イベントレポート詳細Details of an event

第52回 AGC studio デザインフォーラム
AGC studio Exhibition No.12 「新しい建築の楽しさ2014」展連動企画
「新しい設計体制を構築する」

2014年12月10日(水)
講演会/セミナー

稲垣 続いて2つ目のテーマ、「ポスト車社会と新しいパブリック」についてお話しします。地域社会の中での建築のあり方について考えるものです。ここでは主に車道をサーキット状にした配置計画からお話しします。この図は都道府県別の自動車保有台数です。真ん中の赤い部分が愛知県岡崎市を示したもので、非常に多いということ、ダントツの1位になります。敷地周辺の住宅地に目を向けてみると、70年代から徐々に宅地開発がなされ、それが飽和した中、住宅地の風景というのは、異様にアスファルトで覆われ、車がたくさん並ぶ駐車場のランドスケープが存在感を持っています。生活に結びつかないような、この写真のような外部空間が非常に貧しく映ります。車と住宅の関係を考えてみても、こうしたステレオタイプを打破したいという思いが初めにありました。

 

現在の夫婦共働きという社会では、1世帯に2台の駐車場を持つことが大前提となりますが、ここでは9軒の長屋を設計することが条件でしたので、18台分の駐車場を要し、安易な設計を行うと敷地の半分以上が駐車スペースとして覆われてしまい、周辺に広がっている風景とほとんど同じになります。貧しい郊外風景に加担するようなことになってしまいます。それを変質させるようにと考えました。ここに表しているのが、左から1、2、3と時系列でスタディーしていった経過をダイアグラムで表したものです。駐車場はグレーの部分、道路に対して固まってしまうような現れ方ではなく、中央に建物を黒い塊として置いて、ぐるっと縦列駐車する場所を(私道のかたちで)廻して設け、分散させてみてはどうか、とうことを考え、そこから外部空間を抱え込むようなコートビレッジという形式に移行し、最後に光や風が通り抜ける環境として配置計画を考えるに至ったわけです。

 

これが最終的な配置計画です。茶色の部分がサーキット状と呼ぶ車路の部分で、ここを一方通行でぐるっと廻りながら車を縦列駐車する仕組みです。現在の航空写真です。車路を見通すと、このように砂利を敷いた部分です。一方、ウッドチップの部分が駐車場になっていて、そこに車を止めます。先ほど解説しましたが、地上部分に連続する外部空間がたくさんあるので、そういうところとリンクしてこの車路が非常に立体的な空間になっていて、車のためだけのスペースではない、という雰囲気ができているのではないかと思います。
愛知県の車の保有台数は非常に多いのですが、自家用車の世帯当たりの保有台数を表したグラフを示すとこうなります。将来的なことを勝手に予測しますと、高齢化や人口減少で車は減っていくと思われますので、また先の話になりますが、建物を囲むように配置された駐車スペース、現在、18台分ある駐車スペースは、いずれ変化し、車もコンパクトになるだろうし、車がシェアされる可能性もありますし、周りに菜園やドッグランなどができて、地域により開かれた長屋になるのではないかと考えております。郊外の住宅地にある賃貸の集合住宅は地域に対し閉鎖してしまいがちですけれど、それを変えたいという思いもあります。

 

次に3つ目の「変容するライフスタイルと空間運営」に関して話します。各住居は建築用途として、集合住宅として住んでいる方もいらっしゃいますが、居住者が何かを営まれるような空間もつくっており、それをアネックスと呼んでおります。この写真は1例ですが、この10㎡にも満たないようなアネックスをSOHOや職住兼用のものにできないかと考えていました。初めは学習塾程度のことを視野に入れておりましたが、現在、設計した私たちの期待を超えて、こちらの写真にあるように、軒下の半戸外部分も活かして(小規模ながら)有機野菜を売る八百屋さんや、ネイルサロンを営まれる人まで出てきています。
こういったアネックスが集合住宅に来客を招いたり、外部から生活を覗かせたりするきっかけをつくることができ、物理的な風通しだけではなく、文化的にも風通しの良い空間を目指せています。このアネックスで仕事をされている方は、共働きで日中に家から出てしまう方に比べればコートビレッジに滞在する時間が非常に長いですから、自然と住民のコミュニケーションの核になっています。この写真のように八百屋さんが定期的に料理教室を開催しており、家に居ながらなかなか外出できない入居者の、赤ちゃんのいるお母さんが居たりするのですが、そういう人がここに訪問したりして、プライベートな付き合いが起こってきます。これら全ては、設計当初から想定していたわけではないのですが、職住近接やSOHOという暮らし方を実現するだけでなく、集合居住の空間をマネジメントしていくうえでアネックスはキーストンになるのではないかと考えています

 

このようなアネックスを設けた理由について、プログラムの面からも触れたいと思います。これは日本全体における世代構成の変化を表したグラフです。2010年を境にして単身者世帯がトップになっており、愛知県でもまったく相似形となっています。初期の設計条件は、若い夫婦が限られた時間に住んでいて、平日は2人とも外に出ており、結果的にあまり建物を傷つけずに転出してくれる、という管理上の優等生を望む考え方がオーナーサイドにありました。しかし、先ほどの世帯構成に代表される社会変化を前提にすると、それは現実的ではない、という結論になります。そこでバリエーションをつくって、岡崎という地域でも自営業をする人が出てくるだろうと考え、現在のプランを出したわけです。

 

実際の入居状況がどうなっているかと言えば、次のようになります。アネックスは9軒という住宅に対して5部屋バラバラで借り増しをできる仕組みにしています。それが現在このような組み合わせで借りられています。こういうアネックスを利用する人がいるおかげで、外からの人も来て、賃貸住宅が地域に開かれた状況になっています(平面図で示しながら、アネックスの配置と住居とのつながり具合等を詳しく紹介)。今後、居住者が変化していっても利用者や利用形態が交換可能な設計にしてあります。中長期的な賃貸居住として重要なインフラにもなると考えております(各入居者の利用形等を平面図と写真を示しながら紹介。アネックスは八百屋、ネイルサロン、ウェブ製作のデザイン事務所等として利用されている)。

 

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