イベントレポート詳細Details of an event

第51回 AGC studio デザインフォーラム
AGC studio Exhibition No.12 「新しい建築の楽しさ2014」展連動企画
「リノベーションは多様化する」

2014年11月20日(木)
講演会/セミナー

第二部 トークセッション

 

 

中崎 私は25年以上、建築のジャーナリストをしていますが、15年くらい前に「若手の建築家はリノベーションぐらいしか仕事がない」と言われた時期がありました。その後、リノベーションが注目されるようになりました。しかし現在は、もうリノベーションがニュースにならない時代になってきています。リノベーションは広がってきましたし、多様化もしてきました。そこで、今後は何を対象にリノベーションをするかが重要になると思っています。住宅をただリノベーションするだけでは、もう新しいことを提案するのは難しくて、それはビジネスとして量的拡大をするしかないのだろう、と私は見ています。さて、栗田さんのプロジェクトは水辺をどうするかにつながり、松井さんはシェアという今の価値観と、リノベーションを結びつけることであり、観光地のリノベーションという課題も含んでいました。そして久保さんは観光地ですが、単に旅館をリノベーションするのにとどまらず、沢渡温泉をどうしていくか、という次の課題にもつながっていきます。まず、みなさんが各プロジェクトの話を聞かれて、どう感じたか、というところからトークセッションに入りたいと思います。

 

栗田 自分でもそう思っていましたが、松井さんの発言の中に「時代の変化や社会システムの変化など、そういう変化によってリノベーションの必要性が生じる」といった指摘がありました。まさにそうだと思います。自分が手掛けた水辺のリノベーションも、中村駅のリノベーションも、時代が変化したことで、その時代に合わせる、もしくは、さらに10年後、20年後を見据えてつくり直す、将来にフィットさせる、という発想の仕方がリノベーションのポイントになっていると思います。沢渡温泉でも人口が減ったり、客が変化し、要求が変わったりなどちょっとずつそれを適合させていく。そういう、時代のニーズに合わせたリノベーションであると再認識しました。

 

松井 お2人のプロジェクトは対照的でしたね。栗田さんのプロジェクトは大きな都市計画の中にあるリノベーションのあり方として、倉庫が新しいものとしてどう利用されていくかを研究する内容でした。一方の久保さんは、地方における現状に正面から立ち向かうようなプロジェクトで、両方とも地域にとって必要なことなのですが、新築ではできないことをどうするか、という課題がどちらにもあるのだと思います。おそらく湾岸地域における倉庫の価値観は、倉庫でしか存続できないようなことであって、建て替えをしてしまうと、また違う価値になってしまう。また古い旅館のほうは、あれを新築で建て直すという経済性や選択肢はあり得ないというところからスタートし、今後予測できる需要を見込んで小さなリノベーションを重ねていく方向しか無いので、その2つに共通するのは、新築では対応できない需要や、クライアントに対応していくということをやられているということで、まったく規模が違うアプローチなのですが、まったく同じ論点があると感じました。

 

久保 中崎さんが言われた「リノベーションがニュースにならない」というのは、ずしりと来るところがあります。というのもリノベーションがスタイルになってきて「リノベ・スタイル」みたいなものができてしまったような気がします。

 

僕が学生だった10年くらい前に、コンバージョンやリノベーションという言葉が出てきて、歴史的価値のある建物だけでなく、もっと身近な建物に手を加えていいものにしていこうという価値観が出てきたと思います。それが段々と、特に住宅の分野でそういうものが価値として認められてきて、例えば、いまある天井を剥がして躯体を剥き出しにして見せるだとか、古い味のある素材感などが、最初はインパクトのあるものとして評価されたのですけれど、それがスタイルとして世の中に流通し定着してしまったという印象があります。それと同じようなものを建築家が出していくと、中崎さんが言われたように、ニュースにならない。我々の知恵の使いどころがなくなってきている。だから、それとは違う方向性を改修やリノベーションでは探さなければいけない、という気がしています。

 

今回、紹介いただいたお2人のプロジェクトは、まさにリノベ・スタイルとは違う方向を指向しているので、このような方法もあるのだと勇気をいただき、また大きな可能性を感じました。まず、栗田さんは「見られる建物」としてつくっていこうとして、既存の建物をラッピングするような作り方をされており、なおかつそのラッピングしたものが家具にまで発展していくような可能性を目指しながらやられている。既存の建物とラッピングの隙間を活かそうとしていることも面白いと感じました。松井さんのプロジェクトは、逆に内側からつくっていくというもので、非常に特殊なスケールを持った家具を媒介として建築を更新するという考え方が面白い。それはいわゆるリノベ・スタイルという方向性ではなく、新築でもこのようなデザインの考え方はでてこないと思います。新しい設計の視点があると感じました。

 

中崎 どうもありがとうございました。私の取材記事はケンプラッツというウェブサイトで連載していましたので、記事がアップされるとすぐにアクセス数のランキングが出るのです(笑)。それで、紹介しているプロジェクトが面白いと思っても、リノベーションの物件ですと、1位、2位まで上がらない状況が生まれています。さらに、リノベーションについての記事が10本ほどまとめてアップされた時があるのですが、10位にどれも入っていないという状況でしたね。私の連載に関しては10位以内に入っていましたが(笑)、そういうような状況が生まれていて、とくに建築関係者にとってリノベーションは「新しい情報ではない」という意識が生まれているのではないかと感じています。

 

では、リノベーションがなくなるか、と言うと、そうではないですよね。久保さんが指摘されたように、以前は歴史的建造物の修復という問題があって、その後、私の言い方だと”B級建築物”や”C級建築物”をリノベーションするという状況になってきたのですが、C級まで行くと、もう建て替えたほうがいいのではないかというものまで、リノベーションを付加価値にして残してしまっているようでもあり、建築としての本当の価値や、地域や周辺に対する価値を付与するというものではなくなり、ビジネスとしてリノベーションという手法を使っていて、非常に残念に思います。

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