イベントレポート詳細Details of an event

第51回 AGC studio デザインフォーラム
AGC studio Exhibition No.12 「新しい建築の楽しさ2014」展連動企画
「リノベーションは多様化する」

2014年11月20日(木)
講演会/セミナー

 

久保 こんにちは、久保です。今進行しているプロジェクトとして、まるほん旅館の改修を行っています。その模型を1階に展示させていただきました。まるほん旅館は、群馬県の沢渡温泉にあります。沢渡温泉は、北に四万温泉があり、西には草津温泉があり、その中間に位置しています。四万温泉のような高級イメージはありませんし、湧出量がそれほど多くありませんから、草津のような大規模でダイナミックな温泉地でもありません。温泉の質が良いと言われており温泉通のお客さんが集まるような温泉地です。これは明治40年に描かれた古い絵です。沢渡温泉は縄文時代からお湯が出ていたらしいのですが、江戸時代に最も栄えたと言われます。まるほん旅館は、創業300年という老舗旅館であり、沢渡温泉エリアでは最も古株の温泉旅館になります。

 

こういう背景をご説明すると、伝統的な木造建築の老舗旅館を想像されるでしょうが、そうではありません。実はこの沢渡温泉の街は昭和20年に大火が起き、街全体が丸ごと焼けたという歴史があります。昭和20年に全滅してしまい、そこから復興した温泉街なのです。この写真が大火前の、まるほん旅館の建物の写真です。確かに老舗旅館のイメージですね。外縁を廻した3階建ての木造建築でした。でもこれは残念ながら残っていません。一方、現在の街の写真を見ると、よくある温泉街らしい風情に欠けるかと思われるかもしれませんが、そういう歴史的背景があります。これが現在のまるほん旅館の建物です。昭和初期によくある、木造モルタルの建物です。

 

温泉街のブランドとしては草津や四万温泉にかなわないかもしれないのですが、温泉の質がいいと言われています。というのも、元来は草津の「仕上げ湯」として利用されてきた経緯があります。ご存知のように草津は酸性の、強いお湯なので、湯治で逗留をすると肌が荒れてしまい、それを弱アルカリ泉の沢渡温泉の湯で治す、というような使われ方があったと聞いています。柔らかくて透明な温泉というタイプの中でも質が高いとされます。沢渡温泉にはこのお湯を求めて来るお客さんが多かったようです。

 

しかし、客層が多少変化・減少してきて、何かしら手を打ちたいということを考えておられまして、その相談をうけたのですが、それとはまた別の仕事として、旅館の全体像をきちんと把握したい、ということも依頼されました。というのも、ここの旅館のお抱えだった棟梁が数年前に亡くなられてしまい、全体を把握している人がいなくなったのです。残っているのは、この程度の間取り図だけで、増築を重ねてきたさまざまな図面も消失してしまっているらしいのです。手がかりは、この間取り図しかなく、寸法も所々入っているのですが、測ってみると図面と違うところも多々あります。とにかく全体が分からずに困っているし、建築や消防の法規との関係も把握したいということでした。

 

 その調査を開始しつつ、旅館のオーナーからは、どこかの部分に投資をしたいという話があったので、どこから手をつけるかリサーチをしました。ここが使いづらいとか、ここを変えたいなどといったことをまず、まとめました。まるほん旅館のオーナーは以前に銀行員をされていたため、これまで多くの旅館が投資に失敗するのを見てきた方でもあります。一度にドンと投資をすると回収に時間がかかるし、返済する間に時代も変わっていく。超少子高齢化で、客層が変化していく中で大きな投資をするのは間違いだと考えられていました。そこで小さな投資を繰り返していこう、という方針でプロジェクトを進めることにしました。

 

そこで、最初にどこに投資をするべきかを検討しました。この下に出ているのはボツになった案です。一部を取り壊して露天風呂にするとか、食堂の上の床を抜いて、大きな食堂に変えようといった案です。最終的に、まず、模型で展示している婦人風呂へ投資をすることにし、第二段として食堂と建物のつなぎ目の箇所をデザインするということになりました。そこはちょうど建物全体では、いろんなルート、動線の交差する位置なので、そこに投資をするとリピーターのお客さんたちが、気付きやすい改修になります。また、いつの間にかつながってしまった本館と新館の関係を本来の形にもどし現行法規に適合させられるという利点もありました。

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