イベントレポート詳細Details of an event

第51回 AGC studio デザインフォーラム
AGC studio Exhibition No.12 「新しい建築の楽しさ2014」展連動企画
「リノベーションは多様化する」

2014年11月20日(木)
講演会/セミナー

中崎 今後の日本社会は人口減少が続くわけですから、空き家が増えていくのをどうするかが大きなテーマですよね。1つは壊してしまうのがよく、でも壊してしまうと固定資産税が上がるから壊さない、と。だからリノベーションするか、空き家のままにするか、という状況だと思います。既存のものの活かし方は、重要なテーマで、それを少しずつ変えていくのが大事です。そしてそれは建築ではなく、都市のスケールでリノベーションが始まるのではないかと思っており、いま、水辺と屋上、公園、通りに注目していて、そこを変えていくことについてフォーラムや展覧会でみなさんに伝え、問いたいと思っています。栗田さんは、今回のプロジェクトを通じて、水辺のリノベーション、ウオーターフロントをどのようにリノベーションしていけばいいと思われましたか。

 

栗田 水辺の中でも特に運河沿いというのは実は非常に難しい壁を乗り越えなければいけません。ああいう運河ですと、河や池とは違い、海に面していることになり港湾局の管轄になります。そうすると、世の中の人が、こうすればいい、ああしてほしい、という希望や需要、提案がそのまま通るわけではありません。特に港湾局の中でも、「運河に人を呼びましょう」ということを推進する考え方と「それは良くないのでは」という考えが混在しています。やはり、運河ルネッサンス系の規制緩和的考え方と、防災の立場があり、津波が来たときのこと、災害に関する行政上の問題などもありまして、難しいところがあります。少なくとも防災的なことをきちんとチェックできないとまずいですし、規制緩和的な考え方と防災をうまくバランスさせ、マッチングするかが重要になります。それができれば、港湾局との話し合いがうまくいけば、だいたいのことはうまくいきます。

 

中崎 先月、南砂にある東京湾マリーナというヨットクラブから、運河専用に建造した5人乗りの船で、江東区、墨田区、中央区、千代田区、港区、品川区など運河と河を巡ってみたのです。例えば神田川で下からお茶の水駅を見るという経験は非常に面白かったのですが、3時間かけて運河を巡ったところ、どこにも停められなかったのです。途中でお茶を飲みたいと思っても、飲めるところがないし、景色としても美しくないのです。1度目の体験としては興味深いのですが、「もう1回乗りたいか」と聞かれると「もういいかな」と感じます。そういう状況が東京の水辺空間に存在します。

 

ところで、地域コミュニティが重要だと言われておりますが、私は面的にまとめていくのは難しいと思っています。一方、「通り」の単位でそういうことができるのではないか、という気がしており、温泉街も通りに面してできていますね。そこは変えていけるだろうと思っています。通りがあって建築がある場合、建築のファサードが通りに面しており、その前の広場も通りに面しているのですが、私はファサードと広場を「インターフェース」と言い換えて、通りを歩く人と、中で生活している人をつなぐようなことをできるのではないかと思います。このインターフェースという考え方について、久保さんはどう思われますか。

 

久保 やはり温泉街の魅力の1つは、温泉だけでなく、街歩きもあり、それが重要になります。しかし、現状の沢渡温泉は、残念ながらそのような魅力に乏しくなっています。それぞれの旅館が自分たちの内部を充実させてその中で満足してもらおうとしています。だから外に出てもあまり魅力的に感じるものがありません。そういう現状に対して、温泉組合のほうではアクションを起こそうとしているみたいです。例えば街の照明をランタン風に変えていくとか、それぞれの旅館の看板を、提灯を使って演出していくなどプロダクトレベルでは少しずつ改善しようとしていますが、やはり建物のファサードというレベルでは一致団結して取り組むのがまだ難しいようです。おそらく中崎さんが言われたように、建物の中と外で変わっていて、今は中で閉じているのが建物の外に広がってくると街の雰囲気も良くなり、各旅館の宣伝にもなると思うのですが、そういう方向性にまでもっていくとなると、それなりの投資が必要です。そういう方向性までもっていければいいなぁと思います。

 

中崎 松井さんのプロジェクトを取材した時に、マルチ・ハビテーションの話も出たのですが、別荘があり、自分の自宅もある、と。首都圏郊外の戸建て住宅地ではどんどん空き家が増えていて、都心部の東京の豊島区でも13.5%が空き家になっているのです。別荘もそうですが、都心の空き家をどのように使い、住む場所をどのように確保していくかが今後の大きな課題になると思います。少し補足すると、都心部では住む場所が欲しくても高齢者や母子家庭などには貸さないという大家がいて、それが空き家率を上げているという状況があります。また郊外の住宅地では1970年代に、自然環境がまだ残っているエリアで子育てをしたいという夫婦が戸建てをつくったのですが、そこで育った子どもたちが、今度は夫婦ともに働くとなった時に、郊外で生活するのではなく、なるべく都心部で生活したい、という現実があるわけです。そうすると、マルチ・ハビテーションを含め住むところをどうリノベーションするかということが大きな課題になってくると思います。大きな話で恐縮ですが、そのあたりをどう考えますか。

 

松井 住む場所をリノベーションするだけではたぶん空き家を解消するのは難しいと思っています。やはり地域そのもの、街そのものを変えていく必要があります。それを本質的に変えるには、極端に言うと、やはり行政や政治が重要です。そこから入らないと難しい。

 

僕が関わっているある地方の物件に、茨城県の家が空き家になっている、というものがあります。いわゆる先代の持ち家だったのですが、そこを手放さずに改修して使いたいという施主さんがいます。彼と話していて感じたのは、彼はまだそこへ引っ越すことまで考えていないのですが、将来、いまの職業から次の職業に移った時に移ろうかな、と人生設計をしながら考えている。その人はずっと都心で生活をしているのですが、将来、茨城に帰って何かをしよう、という話をしています。実際、彼は何をしようか、と話していて実は「市長になって、市を変えたら面白いのではないか」という話をしています(笑)。そういう話を真剣にしています。これは極端な話ですが、やはりそこの市に根付いて何かをやるのでなければ、そこの地域の空き家は解消できないと思います。やはり新しい仕事を見つけてそこで住む、ということにならないとだめだと思いますね。

 

*この後、会場からの質問や発言を受けて、さらに話が進んだ。意見としては「専門家の間ではリノベーションは当たり前の話になってきているが、一般人はまだ知らないのではないか。子どもたちが出て行って、自分の家をどうしようかという時にリノベーションを知らずに困っている人がたくさんいるだろう」との見解や、「空き家問題に関しては世代を超えてシェアをする意識が生まれると、少し変わるのではないのか」という意見が出た。また「リノベーションの意義はそこにある記憶の継承ではないか」という指摘を受け、建物が持つ記憶や歴史の継承に関する意見交換が行われた。その際の発表者たちの主なコメントを添えておく。

 

「リノベーションでは、表象だけでなく、文化の継承がなくてはダメ」(栗田)

 

「建物の記憶を残すべきという考え方は、分かりやすい正義のように思えるが、誰の記憶を、誰のために残すべきかを深く考えるべきであり、新しい価値を付け加えるのも重要」(久保)

 

「場所の記憶は建築に必ずつきまとう。新築でもそうだ。だから、リノベーションでは新しい記憶と古い記憶をつむいでいくのが大事で、リノベーションは新築よりもそれが明確に出るから、それがよりいっそう重要になる」(松井)

 

 

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