私たちが取組んでいる仕事の中でも、クライアントがある程度のビジョンを、要望として示して来られるものから、一緒にプロジェクトのコンセプトやプロセスをデザインすることや、マスタープランをワークショップを通してつくりあげたいという、パートナーシップに近いものを求められていることがあって、「ああ、(建築家とは)そういう仕事なんだな」と実感することがあります。
そういった時に、リテラシーを高めるようなことだけでなく、納得のプロセスに変えていくというか、自分だけが全ての情報を持って権力化していくようなリーダーシップではなく、情報を開示してプロセスそのものを透明にしていくということが大事だと思うのです。たくさんの関係者に禍根を残すきっかけをつくらないように、ストーリーと言うか、物語を発現させる力や意志が、リーダーシップに求められていると考えます。
*この後、会場からの質疑応答もあり、主に両プレゼンターのプロジェクトに関する補足説明、建築家と政策、公共との関わり方、またEureka内での役割分担、共同設計などについて話し合い、終了した。

 

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