イベントレポート詳細Details of an event

第93回AGC Studioデザインフォーラム トークセッション
「ガラスの新たな可能性を探る」

2018年2月22日(木)
講演会/セミナー

ガラスと付き合うには生半可では付き合えない

 

佐野 この時は、小さな建築物をつくることで、いろんなテキスタイルだとか、こういう壁紙だとか、そういったものを含めていろいろと同時に展示できるのではないか、と。そして素材そのもの、本物の素材に触ってもらいたい、と。通常、展示会をやる時は、ものを見せるための白い台というものをつくっておくと思うのですが、そもそも「そういうつくったものは後にはゴミになるだろう」と思って、本物の石の上につくったりして、会場構成の中に溶け込めると面白いな、と思ったのです。それで、知っている庭師さんの材料置き場から、日中に石を5個くらい借りて来まして、ユニックのトラックで運んできて設置し、本物の素材の上につくり、足元にも本物の苔を植えて、毎日水やりをしてもらったりして……。

 

木田 すごいインパクトがありましたよね。佐野さんをヤング・ジャパニーズ・デザイナー・タレントに選んだ理由というのも、伝統的な日本の建築の技を手で持っていらっしゃいながら、プレゼンテーションがすごくコンテンポラリーだと思った点なんですよね。だから、これからも世界で活躍していただきたいと思い、受賞していただいたのですが、これもかなり面白い展示だったですよね。

 

佐野 モノそのものが持っている力があるなぁ、と感じて。僕らがつくりだしただけの箱、そういう見せ方だけのものではないので。そこは面白いと思っておりますけれど。

 

木田 もちろん、これだけでなくて、たくさんのお仕事を、受賞以降の4年間になさったわけですけれど、今日、みなさんに下階でご覧になっていただいた構成の、基本コンセプトは、やぐら?

 

佐野 ええ、そうですね。まぁ、ガラスと木、という1000年以上前から日本人が使ってきた材料ですね。人類としてもそうですし、正倉院なんかにもガラスの宝物があったりして、千何百年前からガラスは日本に入ってきており、正倉院そのものを建てている材料として木材、ヒノキがあって、昔から使われてきていながら、なかなか合わされることのない材料だったわけですよね。なおかつ、ガラスというものは、透明で向こうが透けて見えているんだけれども物質的にはすごく重くて、テクスチャーとしての存在感がある。透けているのに存在感がある、という面白さがあります。そういった素材を柱に使って、いちばん重量が乗っているはずの柱に使って、上にヒノキの梁を乗っけています。

 

木田 すごく、なんていうのかしら、見たことのないものが出てきた、という感じがします。

 

佐野 非常にシンプルな構造ですけれども、ディテールを詰めることが今回、できたかと思います。

 

木田 なるほど、ただ、これは非常に苦労が多かったというか、ガラスと付き合うには生半可では付き合えないというか、それだけ気難しい素材でもあるし、魅力的な素材でもあるのですけれど、その苦労した話を聞く中で、たぶん会場のみなさんもガラスとどう付き合ったらいいのか、と、下階の展示を見て、「ああ、こういう使い方、あり?」と驚かれた方もおいらっしゃると思うので、実現に至るお話を木原さんにも入っていただき、おたずねしたいと思います。まず、いちばん苦労したことって、何ですか?

 

佐野 話をいただいた時は、時間がタイトだったのですが、アイデアを出していく中で、最初は、ガラスで空間そのものをつくるような…

 

木田 壁を建ててということですか?

 

佐野 もっと薄いガラス、今、ここのショールームに展示されているものですが、薄くて曲がる、スマートフォンのカバーなんかに使われているガラスを、編み上げてドーム状に組むことを考えたのですが、(木原さんに)「割れる」と、言われて(笑)。

 

木田 聞くと、すごく素敵に思えますが、木原さん、それはガラスのプロとして、どうなのですか、美しいと思うのですが。

 

木原 つくれないことはないと思いますが、やはり、その中に人が入るとなると、「えっ!」と思いました。それから、時間も限られた中でいろんな検証をしなければいけないので、そのことを考えると、実現させるのは難しいかなぁ、と。

 

木田 今度、時間のあるときにぜひ!

 

佐野 それが難しいとなり、次、ガラスの床でランドスケープみたいなものをつくろうとしたのですが、それも「割れる」と(笑)。それで今度は連続するゲートのようなものをつくろうと考えたのですが

 

木田 鳥居みたいな?

 

佐野 はい。ただ、それも「割れる」と(笑)。その「割れる」という壁がかなり高かった。そういうアイデアを次々と考える中で、昔、透明な素材と継ぎ手、日本の木造建築に使われている伝統的な継ぎ手を組み合わせたようなプロダクトをつくってみたい、と考えていたことを思い出して、それが、「結構、おもしろいね!」という話になり、打ち合わせの流れに入りました。で、日本の木造、木工技術みたいなものとガラスの組み合わせをどうするか、と話しまして、

 

木田 そこまで行くだけでも大変だったのですね。

 

佐野 ええ、けっこう短い期間だったのですが、いくら案を出してもエンドレスな感じだった(笑)ので。

 

木田 木原さんもその時は、ずっと一緒に……。

 

木原 ええ、大変申し訳なかったのですが、否定ばかりして(笑)、自分が嫌になるくらい否定を重ねまして。

 

佐野 それから、ガラスの構造について学び直して、ガラスというのは圧縮に対してはすごく強いのですが、横へ揺れるのに対しては弱く、割れてしまうので、どうすれば、仮に割れても建っていられるものをつくるか、とか。力が柱だけにかからないようにするのには、とか。木原さんや他の構造設計の方と議論していきました。

 

木田 これを構造的に安定させるための話を、木原さんからしていただけますか。多少、難しい話になるかもしれませんが。

 

木原 そうですね。お堅い話になってしまうのですが、まず、佐野さんの考えというのは、あの下階のフロアを全て覆うというか、すべてカバーしたいというダイナミックな構想で、そこはなかなか譲ってもらえないのですね(笑)。例えば、入り口の動線を確保するとか、柱の数があまり増えてしまうと、動線が難しくなるとか、それに対してスパンを飛ばすとか、練り込んでいくとすぐ構造の話に帰ってきてしまう。

 

木田 スパンをあまり飛ばすと、構造的に心配だ、と。

 

木原 そうです。心配になってくる。

 

佐野 あと、材料的にも木材の方がどんどん長くなっていき、4メートル、5メートル、6メートルを超えていくと、今度は木の材料が手に入りにくくなる。その両面で難しかったです。

 

木原 それで最終に近い案が、今、画面に出ているプランです。一応、入り口の周囲をすっきりと確保して、2つのゾーン、右と左のゾーンが囲われたような、いわゆる「やぐら」になる案が出てきました。では、これで壊れないようにしようというか、安定をさせよう、と。構造の専門家に入っていただきました。もちろん、佐野先生は「透明な柱だけで」、画面で赤色になっている筋交いや火打ちなど、斜めの材料が出てくると透明感がどんどん阻害されてくるので、それらを効果的に見せ、ガラスのきれいな柱も残しつつ補強を入れるということでした。

 

佐野 この単独で建っている柱ですね。そういうのがありながら、この右方向に建っているものなどに力を分散させています。

 

木原 これを難しい解析プログラムにのせてもらいまして、この画面のように、梁にはどういう揚力がかかるか、とか、柱にはどのような力が加わるのか、とか……。ガラスは圧縮力に対しては非常に強く、石やコンクリートを凌ぐような強さがあるのですけれど、細長いガラスだと、やはり揺れに対しては、多少曲がりの力がかかってくるのですね。そういうことに関するデータがあまりない中なのです。通常、ガラスの柱というのは、住宅やビルで建築申請しても通らないのです。法規的には構造材ではありませんので……。そこで、このショールームの中で成立させるためには、最低限、どのくらいのところで線を引かなければいけないかと考え、1か月くらい佐野先生とやりとりして、

 

木田 恋人のように蜜月が……

 

木原 いや、厳しい言葉の応酬もございました(笑)。

 

佐野 ハハハハ。

 

木原 まぁ、これで安定するだろうという線までできたのは、そういう詰めがあったからですね。展示の直前まで詰めていました。

 

木田 これは、そういった素材を合わせた場合の構造計算がなされた前例があまりないということですよね。特別なところに頼まれたのですか。

 

木原 ええ、そういう専門性の高いところに頼みました。ただし、その構造家さんも、ガラスの柱の特性というデータを持っていないので、ある程度の仮定をしながらでした。

 

木田 この図は何を示しているのですか

 

木原 これは軸力ですね。柱にかかる垂直力で、これで1トンほどかかっているところもあるのです。人が寄り掛かった場合ですとか、強い地震が起きた場合など、いろんなケースを想定して計算をしてもらっています。もう、刻みの入る段階、木を削らないと間に合わないというスケジュールに来ているところまでぎりぎりのやり取りをしながらでした。

 

佐野 このレベルに来たのは、搬入の3日前くらいでしたよね(笑)。木を角材のまま入れて、現場で刻んでいたような状況です。

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